<第9話:2度目の始まり>

太郎の意識が戻り、目を開けると、そこは自分のベッドの上だった。パジャマを着ている。どうやら朝のようである。
周囲を見回し、そして部屋の壁を見た。1993年10月のカレンダーが掛かっている。
成功だ。やっぱり俺の能力は相当に安定してきている。太郎はほくそ笑みながら学校へ行く準備を始めた。

今日は1993年10月20日。そう、俺にとっては2度目の日付。但し、俺にだけ。

太郎は当時と変わらぬ動きで高校へ行き、授業を受け、放課後に部室へ行った。
そう、文学研究部である。

まもなく、ライトブルーのブレザーに同色の襞付きのミニスカートという装いの女子生徒が、黒いロングヘアーをなびかせて部屋に入ってきた。
そう、3年A組、在校中1度たりとも成績トップの座を譲ったことの無い元部長、及川祐佳である。

「あれ、及川先輩。どうしたんですか?」

「うん。久し振り。ちょっと調べ物をしようと思って。ちょっと部屋使わせてもらうね。」

「あぁ、そうなんですか。どうぞごゆっくり。」

あの日と同じやりとり。それもその筈。俺にとっては2度目でも、彼女にとっては初めての日だ。
ということは、1時間経つ頃には。。。

「ねぇ、山田君ってチャリ通だったよね。悪いけど予備校まで送ってくれない?調べものしてたらギリギリになっちゃって。」

ほら、来た。太郎は内心ほくそ笑んだ。

「えっ!?あ、う~ん。加藤先輩どうしましょう?」

太郎は驚くふりをしながら1年上の純也を見た。

「いいんじゃない。だって及川先輩のご指名だろ。行ってこいよ。」

「やった!有難う加藤君。ほら山田君、行こう!」

「あ、はぁ。分かりました。」

浮かない返事をしながら太郎は準備を始めた。
全くあの日と同じ展開。ただ一つ違う事、それは太郎にとっては2度目であり、あの時とは能力の安定性が段違いであること。

支度を終えた太郎は、自転車に乗って祐佳の待つ裏門に向かった。

ストレートのロングヘアーに青いブレザー。その中に同色のベスト。白いブラウスの襟元に赤いリボン。
青い襞付きのミニスカートからは細い脚が伸び、膝下から白いルーズソックス。そして黒いローファー。
あの日と同じ出で立ちで祐佳は待っていた。

そう、これだ。この及川祐佳。素敵な女子高生姿でルーズソックスを巻き付ける憧れの先輩を食べる瞬間。それをどれだけ妄想したことか。
メイクしてワンピースに黒パンスト、ハイヒールで歩く及川祐佳も最高に魅力的だった。あれはあれで最高のご馳走だった。
でも、やっぱり先ずはブルーの制服にルーズソックスで決めたコイツを崩して楽しまないと俺の人生が始まらない。

太郎は自分の欲求を見せまいと平静を装いつつ、祐佳の前まで自転車を走らせていった。
そして、荷台の無いシティーサイクルのバックステップに祐佳が立って太郎の肩に両手を添えると、二人は裏門から走り出した。

「ねぇ、山田君。あっちの道入ってよ。」

「え?あの道は坂がキツいんですけど。。。」

「大丈夫。君なら走れる!だってあっちの方が近道でしょ。」

「えぇ。まぁ。」

祐佳が指し示した道、それは予備校への最短ルートではあったが、人が疎らで、少々アップダウンのキツい道であった。
あの日も同じ事を言われ、ヒーヒー言いながら走った記憶がある。

太郎は指示されるままに、裏道とも言える道へ入っていった。
そう、この道でこそと思いながら、結局緊張と自信の無さで何もできず通り過ぎ、後で後悔と何もできなかった自分への嫌悪感を持った裏道。
しかし今回は違う。祐佳にとっては初めての日。でも俺にとっては2度目の日。遂にこの時が来た。
そう思いながら太郎は二人乗りのまま裏道を走り続けた。

暫く走ると、上り坂に差し掛かってきた。ここからは乗せたまま走るのは厳しい。

「先輩。ここからは無理っすよ。」

太郎は自転車を話し掛けながら自転車を止めた。

「えぇ!?仕方ないなぁ。」

思わせぶりに言いながら降りようとした瞬間、祐佳の動きが止まった。
いや、祐佳だけではない。全ての動きが止まった。

太郎は静かに自転車から降りると、自転車は倒れることなく、その場に留まっている。
そして後ろには、黒いローファーを自転車のステップに掛け、ブルーの制服に身を包んで両腕を前に出し、手を太郎の肩に添える形そのままで立ち、そして固まって動かない祐佳がいる。

大成功だ。前はこんな事は出来なかった。
しかし1年の時を過ごし、女子大学生になった祐佳を弄繰り回し泣かせて遊び、更に時間を戻して今この場に再び来た。太郎にはそんなアドバンテージがある。

3年生の及川祐佳。上下ブルーの制服。ミニスカートから伸びる綺麗な脚。その脚を膝下からフワっと包み込む純白のルーズソックス。
そして陽光に照らされて黒光りするローファーをバックステップにしっかりと掛けた姿。
そうだ。この姿だ。このご馳走に一度はあずかりたいと願い続けていたのに、結局叶わず終わってしまった1年。
でも戻ってきた。念願かなって3年A組の及川祐佳を手に入れる瞬間が遂に来た。

太郎は心臓を高鳴らせながら、魅力的な立ち姿のまま固まる祐佳に近づいて行った。



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