第5話「酔いどれと壁尻」 (何も考えないようにしよう……) 自分にそう言い聞かせそっと眼を閉じてみるのだが、やはり平常心を保つことができない。 あれこれ思いを巡らせているうちに急に喉の乾きを覚えた。 執行官に水を頼むことはできるのだが、尿意をおそれてつい躊躇ってしまう。 どのみち三日間我慢することなどできないが、できるだけ醜態を晒したくないので水を我慢することにした。 昼頃になると通行人だけでなく、どこから噂を聞きつけたのかいつの間にか多くの観衆が集まっていた。 「魔女は死刑じゃないのか!」 「そうだそうだ、死刑にしろ~!」 「いやいや、まだ魔女の印が見つかってないらしいし、本人は絶対に違うと言い張っているらしいぞ」 観衆の中には感情派もいれば論理派もいる。 「隣国の使者だから罪を軽くしたんじゃないのか?」 「隣国の使者をこんな目に遭わせたら、うっかりすると攻め込まれるぞ」 疑り深い人間もいれば、心配性もいる。 「桃晒しの刑?そんな刑罰初めて聞いたよ」 「尻だけしか見えないじゃないか。ちゃんと顔も見せろよ」 「何をやっても一切お咎めなしとは魂消たな」 「何かやらかす野郎がきっと現れるぞ」 やはり観衆の興味の的は、五十年ぶりに実施されたその一風変わった身体刑にあった。 「三日間過ぎて死んでなかったら逃がしてやるのか?」 「そのようだな。だけど何をやっても不問に付すと言うことであれば、悪さをする輩がきっといるぞ」 「可哀想だけど、たぶん助からないと思うな」 「何なら掛けてみるか?」 「面白そうだな。俺は『助からない』に100ゴールド掛けるぞ」 「それなら俺は『助かる』に100ゴールド掛ける」 いつの時代も賭け事は存在する。 「尻の張りからすればまだ若い女だな」 「それにしてもきれいなマンスジだな。眺めているだけでよだれが出て来そうだ」 「はっはっはっは~!おまえはよだれで済むのか?おいらはこっちが元気になって来たぞ!」 「わしの見立てではあのオマンコあまり使い込んでいないようだな。もったいないことよ」 「へえ~、じいさん、見ただけで分かるんだ。すげえな~」 「そんじゃ、今夜こっそりとおいらがいただいちゃおうかな?」 「そんな勇気も無い癖に」 「言ったな!じゃあ、まじで行ってやるよ~」 今昔を問わず、洋の東西を問わず、いずこにも好色漢は多く艶話に花が咲く。 観衆は一向に帰る気配は無くイヴの壁尻を眺めながら談笑に耽っている。 さすがに若い女性や子連れの母子が通りかかっても、壁尻から目を逸らしそそくさと通り過ぎて行く。 ◇◇◇ まさか壁の向こう側に人だかりができていて、自身の壁尻を酒の肴にして人々の会話が弾んでいるとは露知らず、イヴは不自由な体勢のまま意識朦朧としていた。 部屋内には立哨している無言の執行官が二人いるが、目隠しをされているイヴからすれば彼らの存在は霞のようなものであった。 ◇◇◇ 夜も更けると観衆は消え去り、回廊を行く人影も疎らになっていた。 小窓越しに監視を続ける執行官も何やら退屈そうにしている。 「この分だと今夜は何事もなく済みそうだな」 「そうだといいが」 「五十年前に一度だけ桃晒しの刑を執行したと聞いているが、その時の受刑者はどうなったのだ?」 「今回と同様に若い女だったらしいが、二日目の夜、酔っ払いの男に剣で一突きされて絶命したらしい……」 「そうだったのか。であれば今回もまだ初日だし何か起こるかも知れないぞ」 「さすがに昼間だと人目があるので強姦や剣使いはしにくいだろうが、人気が減る夜だと気が大きくなって何かやらかすかも知れないな」 「うん、十分考えられるな」 「あれ?」 「どうした?」 「噂をすれば何とやら。向こうから酔っぱらいがやってきたぞ」 「ほんとうだ」 かなり酒を呷ったのか足元がおぼつかない。 よろけては回廊の壁にもたれ、ろれつの回らない口調でぶつくさ呟いている。 男は壁に封じられているイヴの臀部に気が付くと、目を擦った。 「ぬぬっ!?俺は夢でも見てるのか!?壁から女の尻が生えてるじゃねえか!?こりゃ魂消た~~~!」 さらに臀部に顔を近づける。 「な、何と!尻だけじゃねえぞ!きれいなマンコまで丸出しじゃないか!?やっぱり夢か?最近あっちの方がご無沙汰だから溜まっちまってるのかな?」 男は目の前の光景が信じられない様子だ。 「うぃっ、夢かうつつか調べるには舐めてみるのが一番だ」 男は少し屈んで尻の位置まで顔を寄せると、尻の中央を走る縦線をペロリと舐めた。 ◇◇◇ 「きゃ~~~~~~~~~!!」 壁の向こう側では、突然肉裂を舐められたイヴがまどろみから目を醒まし大声を張り上げたことは容易に察しがつくだろう。 ◇◇◇ 「う、美味い!こりゃ正真正銘本物のマンコだぜ!うおおおおお~~~!」 前頁/次頁 |