第7章 ―知恵の実を口に(1)―

「ん…」

目を覚ますとそこは布団の中だった。
服は乱れ、胸と下半身が露になっていた。

「ここ…水橋さんの部屋…」

そう、ここは彼の部屋。彼に犯され、快楽のあまり気をやってしまったのだ。

「水橋さんは…」
「すぅ…すぅ…」

彼の存在を思い出すのと同時に穏やかな寝息に気付いた。

「寝てる…」

彼は寝ていた。私の隣で穏やかな寝息を立て眠っていた。

「むにゃ…すぅ…すぅ…」
「…」
「ん…」

私は彼の顔に優しく手をふれた。触れると分かるが、その寝顔は非常に無垢でまるで子供だった。

そうか。彼は子供なんだ。
何でも楽しみ、欲しいものは欲しいと言い、手に入れた時は素直に喜ぶ。
そして、欲しいもののためには手段は選ばず、願うだけなんてしない、大人の顔も持っている。

私とは違う。何でも神に祈り、願う私とは。

彼が言ったことを理解し始めた。
神は偶像。願わないと手に入れたいものも手に入れられない者が創った存在。私もその一人。

彼なら、彼の差し出す知恵の実なら、口にしても楽園を追われない。いや、新たな楽園に導いてくれるかもしれない。

私は禁断の知恵の実に口をつけても良いのかもと、彼の顔に手を触れながら思った。





「ん…んん…」

ふと気が付くとまた水橋さんのベッドの中だった。あのあとまた眠ってしまったらしい。

「……」

彼がいない。隣にではなく、部屋に彼の気配がない。
私は服を直すとベッドから降りた。しかし移動が出来ないため、そのままベッドに腰を下ろした。

ガチャッ。
その時、扉が開く音がした。

「お、目ぇ覚めたね。」
「水橋さん…」
「もう遅いし、飯食っていけよ。一美には電話しておいたからさ。」

すぐに食べ物の匂いが漂ってくる。ホワイトソース系の何かだろう。

「…」
「何も入ってないって。ただのカルボナーラ。はい。」

ガシャッ。
彼はトレーに乗せた料理をテーブルに乗せ、フォークを手渡す。

「ここ座って。」
私の手を握り、床に座らせてくれる。

「自分で食える?」
「え…と…まだ完全に見えないというわけではないので。」

「え? そうなの?」
「はい…少しだけ、色と明暗の違いだけはわかるんです。」

「ふぅん…じゃ、食おうか。」
「……いただきます。」

パク…。
一口。パスタを口に運ぶ。
なかなか美味しい。

「おいしい…」
「だろ? 半独り暮らしだからな。ズズッモグモグ…」

水橋さんはマナーに反し、パスタをすすりながら自慢げに話す。
あの凌辱魔の時の水橋さんとのギャップに驚かされる。
今の私と水橋さんは、まるで恋人同士のようだった。

「ズズッ…モグモグ…ゴクッ………ふぅ。」

カランッ。
水橋さんは食べ終ったらしくフォークを皿に投げた。

キンッ…シュボッ。
金属音と共に煙草の匂いが漂ってくる。

「ふぅ―――…ゆっくり食ってな。あとで送ってくから。」
「はい。」

私はまだ唖然としながら彼の言う通りにする。


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