※※ 女子大生・伊東莉奈 (3) ※※

 お盆が小さいのか皿が大きいのか、一度に二人分しか持てないようだ。テーブルに皿を置いた女の子、一度カウンターに引換し、もう一度ピラフを運んでくる。

 その度に、3人の後輩に「行けって、先輩!」などと囁かれながら、テーブルの下で足を蹴られたりする夏樹。
 しかし一度決めたこと、とこれを泰然と無視する。

「あ~ぁ、折角のチャンスだっつーのにさ」
「俺ならそんな勿体ないこと、できませんって」

 などとブツクサ言いながら、ピラフに手をつける。と、カウンターの様子を伺っていた一人が、目敏く女の子の動きに気が付いた。

「あれっ? もう一度きますよ。さっきの子」
「本当だ。もう注文も伝票も来ているのに、何だろう?」

 女の子はサンドイッチの乗った大皿と、アイスコーヒーを4人分テーブルに並べた。

「さっきは申し訳ありませんでした。これ、お詫びの気持ちですので、召し上がってくださいませ」

 後輩たち3人は、もう聞こえても構うものかとばかりに
「ほら、メルアド、メルアド!」
「骨は拾ってあげますって!」
 半分、ヤケになって夏樹に迫る。

 しかし夏樹は「何ともありませんから、本当に気にしないでください」などと応じている。

 店を出るときも、その女の子がレジの脇で深々とお辞儀をした。
 それにも「気にしないでください」と微笑む夏樹。


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 学園祭から1週間ほど経った部室で。

「あんら~、お嬢。またあの時の彼、思い出してんの~?」

 同級生たちから、からかわれる莉奈。
 実際、あの日以来、ボーっと頬杖をついている時間が長い。
 莉奈のお目当ては、あの中の一番年長に見える男子であることも、とうに問い詰められて、周知の事実となっている。
 その時も「わー、お嬢って年上好みなんだ~」「お嬢はファザコン入っているから、ちょうどかも~」とからかわれたものだった。

 そこにクリスが入ってきた。

「なに、お嬢。まだクヨクヨ考えてるの。そんならいっそ、ラブレターでも書けばいいのに…」
「あ…あの……でも、そんなの書いたことないし……」
「シンドイやっちゃな。誰か、ラブレターの文面、考えてやってよ。ホント、手間かかるやつ」
「は~い、先輩。私が考えてみます♪」

 同級生の一人が、PCに向かってキーを打ち出す。周りに集まった部員たちが「やだ~、それ、やりすぎ」「私だったら、こうすんなぁ」など、思い思いに茶々をいれている。
 やがて書きあがった原稿を、プリントアウトしてクリスに渡す。

「クリス先輩。こんなんで、どうでしょうか?」
「う~ん、オッケじゃないかな。ほら、お嬢。これを手書きでとっとと清書しなよ」

 原稿を受け取った莉奈は、バッグからピンクの便箋と、同じ柄の封筒を取り出す。

「やっだ~、お嬢ったら、ラブレター書く気で、ちゃんと用意してんじゃん」
「隅に置けないねぇ」など囃子声を浴びながら、それでも懸命に書き上げる莉奈。

「あ…の…先輩、これ、ど…どうやって渡せば……」
「バカか! お嬢は。東都工業の学生さんってのは分かってるんだろ。だったら正門のとこで張って、渡すしかないだろが。顔は覚えているんだろ!」
「で…も……」
「え~い! 四の五の言わずに行ってこいって! この上クチャクチャ言うなら、マッパに剥いてグランドに放り出すよ? 行ってこい!」


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 その日、いつものように最後に研究室を出た夏樹。
 のんびりとした足取りで、正門に向かう。
 途中、すれ違った学生たちの「見た見た!?」「うん、見た。すっげーじゃん」などの会話を耳にする。

 正門に近づいたとき、普段見慣れないものに気が付いた。
 工業大学ではほとんどありえないピンク色をしたカタマリ・・・近寄るにつれ、それがパステルピンクを基調とした女の子の服であることが判明した。・・・ははぁ、さっきの会話は、これのことか。そう思いながら、通りすがりに横目で女の子を伺う。



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