惠 CONVERSATION

Shyrock作

ショートショート・オムニバス小説








第1話 「今、エッチなこと考えてたでしょ?」の巻


「真人、意外と大人っぽいお店知ってるじゃないの」
「ははは、『意外と』は余分だよ」
「ピアノと歌の生演奏が流れてる大人の隠れ家的バーって、20代の男性で行く人少ないと思うよ」
「だろうな。オレも同年代と来たことないもん」
「じゃあ、以前は先輩と来たの?それともほかの女の子かな?」
「さりげなく探りを入れてない?」
「入れてるかも」
「残念でした。40代の男の先輩と来たんだよ」
「そうなんだ」
「ここはね、イタリア料理やワインも美味しいんだけど、それでいてピアノとプロシンガーの生演奏をBGMに聴けるので、すごく贅沢な気分になれるんだ」
「いい雰囲気の店だものね」
「赤坂っていい店が多いんだけど、さすがにオレレベルにはちょっと敷居が高い感じがするかも」
「そんなことないよ。真人の顔なら大丈夫」
「おいおい、顔で店を決めるなよ」
「あはは」
「赤坂って迎賓館や一流ホテルが多いし、夜は政治家御用達の高級料亭が多いからね。でもその反面、古くからの商店街もあって庶民的な一面もあるんだけどね」
「私のイメージは、赤坂って硬派で、大人で、おしゃれな街って感じかな。でも華やかさはあまり感じないかも」
「伝統のある会社とかがあるから、いい意味で硬くて少し古臭い印象があるのかも知れないね」
「港区って不思議な街ところね」
「なんで?」
「六本木のようなクリエイティブなエリアもあれば、レトロ感溢れたエリアもあるから」
「住んでみたい街?」
「そりゃ住めるものなら住みたいよ~」
「タワーマンションとか?」
「住めるなら木造、鉄筋、こだわらない」
「惠、ただいま~♪」
「お帰りなさい~♪」
「ははははは~」
「あははは~」
「ねえねえ、惠の場合、一番あこがれる新婚のシーンって何?」
「そうね、あこがれるのは二人で晩酌することかな」
「オレは行ってらっしゃいのキス」
「私にしてくれるの?」
「惠がオレにするんだよ」
「逆でも全然構わないんだけど」
「愛妻弁当も夢かな」
「女の子に作ってもらったことないの?」
「ないよ」
「ふ~ん、本当かな?私の一番あこがれるのはやっぱり……」
「やっぱり……?」
「いっしょにお風呂かな」
「えっ?いっしょに……!?」
「そういえばまだ一度も一緒に入ったことないものね」
「……」
「……?」
「……」
「ねえ、今エッチなこと考えてたでしょ?」
「えっ?いや、あの、その……」
「考えなかった?」
「考えてないよ……」
「本当かな~?」
「いや、本当はちょっとだけ考えた」
「やっぱり」
「ねえ、惠?」
「ん?」
「なんて誘ったら今からホテルにいっしょに来てくれる?」
「あはは、そうね。『朝までいっしょにいたいんだ』って誘われたら着いて行っちゃうかも」



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