<第1話:始まりの日>

2013年10月20日19時。クラシカルパノラミックホテル日本橋44階にあるフレンチレストラン。ここで30代半ばの夫婦と思しき男女が食事をしていた。どうやら結婚記念日のようである。

「結婚10周年。だけど、あの時から数えれば20周年なのよね。」

「あぁ、あの時ね。そうだね。確かにあの時からだと20年だ。」

そう、あの時から数えると。。。

-- * -- * --

1993年10月20日。千葉県千葉市内のベイエリアにある県立第二高等学校。通称二高。
ここは、県内トップの第一高校や、それと肩を並べる名門私立高校へ行くほどの学力は持ち合わせない生徒が通う、所謂中堅高である。

秋も深まったこの時期、運動部はおろか文化祭を終えた文化系部活の3年生も、大学受験に向けて部活とは縁遠い生活を送っている。
そんな日の放課後、ライトブルーのブレザーに同色の襞付きミニスカートという装いの女子生徒が、黒いロングヘアーをなびかせて颯爽と文学研究部の部室に入ってきた。

「あれ、部長?どうしたんですか?」

「あら、山田君。私もう部長じゃないよ。引退したんだから。」

「あ、そうでした。及川先輩。珍しいじゃないですか。」

「うん。久し振り。ちょっと調べ物をしようと思って。ちょっと部屋使わせてもらうね。」

「あぁ、そうなんですか。どうぞごゆっくり。」

入ってきたのは3年A組の及川祐佳。文化祭を終えるまでは精力的に部活に励んでいた文学研究部の元部長である。
二高では、文化系部活の3年生と言えども、10月の文化祭まで精力的に活動するのは稀で、大抵は運動部同様に夏の始めで部活とは疎遠になり、予備校通いを始める。
しかし彼女は例外で、つい最近まで部活に励んでいて、漸く受験勉強を始めたという、スロースターターであった。

そもそも祐佳は、二高にとって例外中の例外という存在である。
何せ一高であろうと、名門私立高校であろうと簡単に入れてしまうだけの学力を持っており、当然二高では入学以来常に学年トップの成績であった。
おまけにストレートのロングヘアーで顔立ちもスタイルも良いという、まさしく天が二物を与えた典型と言えるような女子生徒である。

では何故二高に来たかであるが、西洋文学好きの祐佳は、こんな中堅公立高校には珍しい西洋文学研究の第一人者である内田先生が顧問として外部招聘されている文学研究部に入りたいからという理由であった。
内田先生は、二高を卒業した後、東京の名門私立大学である英明大学文学部を卒業し、西洋文学研究の第一人者として活躍しながら、月に何度か部活に顔を出している。
彼女は、その内田先生の元、西洋文学を探求したいとして、二高に入ってきたのだ。

祐佳曰く、「学校の勉強なんて何処でも出来るし、試験の点数さえ取れば大学は入れるから、今やりたいことをするの。」だそうである。
もっとも、こんなセリフは彼女以外は言えないであろうが。

1時間が経過した17時頃、部室にいるのは祐佳の他に1年B組の山田太郎、2年F組の加藤純也の3人のみであった。
調べものを終えた由佳が太郎に話し掛け始めた。

「ねぇ、山田君ってチャリ通だったよね。悪いけど予備校まで送ってくれない?調べものしてたら時間ギリギリになっちゃって。」

「え?だって俺まだ部活終わって無いですし。。。」

言いながら太郎は純也の方を見た。

「良いじゃん1回くらい。今日は先生来てないんだし。お願い!」

「おい、山田。及川先輩直々のご指名なんだから光栄に思え。どうせ今日は他に誰も来ないだろうし。こんな事は二度と無いと思って有り難く承れっての。」

「やったぁ!有難う加藤君。ほら山田君、行こう!」

「あ、はぁ。分かりました。」

二人に促され、太郎は渋々支度をして部屋を出た。

太郎が自転車に乗って裏門まで行くと、祐佳が待っていた。
ストレートのロングヘアーに青いブレザー。その中に同色のベスト。白いブラウスの襟元には赤いリボン。
青い襞付きのミニスカートからは細い脚が伸び、膝下から白いルーズソックス。そして黒いローファー。

公立高校なので地味目な制服だが、祐佳が着ると印象がまるで違う。
ルーズソックス全盛の時代、ズルズルと地面に擦って薄黒くしている汚らしい女子共が多い中、真っ白な生地をフワッと履きこなし、絶妙な位置でローファーに軽く被っている姿が美しい。
ローファーも陽光を反射して黒光りしており、傷や擦り減りも殆ど無く、まるで新品みたいだ。
こうやって一人立つ姿を見ると、まるで女子高生モデルがそのまま目の前でポージングでもしているような感じだ。

純也がいた手前、渋々ながらという態度をとってしまったが、本音では祐佳を後ろに乗せて予備校まで送り届けるだけという話でも、内心嬉しかった。
何せ、太郎が文学研究部に入ったのは、入学直後の春先に、部活見学で祐佳の姿を見て、一目惚れ同然で入部を決めたようなものだったのだから。
予備校までの道を自転車で走るとなると、車も人も疎らにしか通らない道である。そこで憧れの先輩である及川祐佳と二人きりになれる時間。こんなことは二度とないことは、純也に言われずとも分かる。

荷台の無いシティーサイクルのバックステップにローファーとルーズソックスに包まれた両足を掛けて立ち、前に座る太朗の肩に両手を添えた祐佳。そんな彼女を乗せた自転車は、裏門を出て予備校に向かって走り出した。
今日これからの時間が、自分達の人生を変えるような転機になろうとは、この時の二人は想像だにしなかったのだが、、、



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