第3章 昔話「性奴隷への誘い」(4)

「今日、学校は?」
「今日は学校全体でパソコン点検だそうで、休みです。」
「ふぅん…」

話が途切れる。いつもならなんてことはない静寂。
しかし今日に限ってはそれが重い空気に感じた。彼以外に客がいないのもそれに拍車をかけた。

「ねぇ綾香さん。昨日の一美さんは綺麗だったと思いませんか?」

不意に放たれる言葉に目を見開く。
昨日の昼間のことではない。確実に彼は夜、私が間の当たりにした一美さんのことを言っていた。

「な、なにが…?」

無様にその話題を流そうとする。昨日の私を人違いと思ってくれることを願って。

「人が苦しむ様…特に自分を慕う人間に苦痛を与えた時の、あの表情、身震い、絶叫…日常でろくに見ることが出来ない表情は、すげぇ綺麗に見える。
 綾香さんはどうでした?」
「…。」

彼の言葉に驚愕する。あのおちゃらけた水橋くんの中に、こんな顔がある。その事への驚き。

「オレは悪趣味だと思いますか?」

「…。ええ。最悪の悪趣味ね。一美さんにあんな事するのも、私に話すのも。」
「くくッ…。まぁそうですね。悪趣味ですよね。…でも綾香さんも同類かもしれませんよ?」

「…何が…?」
「わかりませんか? 綾香さんの顔、真っ赤になってますよ。それにどこか物欲しそうだ。」

言われて自覚する。顔に熱が集中し、体の奥がうずく。
そう言えば最近、旦那にしてもらってない、など下らないことも脳裏をよぎる。

「一美さんがされてる姿を見て欲情したんでしょ?」
「なにを言って…」
「簡単ですよ。オレは言葉で綾香さんをその気にさせ、一美さんと同じようにオレの奴隷にしようかなぁっと、そんな低俗な考えです。」

何をそんなに余裕なのか分からない。その余裕に冷たい威圧感のみを感じる。

「はいそうですか、なんて言うと思うの!? 馬鹿じゃないの!?」
「まぁ馬鹿のは否定しませんよ。自分でもおかしいと思いますしね。」

水橋くんは立ち上がり私に迫る。
客がいつ来店するともわからない状況で、彼は私に手をかけようとしている。

カランカランッ
その時、扉が開いた。

救いの手だと思った。さすがに他に客が居ては、彼も手は出せないと思ったから。

「時間通り。さすが一美さん。」

来客は一美さんだった。彼の言葉から察するに、この時間に来るように言われたのだろう。

「……。」
一美さんは沈黙し黙っている。

カチャ…

一美さんは、後ろ手でドアに鍵をかけ、ノブにかかっていた『開店中』のプレートを裏返し『準備中』にした。

「綾香さん…ごめんなさい……」
「一美さん…」

更に水橋くんが店内の全てのカーテンを閉めた。これで外から店内の様子は見えない。

「さて、これから何が起こるかわかってますね?」
「何と無くね。レイプは犯罪よ。警察に突き出してやる。」

私は少し強気で彼に対応する。ここで弱気を見せれば彼の思う壺だと思ったから。

「ふふ…その内、和姦になりますよ。…一美。」
「はい。」

一美さんは私にゆっくりと近付き、手を握った。

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