<第18話:ロイヤルスイートという密室>


「あ~あ。ピカピカ光る大理石の床が汚れちゃった。どうしてくれるの?これから客が使うバスルームだってのに。股から汁をジョボジョボ垂れ流しちゃってさ。
 カッコよく制服姿キメてハイヒールの音鳴り響かせててもさ、客の前でこんなコトしてちゃダメじゃん。金沢さんだっけ?メイク顔とか髪型一生懸命作ってパンプス磨く前に、自分のアソコをちゃんと管理した方が良いんじゃない?」

太郎によって蔑むような言葉を投げつけられる美香であったが、床の上に両手両膝をついて啜り泣くばかりで、それ以上の反応がない。大理石の床には股間から垂れ流した汁のみならず、頬から流れる涙までもが滴り落ち始めた。
そんな美香の目の前、真っ白い床の上に砂時計が現れた。なんの予兆もなく突然に。

「ひ、ひいっ!」

突然のけぞるようにして悲鳴を上げた美香が、今度は床に尻をつけ、両手両足で後ずさりを始めた。

「そ、そんな。。。や、やめて。。。お、お願い。。。」

涙でグショグショになった目を大きく見開き、赤く彩られた口を半開きにして震わせ、首を振りながら後ずさりした美香は、やがてバスルームの出口に向かって振り返った。
恐怖に引き攣った顔で震える美香は、腰が抜けて立ち上がることすら出来ず、タイトスカートに覆われた尻を太郎に突き出し、パンプスの靴裏を太郎に向け、両手両足をついた四つん這いのまま、真っ白い床の上を進み始めた。
ホテル自慢の大理石張りの床はよく滑る。特に美脚を作り出しているパンスト脚などというものは最たるもの、滑るために履いているとでも言いたくなるくらいに。
震えながら四つん這いで進む美香は、そのストッキングに包まれた膝をズルズル滑らせ、バランスを崩して転びそうになりながらも、四つん這いの情けない姿を晒したまま、ひたすら出口に向かって進んでいく。
顔は涙で崩れているとは言え、後ろから見ればスプレーで綺麗に固めたシニヨン、黒ジャケットにタイトスカート、ベージュのストッキング、黒光りするほど磨かれたパンプスは全て健在である。
パノラミックホテルのフロントとして見事に作り上げられた制服姿のまま、震えながら四つん這いで逃げる美香の姿は哀れでもあり、滑稽でもあった。

バスルームの出口まで到達した美香は漸く立ち上がり、後ろを振り返ることもなくフラフラと玄関ホールに向かって歩き始めた。
アソコを襲った振動は、美香が汁を垂れ流して膝をついた瞬間に止んだ。何かを挿し込まれたような異物感は未だにあるが、恐怖にかられる美香には耐えられないものではなく、ただ逃げること、それだけが彼女の頭を占めていた。

目の前に砂時計が現れた時、美香は今朝見た夢を思い出していた。おぼろげにしか記憶していなかった夢が、いや夢の中で鳴り響いていた男の声がフラッシュバックした。

「今日、貴方はとある宿泊客の前で取り返しのつかない粗相をする。そしてその瞬間、貴方の前に砂時計が現れる。その時より明日までの2日間、貴方は目の前の客の言いつけに従い、その身体を提供しなければならない。
 客が貴方の身体に満足すれば、貴方は平和なホテルスタッフとしての生活を続けられる。もし、客の言いつけに従わなかったり、貴方の身体が客を満足させられなかった時、貴方は社会的に抹殺される。」

目の前の客に身体を提供せよ。拒んだり、提供しても客を満足させられなければ社会的抹殺。全くもって滅茶苦茶な話である。ただ、所詮は夢の中の話と思っていた。
が、現実に制服姿のまま客の前で喘ぎ、汁を垂れ流し、そして砂時計が現れた。とても信じられることではないが、現実に起こっていること。それが美香を恐怖に陥れ、逃げること以外を考えさせなくしていた。

広いロイヤルスイートながら、ベッドルーム、リビングルームと抜けた美香は漸く玄関ホールに入った。そして、出口扉に向かってヒールの音をガタガタと下品に鳴り響かせながら進んでいく。
遂に扉に到達し、ドアノブに手を掛ける。ここから外に逃げ出せる。そうホっとしてノブを握って力をかけた美香であったが、何故かノブが動かない。両手で握り直して改めて動かすが、それでもビクともしない。

「ど、どうして!お、お願い。開いて。開けて!お願いっ!」

叫び、左手でドアノブを何度も揺すり、右手でドアを叩く。何度も何度も。しかし、ノブを揺する音、扉を叩く音、叫ぶ美香の声が空しく響くばかりでピクリとも動かない。

「ひ、ひぃっ!ま、また。。。や、やだ。止めてっ!」

必死に外へ逃げようともがくも扉を開けられない美香をあざ笑うかのように、股間に挿し込まれた異物が再び震え始めた。

「あらあら、ホテルのフロントちゃんが部屋のドアを開けられなくなっちゃった?自分のホテルなのにドアを開けることすら出来ず、スイートルームが完全な密室になっちゃったね。
 制服姿で上品にカッコよく振る舞ってたお姉さんが完全に取り乱しちゃって。その無様な姿、凄く良い景色だよ。か・な・ざ・わ・さん。」

後ろから投げかけられた太郎の声に驚いた美香は振り返ると、背中をドアにつけて太郎の方に向き直って立った。
ストッキングに包まれた膝をガクガクさせ、足元のパンプスもグラグラ揺れている。顔を恐怖に引き攣らせながら太郎の顔を見て、赤く彩られた唇の内に隠されている白い歯をガチガチさせながら震え、声すらも出せないでいた。
太郎に言われるまでもない。内側からならドアノブを捻るだけで済む筈がピクリとも動かせない今、ベルを送り出して一人残る美香は、ロイヤルスイートという密室に閉じ込められたも同然。
さしもの美香も、頭の中が真っ白になり、どうして良いか分からないでいた。正しくホテルレディが制服姿のまま客室に閉じ込められ、震えるばかりで何も出来ない図が完成した瞬間である。

「そんな震えちゃって。可愛いねぇ。どうしちゃったの?まだパノラミックホテルの制服着たままなのに、優雅なホテルレディを演じるのはもうお終い?砂時計の意味分かってるんでしょ?逃げちゃダメだと思うんだけどなぁ。」

太郎が右手の指先で美香の顎を撫でながら物知り顔に語り掛ける。間違いない。美香の夢を知り、そして身体の提供を求めている。
美香は恐怖に震えるばかりで言い返すことも出来ず、頭の中も真っ白であった。まるで今朝見た夢の中にいるかのように。

太郎が美香の肩に腕を回し、そして後ろから抱き込むようにして美香を歩かせ始めた。

「お、お願いです。も、もう止めて下さい。」

美香が歯をガチガチ鳴らし、震えながらも何とか声を発した。

「俺に言わないでよ。夢のお告げに従ってるだけなんだから。君も社会的に抹殺されるのが嫌だったら、大人しく身体を提供しなきゃ。ね、日本橋最高級パノラミックホテルのクラブラウンジでフロントをする26歳の綺麗な金沢美香さん。」

フルネームで呼ばれた。年齢も合っている。何処にも書かれていないのに。その事実は美香を恐怖のどん底へと貶めるのに十分なものだった。
震えるばかりで何も出来ない美香は、太郎に促されるまま、玄関ホールに設えられた大型の姿見の前へと歩いていった。



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画像は相互リンク先「PORNOGRAPH」PORTER RIMU様からお借りしています



















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