第5話
そんな安堵感が皮肉にもプールへの誘導を早める結果となってしまった。
もえもえはその場から逃れるようにプールへと身体を沈めた。
男たちももえもえの後を追うようにプールに入っていった。
プールの水を吸収したもえもえの水着は収縮し、さらにピッタリ肌に密着してしまった。
もえもえは水着が肌に張り付いていく感触に恥ずかしさを覚えながらも男たちの前で平泳ぎを始めた。
もえもえのすぐ後ろに車山が続いた。
ゴーグルを着けた車山の目に水中で大きく脚を広げて泳ぐもえもえの姿が映っていた。
白く美しい脚が広がる度に水着に包まれた股間は大きく開き車山を興奮させた。
飛び込み台下の白い壁に手を着いてもえもえは立ち上がった。
「プハ~……」
後を追っていた車山ももえもえの泳ぎが止まったのに合わせて立ち上がった。
「車山さん……平泳ぎはできるんですね?」
もえもえは大きく息をしながら彼女を見つめている車山に言った。
「ハ~、ハ~、先生……あのね……?」
「なにか……?」
車山がいやらしい微笑を浮かべて質問してくる姿に、もえもえは少し怪訝な表情を見せた。
「先生……サポーター着けてないでしょ……」
車山の言葉にもえもえは激しく狼狽した。
「えっ……」
「肌に水着が吸い付いてるから……よく分かるんだよ……」
遅れてきた野崎が横にいる宮本に呟いた。
「そうそう……先生の乳首とか……なぁ……」
「割れ目ちゃんとかも……くっきりと……へへへへへへ……」
「…………」
先日までは比較的健全そうに見えていた男たちのイメージからは想像できない恥辱的な言葉に、もえもえは言葉を詰まらせてしまった。
「どうせなら、裸で泳いでよ。もう見えているのと変わらないんだから」
車山は顔を赤らめているもえもえにささやいた。
「そんなぁ……」
もえもえの顔が更に赤く染まっていく。
車山に続いて、宮本たちも言葉を続けた。
「そうだよ、その方が俺たちも練習に身が入るってもんだよ」
「サポーターを着けない先生の方が悪いんだから……それぐらいいいんじゃないの?」
「そんなこと……」
もえもえは恥かしくてまともに彼らの顔を見られない。
どのように返事をすれば良いのだろうか。
もえもえは困り果てた表情でやっと言葉を選んだ。
「忘れてしまったことは謝ります……本当にすみません……だから許してください……」
もえもえは彼らに何度も頭を下げて詫びた。
だけど誰ひとりとして「もういいよ」とは言わなかった。
それどころか、車山がさらにもえもえを困らせるようなことを言い出した。
「どうしても言う事を聞けないって言うんなら仕方ないね……俺……スクール辞めさせてもらうよ……理由をきっちりと言ってね」
「そんなぁ……だけどいくら何でも裸でなんて……」
「担当の先生がサポーターを着けずに泳ぐんで、気が散って練習に身が入らないから、って言うからね」
「私も車山さんと同じだね。スクール辞めるよ、もう」
「俺も同感だ」
「僕も」
他の3人も車山に同調するかのように口々に言い出した。
「や……辞めるなんて……そんなこと言わないでください!」
思わぬ展開にもえもえの頭はパニック状態になってしまった。
自分が裸になって指導するなど言語道断ではないか。
とは言っても、自分が担当する生徒たちが一斉に辞めてしまえば、指導していたもえもえの責任が大いに問われるだろう。
来春大学進学以降、もしかしたら選手生命まで危うくしてしまうかも知れない。
あるいは将来、この世界においてインストラクターとしての道を閉ざされてしまうかも知れない。
高校生活最後のアルバイトで大失態を演じたという汚点だけは絶対に残したくない。
それに自分を雇ってくれたスポーツジムにも大きな迷惑をかけることになってしまう。
スポーツジムが乱立する昨今、大量に生徒が辞めたという噂が広がれば、スポーツジムとしても信用をなくすのは間違いないだろう。
それも自分のせいで……。
責任感の強いもえもえとしてはそれは耐えがたいことであった。
もえもえは苦境に立たされた。
男たちの無言の圧力がもえもえに苦しい選択を求めてきた。
「辞めるなんて言わないでくれて言ったって……じゃあ、いいのかい?」
「どうなの?」
「…………」
男たちから浴びせられた言葉にもえもえは拒むこともできないまま黙って俯いていた。
「もう胸のポッチとかアソコの割れ目とか見えてんだから裸と変わらないよ」
「…………」
「先生っ、どうするんだい?」
「……許していただけないでしょうか……」
もえもえは小さな声を漏らした。
「じゃっ……辞めるしかないか」
車山はそう言うとプールサイドに向かって歩きだした。
それに連られるように宮本たちももえもえの方に目をやりながら水を漕ぎつつ歩いていた。
(どうしよう……みんな辞めちゃう……)
もえもえはプールから出ようとしている男たちの後姿を茫然と眺めていた。
もえもえの脳裏には進退問題で呼び出されている自分の哀れな姿が浮かんでいた。
「ま……待って……」
バスタオルで身体を拭き出した男たちにありさは悲壮な表情で叫んだ。
もえもえは水着の肩ひもをそっとずらした。
両肩から次第に降りていく水着に合わせて、もえもえのピンと張った瑞々しい素肌があらわになった。
(これで……これで……ジムのアルバイトが続けられるなら……)
男たちは水着を脱ぎ出したもえもえの姿をプールサイドから見下ろしていた。
「そうかい……先生……物分かりがいいや……」
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