<第2話:再会の夜>

1994年10月20日21時。サントリーホールの出入り口からはコンサートを見終えて帰路に就く観客が吐き出されていた。

そんな中、20歳前後と思しき女性が二人、楽しそうに談笑しながら駅に向かって歩いていた。
そして駅に着くと、二人は別々の方向に歩いて行った。どうやら帰る方面が違うようである。

新橋方面に向かう地下鉄のホームに入った一人の女性は、直ぐ前を一人で歩く男性を見て、急ぎ歩み寄っていった。

「あれ?山田君じゃない?」

呼ばれた男性は、思わぬ呼びかけに驚いた顔をしながら後ろを振り向いた。

男性を呼び止めた女性、後ろ髪をアップにし、パープルのラメ入りアイシャドウで目元を輝かせ、更にアイライナーでくっきりと際立たせている。
口元も赤い口紅にグロスが乗って、薄暗い夜の地下鉄のホームにいながら、キラキラと輝いている。
鎖骨が浮き上がる程の細身の体で胸元が大きく開いたゴールド系のワンピースを着ていて、肩から掛けた黒いカーディガンは胸元でボタンを1つ留めている。
ウェストをワンピースと同じ色のリボンで軽く締め、スカートの裾は膝の少し上辺り、そこから下は透明感のある黒いストッキングに包まれた両脚が色っぽく伸びている。
背丈はそれほどないが、顔もスタイルも良く、黒く引き締められた細い両脚。その足許には7cmくらいの細いヒールの付いた靴が黒光りしており、足首を同じ黒の細いストラップで留めている。

振り返った男性は、呼び止めた女性を暫く見つめるも、誰だか分からない様子である。

「あ、やっぱ山田君だ。久し振り。変わってないね。って当たり前か。最後に会ってから半年しか経ってないもんね。
 あれ!?もしかして私のこと忘れちゃった?3月まで同じ高校にいたんだけどなぁ~。」

女性はニコニコしながら話し掛けている。しかし男性は中々思い当たる感じがない。が、暫くして、

「も、もしかして及川先輩ですか?」

「せいか~い!よく分かりました。考え込んじゃってるから、思い出せなかったらどうしようかと思ったよ。」

「てか先輩変わりすぎですよ。この綺麗な人は誰だろうって考えちゃいましたよ。」

「あら、そんなに綺麗?嬉しいな。さっきまで友達とコンサートに来てたの。で、今その帰り。」

「え?今サントリーホールでやってたやつですか?僕もあそこにいましたよ。たまたまチケット貰ったんで。初めてのクラシックコンサートってヤツです。」

「そうなんだぁ。あそこにいたのね。丁度よかった。一緒に帰ろう。」

及川祐佳は、2年下の後輩、山田太郎との半年振りの再開を喜びながら、一緒に電車に乗って自宅のある千葉に向かった。

祐佳は、自分が美人の部類に属し、また学業成績も良かったことから、高校時代に男子達の注目を浴びていることくらいは分かっていた。
そして、2コ下の太郎が、自分に憧れの念を持っている後輩の1人であろうことも薄々は気付いていた。
家庭環境も経済的に恵まれていた祐佳は、そんな周囲の視線を感じていることもあり、常に装いに気を払って高校生活を送り、それがまた男子達を惹きつけるという循環が3年間続いていた。

両親からの勧めもあり、名門英明大学文学部に確実に入学して西洋文学をより深く勉強するという目標を確実にするため、本来なら必要とも思われない予備校通いまでした祐佳。
あれから半年が経って、勉強も私生活も共に大学生活を存分に楽しんでる。今日もその1つとして友人とコンサートを見に来た帰りであった。

そんな帰りに半年振りの再開をした太郎は、高校で最後に会った時と殆ど変わっていなかった。
背丈は自分よりあるものの、素直で可愛い2コ下の後輩。祐佳は何時もそんな目で太郎を見ているのだった。
1人で電車に揺られると思っていたのが、そんな可愛い後輩君と懐かしい高校話でもしながら帰れるという、そんな喜びを祐佳は感じていた。

祐佳から見れば、たった半年で何も変わらず、素直で可愛い後輩君であったが、太郎自身の心境はまるで違っていた。

高校時代、制服にルーズソックス、ローファーという女子高生姿の祐佳は、太郎のみならず、二高男子全てが憧れる存在であった。
容姿端麗にして知性抜群。3年間常にトップの成績を取っていた祐佳は、易々と名門私立英明大学に入っていった。
半年前の3月、今までは部活の後輩として度々接してきた憧れの祐佳が卒業する時、自分の学力では入りようもない大学に行ってしまい、もう会えないかもという寂しさが太郎の胸にあった。

そんな祐佳が思いもかけずに目の前に現れた。
しかも高校時代とは違う、上から下まで上品にオシャレを決めた装いで。
電車の椅子に並んで座り、他愛もない会話を交わしている間も、祐佳の魅力的な姿に圧倒されて、ドキドキと心臓を高鳴らせ続ける太郎であった。

駅に止まる度に通勤客を降ろし、徐々に車内が空いてきた。そんな中で祐佳は可愛い後輩君との会話を楽しんでいる。
一方の後輩君は、会話に応じながらも、祐佳の魅力に圧倒され続けている。祐佳の降りる駅が近づく毎に、太郎は心の葛藤と戦い続けていた。
憧れの及川祐佳先輩は、このまま憧れの存在のままでいて欲しいという心。
いや、憧れの先輩は僕に食べて欲しくて、こんな格好して現れたんだという心。

食べられる?そう、何事もなく過ごした予備校への送迎。あの時も葛藤があった。でも、先輩は憧れのままで卒業していった。
あの時は食べたくても食べられなかった。でも、今日その気になれば食べることが出来る。

「あ、駅に着いた。それじゃ、山田君またね。久し振りに会えて嬉しかったよ。」

笑顔で手を振りながら祐佳がホームに向かって歩いて行く。両脚の細いヒールが鳴らす高い音が徐々に遠ざかっていく。

山田太郎。お前は1年前と違う。
アップにして綺麗に纏められた髪の毛、掴んだり食べたりしたら楽しいだろうな。
パープルのラメ入りアイシャドウ、舌でベロベロ舐めたら、ラメが疎らになって、アイライナーも薄くて黒い滲み程度になるな。黒いマスカラも周囲に黒いシミを作るだろうし。
グロスが効いて潤いのある唇なんか美味しそうじゃん。あれをしゃぶるとどんな味がするんだろう?食べてみようよ。あんな潤いは直ぐに消え失せるだろうけど。
胸元の大きく開いたワンピース。あの中は何枚入ってるのかな?手を突っ込んでみない?多分それほど苦も無く柔らかくて弾力ある山を掴めるぜ。
スカートの中はどうかな?ヒラヒラの布1枚だから、捲れば直ぐに中が見える。ガーターなら直ぐに指差しこんでゴールを覗けるし、薄い布が包み込んでるなら、破いて楽しむのも有りじゃん。
引き締められた黒い美脚も、薄い生地を引き裂いて中に隠されたもの舐めるのは簡単。
先ずは足許輝かせてる黒いハイヒールのストラップを外して脱がしてみようか。そんな事が起きるなんて想像していないだろうし、あの素敵な顔がどう変わるか見てみたいと思わない?

見送る太郎の心の中で囁き続けた悪魔の声が大きくなった。
いや、高校時代とは全く違う魅力を太郎に見せつけた祐佳が、可愛い後輩君の野心に火を付けたと言った方が正確かもしれない。

電車を降りて視界から姿を消そうとする祐佳の方を向きながら、太郎は静かに目を瞑った。
周囲の音が一切しなくなり、物の動く気配も全く無くなった。

太郎が心の声に素直に従った瞬間。その時がやってきた。



前頁/次頁

























表紙

投稿官能小説(3)

トップページ
inserted by FC2 system