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<第2話:バスルーム> マスターベッドルームで操作パネルの説明をする美香。興味津々の太郎が細かい質問を交えながら、色々な操作方法を教わっている。 大きな窓ガラスから外光が差し込む明るい部屋で、実演操作をする美香の後ろ姿、特に後頭部で団子状に結われた髪の毛が太郎の視界に入っている。 美香自身は意識していないが、これほど明るい場所で真後ろに立つ太郎には、髪の毛を纏めるネットの網目はおろか、その中で纏められている髪の毛までもがくっきりと見える。 襟足にはヘアピンが左右に一本ずつ入れられ、髪の毛の解れが一切見られない。そんなパノラミックホテルのフロントが見事に作り上げたシニヨンが紫色に輝いている。 メイクがしっかり施された美しい顔。乱れのない制服に髪型。ヌードベージュのストッキングで包み込み、黒光りする7cmヒールのパンプスで魅せる美脚。 見た目だけではない。フロントでの応対に部屋へ案内するまでの立ち居振る舞い。それら全てが相まって、流石は一流ホテルのクラブラウンジでフロントを務める女性という印象を太郎に強く植え付けていた。 「この操作パネルは凄いな。ちゃんと覚えとかなきゃ。ところで、えっと、、、バスルームは、、、あっち?」 太郎が少しキョロキョロしながら美香に聞いた。 「はい。あちらでございます。」 右手を差し出して方向を示す美香に従い、バスルームに向かって太郎が歩いていく。美香もその直ぐ後ろを進み、バスルームの入り口に差し掛かるなり照明のスイッチを入れた。 強いダウンライトの光が白い床を反射し、部屋をより明るく見せる。入口から見て左側にシンクが2つ並び、壁には大型のミラーが一面に設えられている。 そのダブルシンクを通り過ぎた突き当りには大きなバスタブとシャワーブースが見える。 「バスルームも広いわね。ダブルシンクなのも嬉しいし。」 祐佳が楽しそうに語り掛ける。そんな彼女の言葉に頷きながら、太郎が奥へと進んでいく。そして美香も広いバスルームにハイヒールの音を小気味よく響かせながら後に続く。 「真っ白い大理石の床が眩しいくらいに輝いてるな。でも、この床滑りそうだから風呂入った時は転ばないように気を付けないと。それにしても大きなバスタブ。窓が付いてるから外も見れちゃうな。」 「はい。夜でしたら入浴しながら夜景もお楽しみいただけます。ただ、仰る通り大理石の床が少々滑りますので、入浴の際はお足元にご注意ください。」 滑るほどに磨かれた白大理石。それ自体は流石パノラミックホテルと思わせる質の良い石を使っていることを示している。 そんな美香の説明を満足そうに聞きながら、太郎が振り返ってシンクの上に置かれているアメニティを眺めた。 「ところで、あのポーチは何が入ってるの?」 「あ、はい。こちらでございますね。」 質問に答えるべく太郎の脇を進んだ美香が、1歩ずつゆっくりとヒールの音を響かせ、太郎に背中を見せながらシンクに近づきつつ、説明を続ける。 「こちらは女性のお客様用にご用意しております、スイートルーム限定の、、えっ!?」 ガサっという布の擦れ合う音、そして上ずった美香の声がバスルームに響いた。時を同じくして、美香のヒールが奏でていた高く澄んだ音が鈍い擦れるような音に変わり、そして止んだ。 無警戒のままシンクに向かっていた美香の身体は、強い力によって背後からシンクのカウンターに押し付けられ、後ろから伸びてきた腕によって背中から胸に向かって抱き込むように押さえ込まれた。 とっさには何が起きたのか分からなかった美香は、慌ててシンクの鏡を見やった。 鏡には、背後から身体を密着させて抱き着き、美香の頭の脇に顔を寄せている太郎の姿が映っていた。 「お、お客様!?な、な、何を!?お、お止めください。」 驚いた美香が声を震わせながら太郎に訴える。しかし美香の訴えなぞ無視するかのように、太郎のの両手が、広めにとられたジャケットのVゾーンに入り込み、真っ白いカットソーの上から美香の胸を揉み始めた。 「背中が隙だらけだったから、パノラミックホテルのクラブラウンジでフロントをする綺麗なお姉さんを捕まえちゃった。凄く綺麗で気品ある人だと思ったけど、ワイヤーブラの上から揉む胸の触り心地もまた最高だね。震えた声もそそられるし。」 「お、お客様。お願いです。お止めください。」 後ろから抱き着いて胸を揉む太郎に対して訴えつつ、逃れようと両手で太郎の腕を掴み、身体を捩ってどうにか抜け出そうとする美香。が、太郎の力が強く、腕を振り解くことが出来ない。 ホテルが自慢とする床一面に白く輝く大理石張りのバスルームというのも場所が悪い。 脚を綺麗に魅せると言われる細い7cmヒールのついたパンプス、これが仇となり、靴の底が床を上滑りするばかりで身体を支えるのがやっと。とても逃げ出すだけの踏ん張りが効かない。 「大理石張りの床、本当によく滑るんだね。お姉さんの脚を綺麗に魅せてる自慢のパンプスが情けなくズルズル滑りまくって、ヒールが悲鳴みたいな擦れる音ばかり立ててるもん。 カッコよく制服を着こなす一流ホテルでフロントをする美人のお姉さんも、肝心のパンプスがその状態じゃお手上げでしょ。」 もがきながら鏡を見る美香の目には、恐怖に引き攣るホテルレディの顔を鏡越しに眺めて楽しんでいる太郎の姿が映る。 何とか逃れようと必死にもがく美香であったが、床を滑るヒールの鈍い音だけが虚しくバスルームに響き渡るのみで、その場から動けずにいた。 「えっ!?ちょ、ちょっと、お、お客様!?や、止めて下さい。」 涙声になりながら美香が再び太郎に訴えた。カットソーの上から胸を揉む太郎の手が、中に隠しているブラカップをインナーごと鷲掴みにして引っ張り始めたのだ。 「お姉さんのブラカップ掴んじゃった。インナーの外からでも掴んで引っ張ると胸から外せそうだね。もうカップがオッパイから浮き上がってきちゃってるし。」 美香が両手で必死に太郎の腕を押さえようとするが、力の差がありすぎる。バックベルトのホックでしっかり留めているにも関わらず、易々とブラカップを浮き上がらせ、インナーの生地ともども太郎の指がブラカップと乳房の間に侵入してくる。 「お、お願いです。止めて下さい。お願いです。」 完全に涙声。目に湛えた涙が溢れ出すのも時間の問題。そんな顔で助けを求めるようにベルの方を鏡越しに見やる美香。 しかし、どういう訳か、ベルは祐佳と向き合って談笑したまま、美香の惨状に気付く様子が無い。いや、気付くどころか談笑する姿のままピクリとも動かない。 美香には何が起きているのか、まるで理解出来なかった。 前頁/次頁 |