第5章 ―悪魔と神の天秤(1)―

「…以上、昔話でした。」

水橋さんは、ふぅと息を吐きながら。話を終らせた。
驚きだった。それ以外の感想はない。

「これは俺の趣味。炎之花さんは俺の生け贄になってもらうために、ここに来てもらいました。
 コッソリとケータイを取って、取りに来ることを予想してね。…綾香、疲れたろ。もういいぜ。」

水橋さんは綾香さんの上から下りたのか、綾香さんは軽く息を吐いた。

「どうします? 逃げてもいいですよ?」
「………逃げません。あなたを説得します。もとの水橋さんに戻ってください。」

私は声を震わせながら水橋さんの方を強く見た。

「う~ん。まぁ炎之花さんがどう思おうが自由なんですけど…俺は正気です。こんなことをするのも、あなたが好きだからです。」
「なッ!?」

突然の告白。何で?
彼の言葉で私は顔に血液が集中するのを感じる。

「何でそんなことを…?」
「あ―まぁ今言うようなことじゃないですね。すいません。だけど事実です。」

更に彼は続ける。

「俺は別に見境無しに奴隷を選んでるんじゃないです。気に入った人限定です。
 一美は入院中に厳しいけどふと見せる優しさに惹かれ、綾香は気さくな感じで頼れる感じが好きでした。
 炎之花さんは目が見えない障害にも負けず、優しさに溢れ、そのくせ強い意思を持っている。そこに惹かれました。」
「え…あ、じゃ、じゃあ…何でこんな…」

彼の言葉で、私は上手く言葉をつぐめない。

「言ったでしょう。俺は歪んでるんですよ。世間一般で言う浮気男と一緒。好きになったら人数関係無し。最悪でしょう?
 しかも更に問題なのはこの性癖。いませんでした? 小学生の時に好きな女子をイジメちゃうやつ。あれですよ。あれ。」
「だからって…普通に言ってくれれば…」

何言ってるんだろう?
自分でも場違いな言葉だと思う。

「普通に告ったって、炎之花さんがOKしてくれるかわからない。それに俺の本性を知ったとき、変わらず俺に接してくれるわけがない。」

正論だ。告白の受け答えはともかく、彼の本性は驚きだった。事実、今私は彼に脅えている。

「逃げないのなら、俺の手に堕ちてもらいます。」

水橋さんはゆっくりと私に近付き、私の首回りに手を沿え、髪や顔を優しく撫でる。

「んッ…」

ゾクゾクとした感覚が背筋に走る。

「綺麗ですね。艶のある黒髪、白い肌、その光を失った黒の瞳も。」

彼は私のまぶたにキスをする。優しく温かいキス。
私は抵抗と言う言葉を忘れていた。彼に優しく触られ、彼に対する恋愛感情が蘇ってくる。

「み、水橋さん…」
「そんなに脅えないで。レイプなんて無粋な真似はしません。炎之花さんには気持よくなってもらいたいだけです。」

スッと彼の手が私の体に延びる。胸とお尻に彼の手が当てがわれる。

「やッ嫌ッ!」

ドンッ
私は彼を押し退けた。


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