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<第5話:犯罪の要件> フラフラと逃げる祐佳が漸く改札に向かう階段に辿り着いた時、追い付いた太郎がアップにして縛っている祐佳の後ろ髪を右手で鷲掴みにして引っ張った。 「痛い!ちょっ、止めてよ!」 髪の毛を掴まれ引っ張られた祐佳は、両手で髪の毛を抑え、振り返りながら太郎に向かって叫んだ。 しかし、そんなものには構わず、太郎は空いてる左手をスカートの中に差し入れると、ウェストに向かって押し込んでいった。 「いや。ちょ、ダメ!」 上は髪の毛を引っ張られ、下はスカートの中に手を突っ込まれ。祐佳も慌てて片手を下して、太郎の左手を掴んだ。 が、既に時遅し。太郎の左手は既にウェストまで完全に入り込んでいた。 「パンストのゴム見っけ。ワンピースは失敗だったね、先輩。こんな簡単にココまで侵入出来ちゃったよ。」 言いながら掴んだゴムを引っ張り出した太郎。 「やっ!ちょっ!何!?」 太郎の左手を掴んだは良いが、どうして良いか分からず戸惑う祐佳。 その瞬間に、太郎は右手も下してスカートの中に差し込み、左手と同じようにパンストのゴムを掴んだ。 「え!?ちょっ!」 祐佳が声を上げた瞬間。今度は黒い布が丸まりながら膝までずり下げられた。 「ほ~ら。自分で脱がなかったから、俺が下して上げたよ。先輩の黒パンストを膝までね。 こうすると歩き難いでしょ。脱いじゃおうにもハイヒールのストラップが邪魔で簡単には脱げないし、まぁ履き直すにしても俺が掴んでるから簡単じゃないね。 ワンピースにパンスト、ストラップ付のハイヒール。先輩のオシャレは全部俺が襲い易いようにしつらえてるようなもんだね。」 慌てて両手でパンストを抑えようとする祐佳。しかし全てが後手。 太郎は左手で丸まった黒い塊を掴んで履き直せないようにしつつ、右手は髪の毛を掴み直して引っ張った。 「イヤっ!痛いっ!引っ張らないで!」 「遅い遅い。先輩全然俺の動きが読めてないみたいだね。叫ぶばっかで何も出来てないじゃん。 ちょー頭の良い先輩も、こういう時は日頃のお勉強が役に立たないって感じ?評判になってた先輩のオツムって実はこの程度だったんだ。」 太郎は、耳元で囁きながら祐佳の横顔を眺めた。涙を目いっぱいに溜めて、普段は見せたことの無いような酷い表情だ。 「し、そんな。ひ、酷い山田君。。。は、犯罪だよ、これ。。。ぜ、絶対に、、、訴えるからね。。。」 涙声で太郎に抗議する祐佳。叫び続けても何故か誰も助けてくれない。人は居るのに。そんな悲壮な心情がそうさせた。 「犯罪?そうだね。やってることは犯罪だね。僕が捕まって警察に突き出されればね。 でも、証拠がちゃんと揃わないと、お巡りさんも俺のこと逮捕出来ないんだな。」 「証拠?そんなの周りの人たちが見て、、、え!?何これ!?」 周りにいくらでも証人がいるとばかりに見回した祐佳は、自分を取り巻く状況を初めて見て驚愕した。 確かに人はいる。一人ではなく何人も。居るには居るのだが、誰一人として動いていない。 歩いている人、話をしている人。皆その場で行動中そのままに固まってしまっている。 当然、祐佳や太郎の方を見る人はない。 「あ、やっと気付いた?先輩必死すぎて全然周り見てなかったもんね。 そう。頑張って叫んで助け求めてたけど、誰も助けようがなかったんだ。だって、今ここで動いてるの先輩と俺だけだもん。 どういうことか分かる?時間が止まっちゃってるの。まぁドラえもんの世界みたいなもんかな。 だから皆がいる筈なのに目撃者がいないってコトになっちゃうから、お巡りさんも俺を捕まえようがないってコト。だって皆がいるホームの上なのに誰も見てないなんて有り得ないじゃん。」 「そ、そんな。。。」 「だから、大人しく好きにされてた方が身のためだと思うよ。それだけ痛い思いもせず早く終わるし。元の世界に帰れるし。」 祐佳の動きが止まった。表情も凍った。どうすれば良いか分からない。時間が止まるなんて漫画か映画の世界。 いかに頭の良い祐佳とて、現実世界で起こり得べくも無い事態が呑み込めず、頭がフリーズしてる。そんな感じだ。 太郎は、そんな祐佳の変化を見て、勝ち誇ったような気分になった。 呆然とする祐佳の横顔を暫く眺めていた太郎は、顔を更に祐佳に近づけると、左目の周りをベロりと舐めた。 「いや!ちょっと!何するの!?」 我に返って驚いた祐佳が目を見開いて太郎を見た。 「何するって?アイメイク決まってキラキラ光ってる目元が余りに美味しそうだから舐めたんじゃん。この程度で焦ってるなよ。 こうやってベロって舐めるだけでアイシャドウは薄まってラメの輝きもくすむんだね。マスカラも滲んで黒いシミ作ってるし。 頭良かろうが使ってるメイクは普通のだもん、当たり前か。自慢の美貌を維持するのも大変だね。祐佳ちゃん。」 遂に太郎が先輩と呼ばずに祐佳ちゃんと呼ぶようになった。 太郎に舐められて左目の周りのメイクが崩れた祐佳は、目に涙を溜め、怯えたまま太郎を見つめている。 自分では抵抗しても逃れられないし、騒いでも誰も助けに来てくれない。そこまでは理解した祐佳。怯えて震える以外に何も出来ないでいた。 前頁/次頁 |