第10章 ― 黒衣の堕天使として(1) ―
♪~♪~
「わッわッ…」
急にポケットから着メロが鳴り、戸惑ってしまう。
「副婦長~、ケータイの電源は切りましょうね。」
「ご、ごめんなさい…」
後輩に注意され苦笑いをしながら携帯電話のディスプレイを確認する。
『差出人:水橋暎
題名 :今日早番だろ?
本文 :今日、あの公園に来い。無理にはとは言わないから、来れるなら後で返信入れておけ。』
!!
御主人様だ。
素直に嬉しく思う。
「ごめんなさい。ちょっとお手洗い…」
「またぁ…彼氏じゃないんですかぁ?」
ニタニタしながら私を見送る後輩。
図星じゃないにせよ恥ずかしい。
私はトイレの中で再度電話を開いた。
駄目だなぁ…
私、彼のためなら仕事場の決まり事も守れない。
病院なら携帯電話厳禁は当たり前。それなのに私は彼に連絡をとろうとしてる。
きっと今すぐ来いと言われたら仕事場を抜け出すだろう。
カタカタッ
結局、返信用のメールを書いて送信する。
『題名:Re今日早番だろ?
本文:わかりました。5時ごろ行きます。』
送信。
キュン…
不意に顔が赤くなる。中学生の時に担任の先生に恋したときのような感覚が蘇った。
たぶん私、彼を愛してる。一人の男性として。
彼が私の方だけを見てくれているわけじゃない。
それでも。それでも私を見てくれる。
女性としてではなく奴隷としてだけど。それでも良い。
…
…
…
私は仕事を終らせ、公園に急いだ。早く会いたい。時間は4時40分。
早く来すぎた。
でも待つのも楽しい。
遠足前夜みたいな感覚。
「おぅ早いな。」
「!」
しかし彼はいた。ベンチに座って煙草を吸っていた。
「ご…水橋さん。早いんですね…」
「まぁ一人でボケッとするのが好きなんだよ。じゃあちと早いが行くか。」
「行くってどこにですか?」
「スタジオ。」
「え?」
私はわけがわからぬまま彼に連れられていった。
行き着いた場所はビルの中の借りスタジオ。
写真を撮ったりするスタジオらしい。
「友人価格で借りれたから、好きなだけ使えるんだ。」
「そ、そうなんですか…で、何を?」
「俺の作品のモデルやってくれ。」
「え?…そんな私…」
「難しいことはいわねぇって。俺もプロじゃないし、グラビア撮るわけじゃないし。」
彼は言いながら持っていた紙袋から服を取り出した。
服は二着。両方とも真っ黒だ。
「えーと。まずはこれだな。」
彼は私にメイド服を渡した。スカート、上着、エプロン、カチューシャまで全てが黒だ。
私は言われるままそれに着替えた。
「あとこれ持って、顔隠して。ついでにこれも塗って。」
彼が持っていたのは目と鼻が隠れるくらいのプレート。『REBELLION』と書かれている。意味は“反逆”らしい。
そして赤いルージュ。
「まずはプレートを上下逆にして。背筋伸ばして。脚広げて。」
カシャッ
カシャッ
カシャッ
彼は私に向けシャッターを切る。
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