官能小説『掘割の畔に棲む女』

知佳 作





 

第17話 ~天空に星が瞬く頃に 廃屋からの出発~

~天空に星が瞬く頃に 廃屋からの出発~
 この頃はわざわざ都会を離れ田舎の廃屋を買いDIYして楽しむ人が増えているようですが、それはあくまでも生活基盤がしっかりしている人だからこそ出来るのであって働くところも貯金もない人にとってここに何もない状態で棲めというのはとてもつらいことなのです。 こういったところから這い上がるのは至難の業な半面堕落するのはとても簡単です。 何事につけ人のせいにして豪遊すれば事足りるからです。
 
 千里さんがこういったところに棲まなきゃならなくなって良かったのは彼女に目星をつけていた男どもが気軽に出入りしやすくなった、自宅から何かを持ち出し貢ぎやすくなった点じゃないでしょうか。 布団から何から一切合切無くなったわけですから、しかも無一文に近いわけですからお恵みが無ければとても生きてはいけません。

 その反面都合が悪いのはどうしても躰を求められる点ではなかったでしょうか。 親切心で持ってきてくれたとは言うものの心変わりされたりすれば売買と取られても仕方ありません。

 千里さんはだから誰かとふたりっきりになることを極力避けました。 どうしてもというときには昼間に表の戸を開け放した状態で話しをしました。
 目の色を変えて押しかけてこられるようになるとそれなりの対抗馬を用意し来れなくしなきゃいけません。 そこいらの見極めが難しくて断り切れなくて藤乃湯旅館の時と同じかそれ以上になりつつあったんです。

 でも都合の良いこともありました。 こうなるとみんなそれぞれある程度特技ってやつを持っていて表向きあばら家でも中に入ると・・・みたいになるんです。 大きな声じゃ言えないけど事件のことが心配でストレス状態が続いてて思うように頭が働かなかったから助かりました。

 これまで何処かの店で期限切れ・廃棄食品を手に入れ凌いできてたんですが、この頃では滅多なことでそういった店に出入りしなくなりました。 貢ぎ物で何とか揃うからです。 残念ならが押しかけてくるのは司とか司と同年代って方はほぼいなくて、どちらかというとあの社長と同年代かもう少し年配の方ばかりが寄り集まります。 しかも食品衛生のことなんかわかるはずもないのでやたらと余って捨てるしかないというような食品を自慢げに持ち込んでこられます。

 若い子が相手にしなくなった40歳代以降の方たちがメインに貢ぎ物をもって出入りし隙を見ては躰を求めてきます。 昼間は体力温存のため寝るようにしていて暗くなると起きて仕事に出かけるんでが、このような食べ物を口にし彼らの生活パターンに合わせ寝起きしていると生活習慣の基本でもある食べると寝るがまるでなっていないものだから躰が不調をきたし眩暈と言いますか鬱が深刻になってきてたんです。

 よくいうところの 『古民家が見つかったから引っ越し』 とまるで違うんです。 玄関の戸からしてまともに開かない、しかも床はもちろんのこと畳の上まで埃とゴミが散乱し、とても靴を脱いで上がれるような代物じゃなかったんです。 千里さん、黙ってそれを片付け端から端から人が住めるようにしていったんです。

 口もききたくないほど疲れ切っているところに何処から噂を聞いて来たのか次から次へと男が押し寄せる。 拘置された千里さんだから対応できたんでしょうが、普通ならパトの巡回経路に指定してもらうところでした。

 深夜や明け方しか千里さんが出入りしなくなったのも昼日中に出入りしたりすればやれ旦那が寝取られただのと難癖をつけられるに決まってるからでした。 仮釈でやっと夜伽から解放されたと思った矢先、こういったことでまた隠れ忍ばねばならなくなったのです。

 ただひとつ良かったのは、こういった男たちが出入りしてくれたおかげで生活物品のうち足りないものをリサイクル品を買うとか廃品としてゴミに出してあるものを拾ってきて使うなどしてましたがこういったことをほぼしなくても足りるようになったのです。

 しかしもっと大切なことがありました。 それが生命線につながる電気・水道・ガスです。 千里さんは住民登録をしていませんでしたので申し込もうにもまず水道は無理なんです。 電気も難しいと思われましたしガスに至っては工事が必要ですのでお金が為愛千里さんにははなっからできません。

 そこで出入りの人たちが電気については廃棄状態にあったソーラーの小さいやつを持ってきて屋根に取り付け昼間だけ明かりが点くようにしてくれました。 夜は仕方ないから蝋燭で間に合わせるようにしたんです。 水道はポリ缶を沢山買ってきて彼らの家にある外の蛇口からご家族に見つからないよう水を汲んで届けてくれるようになったんです。 ガスは残念ながらそのうちのひとりがキャンプに使ったというコンロを持ち込んで代用にしました。

 それ以外は何から何まで人力で頑張らなきゃならなかったんです。 彼らの賄いは全て千里さんの労力で賄われていましたので気苦労は大変です。 余りの辛さに根柢の部分を支えてくれていた司が居てくれたならと泣いた日もありました。

 一番辛かったのは眩暈です。 拘留が始まって間もなくから恐怖に怯え眠れなくなっていて内服させてもらってました。 それが今も続いていたんです。 しかも一番深い眠りに入る深夜に無理やり起き出して仕事に行かねばなりません。 眠くて突っ込みそうになるのを我慢し働き続けているとやがてそれは眩暈となって現れるんです。

 地面が揺れて立ってられなくなり嘔吐するなんてことを幾度も繰り返し 『頑張らねば』 という気持ちだけで生活をつないできてたんです。 いつか司に逢える。 美月に逢うんだと心に決めて。



前頁/次頁





image









<筆者知佳さんのブログ>

元ヤン介護士 知佳さん。 友人久美さんが語る実話「高原ホテル」や創作小説「入谷村の淫習」など

『【知佳の美貌録】高原ホテル別版 艶本「知佳」』



女衒の家系に生まれ、それは売られていった女たちの呪いなのか、輪廻の炎は運命の高原ホテルへ彼女をいざなう……

『Japanese-wifeblog』










作品表紙

投稿官能小説(4)

トップページ
inserted by FC2 system