第6話 それから数日が過ぎたある日、浩治はアンティックドールをつぶさに調べてみた。 すると靴底に何やら数字が書かれているのが分かった。 『033715○○○○』 「何の数字だろう……?製造年月でもなさそうだし……」 数字は10桁だ。 「あっ…もしかしたら……」 浩治は数字を見つめていて、ふとひらめいた。 数字は電話番号ではないだろうか。 数字から考えてそれは都内の番号のようだ。 浩治はすぐにアプリ一覧から「電話」をタップしてテンキーを押した。 (ルルルルル~~~) 呼び出し音が響いている。 「はい、湊山ですが」 3回コールした頃、電話口に女性が出た。 その声は20歳手前の女性の声ではなく、もう少し歳を重ねた女性のように思われた。 「もしもし。僕は下原と言いますが、そちらに20歳前くらいの女性はお住まいでしょうか。え~と、名前が…球と言う方なんですが……」 「ええ、球はうちの娘ですが……。球にどのようなご用件でしょうか?」 浩治は包み隠さず身分を明かした。 「はい、僕はガイアンツの下原と申します。実は娘さんは以前から僕を応援してくれてまして、それで……」 表情は見えないものの、電話の向こうにいる母親らしき女性の驚いた様子が伝わってきた。 そして浩治の説明がまだ途中であるにもかかわらず興奮気味に話し始めた。 「ま、まさか!本当にあなたはガイアンツの下原さんなのですか!?まあ、何ということでしょうか!あの有名な下原さんから直接お電話をいただけるなんて、まるで夢を見ているようですわ。うちの娘は何と幸せな子でしょうか!」 「いえいえ、有名だなんて、そんなことないですよ。で、娘さんはいらっしゃるのですか?」 「それがねぇ、せっかくお電話をいただいたのですが、娘は5月末頃からアメリカに留学してしまったんですよ。もし娘がいたら大喜びしていたのにとても残念ですわ」 「えっ?5月末にアメリカに留学を?」 球が球場に訪れアンティックドールをくれたのは確か5月中旬だった。そして同月末には日本にいなかったことになる。 (じゃあ5月末、毎夜人形の姿で現れたあの少女はいったい誰だったんだ……) 母親は娘の球がいかに浩治のファンだったかをまくし立てた。 「それはそれは、球の下原さん贔屓って言ったら半端じゃなかったですよ~。部屋中にあなたのポスターを貼りまくり、雑誌もあなたが載っているものはすべて買い求め、それはそれは表現に困るくらい凄かったです。結婚するなら絶対にあの人しかいない、とまで言ってましたし」 母親のあまりの熱弁に浩治は返す言葉に困り果て、ただただ相槌を打つしかなかった。 「ああ、そうですか……。それはどうもどうも……。恐れ入ります……」 「あっ、ごめんなさいね。私ばかりお話しちゃって。娘が帰国したら、あなたからお電話をいただいたこと、ちゃんと伝えておきますね」 「はい、よろしくお伝えください。それじゃ失礼します」 浩治は電話を切った。 ◇ ◇ ◇ (ガバッ!) 「ああ、よく眠ったあ~…むにゃむにゃ…」 大学もアルバイトも休みで久しぶりに朝寝坊をした球は、先ほど見たよからぬ夢を思い出しながらにやけていた。 「な~んか妙にリアルな夢だったな~……浩治さんが夢に出て来てもうサイコーっ!しかもエッチまでいっぱいしちゃったものね~、ああん、浩治さん大好き~……」 ベッドからのっそりと起き上がった球は喉の渇きを感じた。 「あぁ、夢見ちゃったからまだ眠いなあ~」 起き掛けにミルクを飲むのがいつもの習性だ。 1階に降りて冷蔵庫からミルクを取り出しコップに注いだ。 ちょうどそこへ母親が入っていた。 「おはよう」 「お母さん、おはよう~」 「先ほど球に変な電話があったので適当に話して切っちゃったよ。最近あなた宛に知らない男性から時々電話があるんだから。気をつけなきゃダメよ~、もう年頃なんだから」 「ふ~ん?で、電話誰からだったの?」 「何でもギャイアンツの下原さんとか言ってたわ。でもまさか、あんな有名選手が球に電話かけてくるはず無いし、きっとイタズラ電話に決まってるじゃないの。だから切ったのよ」 「えええええええええ~~~!?マ、マ、マジで~~~!?下原って言ってたの!?お母さん、もしかしたらそれ本人だよ~~~!!なんで切っちゃったのよ~!なんで起こしてくくれなかったのよ!もう~、お母さんったら~!」 「ええっ?本当の下原さんだったって言うの!?でもあなた下原さんと会ったことあるの?」 「会ったことは無いけど……」 「じゃあ、どうして本人だって言い切れるのよ」 「それはね…勘よ、カン!!」 「そんなぁ……」 球は部屋に戻ってドアを激しく閉めた。 (それにしても、まだ一度も会ったこともない浩治さんが私に電話をくれるなんて……やっぱり誰かのイタズラかしら……いいえ、違うわ、きっと本人だわ……) 昨夜球が見た夢は、自分は人形で決して動かないはずなのに、浩治の部屋で突然人間の姿に変身し、彼と肉体関係を結んでしまう…と言う生々しい性夢であった。 そんな夢と浩治と思われる男性からの電話、そんな二つの出来事が決して偶然ではなく、何やら符合しているように思えてならなかった。 球はチェストに飾ってあるアンティークドールをじっと見つめた。 「そうだ!浩治さんが次回登板する日に球場に行って、あの人形をプレゼントしよう~!」 チェストからアンティークドールを取り出した球はそっと胸に抱きしめた。 「あれ……?どうしてスカートが濡れているんだろう……?」 完 BACK |
kyu |
ヒロイン球ちゃんのHP 『with G-P-z You's Photo Site』 ふだんOLさんでありながら 休日はレースクイーンやキャンギャルを こなすスーパーガール球ちゃん (モデル時は『川崎 優』さん) |
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