第2章 昔話「待ち焦がれた快楽」(1)

リネン室での一件で私の思考は完全に狂っていた。
久しぶりにかぐ牡の匂い。久しぶりに味わう性の味。
グロテスクとしか言いようのない逸物を、目で見て肌で感じた時から、完全に亡き夫のことは思考から消えていた。

しかし、彼は私に快楽を与えてはくれなかった。いや、私の劣情を高めるだけ高めて、行ってしまった。
彼には私が最後までして欲しいことをわかっていたのだろう。
年下の男に悟られ、口だけではあるが体を許してしまった。そのことへの怒りの感情はなかった。あるのはただただ肉欲だけだった。

私は彼が行った後、すぐに仕事に戻った。副婦長と言う立場でありながら仕事に遅れるわけにはいかない。
焦れる下半身のうずきを我慢し、服装を整えナースステーションに戻った。

仕事に戻ったものの、集中することはできなかった。
下半身を守る薄布が無く、牝の匂いを嫌が応にも振り撒き、それが緊張と興奮を呼び、秘部は更に水気をおびていく。

「はぁ…」
「どうしたんですか、六条さん?」

明らかに様子のおかしい私に、部下の指摘がくる。

「な、何でもないの。あ、検温の時間よ。」
「あ、はい。」

なんとか指示を流し、切り抜ける。
本当は検温を私がやってもよかったのだが、彼に、水橋くんに会いたくなかった。
会うのが苦なのではない。会うと次こそ性欲に歯止めが効かず仕事を忘れそうだったから。
どこか夜の見回りを待ちこがれている自分がいた。

そして夜。見回りの時間がやってきた。

「私見回り行ってきます。」

部下が、見回りを買って出た。
嫌な汗が流れる。見回りの役割を取られては彼に会いに行けない。

「あ、見回りなら私が行くわ。」
「え、副婦長が? いいですよ。私が行きますよ。」
「いいから。あなた昨日も夜勤だったでしょう。」

私は無理矢理懐中電灯を奪い取り、暗い廊下を進んでいく。
静寂と暗黒の広がる廊下を進み、病室を見回っていく。

コツ…

水橋くんの病室前で足を止める。まだ見回りは残っている。
ここで彼の病室に入れば交渉は不成立。彼も身の危険を侵してまで私を強迫しないだろう。

コツコツ…

しかし私は、彼の病室を飛ばして見回りを進めた。
私は自らに言い聞かせた。最後に行かないとショーツを返してもらえないからと。そんなものは言い訳にしかならないのに。





「はっ…はっ…はっ…」

全ての病室の見回りが終り、私は小走りで彼の病室に急いだ。
内股には粘液が流れ、スカートの下にまで垂れてきている。

ガラッ…

「お、意外だね。来るとは思わなかったよ。」

心にもない彼の言葉。彼は私が来ることを知っていたに違いない。

「来ないと下着を返してもらえないから…」
「下着ねぇ。こんな木綿の白パンツ。大して高級そうでもないし、諦めれば済むことだと思うけど?」
「それは…」

水橋くんはシンプルなショーツの片穴に指を通しクルクルと回す。

「一美さんさぁ、正直になろうぜ?」
「え…?」

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