第6話“恥辱のポーズ”

 小野原はキャンバスに向かってデッサン用の鉛筆を器用に走らせる。
 私に語りかけてくるだけ間は手の動きがピタリと止まってしまう。
 私にすれば少しでも早く描いてくれて、早く解放して欲しい。
 だけどそんなことを口にするわけにはいかない。

「奥さん、少しだけ足を開いてくれるかな?」

 それまで私は膝をピタリと閉じ合わせ、左半身の姿勢で椅子に腰掛けていた。
 小野原の突然の言葉に戸惑ったが、彼の要求を無視するわけにもいかず、ほんの僅かだけ膝を開いた。
 しかし、

「もっと開いてよ」

 これ以上開くと大切な場所が見えてしまうかも知れない。
 私がためらっていると、

「俺の注文どおりポーズとってくれないと、奥さんに何度も来てもらわないといけないかも知れないよ。満足行く絵が描けるまで」
「それは・・・」
「今日うまく描けたら1回で済むんだから。俺だってその方がいいしさ。奥さん、今日1日だけだから勇気を出してくれないかなあ」

 ここまで言われると、彼の要求に従わざるを得なかった。
 膝を先程よりも大きく左右に開いた。

「こっちを向いてくれる?」
「えっ・・・」

 私は腰をよじってゆっくりと小野原の方に身体を向けた。
 彼はこちらを正視している。
 恥ずかしさのあまり私はうつむいてしまった。

「ふふふ、奥さん、きれいな割れ目をしているな」
「・・・・・・」
「最近旦那さんとはご無沙汰なのか?いつから割れ目をいじってもらってないんだ?」
「・・・・・・」

 突然の破廉恥極まりない質問に、私は言葉を失ってしまった。
 思わず一度開いた足を閉じてしまった。
 すると不満の声が飛ぶ。

「足を閉じないで。ちゃんと開いてくれないと描けないんだけどなあ」

 その頃から、小野原は次第に態度が図々しくそして横柄になり始めていた。
 卑猥な言葉が小野原の口から次々と飛び出してくる。

「ご無沙汰してて男が欲しくて堪らないのではないのか?」
「嫌らしいこと言わないでください!」

 あまりの下劣な言葉に私は小野原を睨みつけた。
 だが小野原には一向に動じた様子がうかがえない。

「ははは、その怒った顔がまた可愛いねえ」
「・・・・・・」
「割れ目をいじられたらどんな表情になるんだろうな」
「・・・・・・」
「アヘアヘ声を出して泣くのかな?」

 私は我慢の限界とばかりに椅子から立ち上がった。

「もう帰らせてもらいます。これ以上モデルはもうできません」
「何だと・・・?」

 小野原は見る見るうちに形相が変わり、手に持っていた鉛筆を床に投げ捨て私に飛び掛ってきた。

「きゃあ~~~~~~~!!」
「モデルができないだと!?じゃあ、濡らした絵はどうして償うつもりだ!!」
「いやっ!乱暴はやめてください!」
「人の大事な絵をダメにしておいて、その代償としてのモデルも放棄するとは一体どういうつもりだ!」
「濡らしたのは謝ります!他の方法で弁償します!だからモデルはもう堪忍してください!」
「適当な事ことをいうな!!絵を濡らしたのだから、代わりとして奥さんには当然濡れるもらわないとな~!」
「そ、そんな理不尽な~~~っ!!やめて~~~~~~~~!!」

 小野原は私をソファに押し倒しその上からのしかかってきた。


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