第6話 “ゲートの向こうは夢の国”

 セックスが終わった後も、シャイはありさをそっと抱き寄せキスをした。
 キスの合間に頭を撫でたり手を繋いだりして余韻を愉しんだ。
 喉の渇きを覚えたありさに、シャイが無言でそっとミネラルウォーターを差し出した。

「喉が渇いたことどうして分かったの?☆★☆」
「あれだけ激しく喘いでたから、たぶん喉が乾いただろうな~って思っただけだよ」
「キャッ、観察してたんだ☆★☆」
「観察してたわけじゃないけど、あれだけ大声で『あんあん』言うと分かるじゃないか」
「恥ずかしい……☆★☆それにしてもタイミングがいいね。喉が渇いたから水持ってきて~って甘えようと思ったのに☆★☆」
「あっ、しまった。ありさちゃんの甘える場面を見損なった」
「だいじょうぶ。今夜、シャイさんがもういいと言うほど甘えるつもりだから☆★☆」
「おお、こわっ!」
「もう、恐がるな~!☆★☆」
「うわ!マジで恐い!」
「もう~。ねえねえ、早くシーに行こ?☆★☆」
「うん、行こうか」
「あ、ちょっと待って。シャイさんの唇に口紅ついてるから☆★☆」

 ありさはシャイの唇についた口紅をティッシュペーパーで拭き取った。
 
「ありがとう、自分では気づかないからね」
「あは、着けたまま出たら大変だよ~☆★☆」
「全くだ。あ、ありさちゃん、ベッドいいよ、僕が直しておくから」
「ありがとうシャイさん。じゃあその間、化粧直してるね☆★☆」
「うん、ゆっくりやってきて」

◇◇◇

 チェックインして早々愛の序曲を奏でた二人はディズニーシーに通じるミラホスタゲートへと向かった。
 通常ならホテル正面玄関から外に出てディズニーシーへ向かうところだが、ミラホスタの場合、専用ゲートがあるからとても便利だ。
 まもなく体験するであろう冒険とイマジネーションへの期待感に二人は胸を弾ませた。
 シーへと通じる扉を開けると、ミラホスタゲートには制服の女性が立っていて、笑顔で「ようこそ、シーへ」と明るい声で挨拶を交わしてきた

「こんにちは~☆★☆わ~い、ホテルとシーが繋がってるよ~~~☆★☆」
「うん、すごく便利だね」
「ありさ、繋がってるの、だ~い好きい~☆★☆」
「ありさちゃんが言うと、何か別の意味に聞こえてくる……」
「ありさ、シャイさんと繋がるのもだ~い好き~♪☆★☆」
「おいおい、声が大きいよ。恥ずかしいじゃないか」

 ありさたちの会話があまりにも可笑しかったのか、ゲートの女性は口に手を当てて懸命に笑いを堪えていた。

「それにしても中は広いね~。どこから回ろうか?」
「行きたいところがいっぱいあって迷っちゃう~☆★☆」
「ありさちゃん、おなか空かない?お昼まだだしランチに行く?」
「うん、空いた~~~!運動したし~~~☆★☆」
「ん?」
「てへ☆★☆」
「ありさちゃん、食べたいものある?」
「何でも行けるよ~、シャイさんに任せる~☆★☆」
「じゃあここから一番近い店に行こうか。牛頬肉の赤ワイン煮込みが結構いけるみたい」
「いつ調べたの?☆★☆」
「来る前に良さそうな店、いくつか見つけておいたよ」
「シャイさん、やっぱり気が利くね☆★☆」
「そんなことないよ、ごく普通だよ」
「女の子をクルマに乗せるとき、助手席に回ってドア開けてくれる人?☆★☆」
「そんな経験がないからよく分からないよ」
「あは、嘘ばっかり~☆★☆」

 店はかなり混み合っていたが、席が二百あるらしくまもなく席に着くことができた。
 探検家や冒険家が語り合う荘厳なレストランという惹句のとおり、スタッフの衣装や装飾品がまるで大航海時代を思わせるようなおごそかで雄大な雰囲気に満ちていた。

 料理の美味しさはもちろんのこと、店の雰囲気、店員のサービスなど、全てありさの心をがっしりと捉えた。

「料理美味しいし、店もすごくいい感じだし、ありさ幸せ~☆★☆」
「それはよかった。ありさちゃんの喜ぶ顔を見れたら僕も嬉しいよ」

 美味いものを、好きな人と、好きな空間で食するのは、どんな料理よりも『美味しい』と感じるものだ。
 そして、心で感じる美味しさこそ、人が求めてやまない究極の料理なのかも知れない。

◇◇◇

 空腹も満たされて、ありさたちは少し歩くことにした。

「クラシックカーに乗ろうか?それとも船に乗る?」
「ありさはねえ、え~と、シャイさんに乗りた~~~い☆★☆」
「どひゃあ~~~!さっきホテルでしたばかりなのに」
「だって3か月してないし。ありさいっぱい溜まってんだもの……グスン……★☆★」
「そんなぁ……ディズニーの中でそんなに落ち込まないでよ」
「べ~だ。冗談だよ~ん!☆★☆」
「もう!からかったな~」
「でも溜まってるのはホントだよ、今夜いっぱい可愛がってね♪☆★☆」
「は~い♪」
「返事がよろしい☆★☆」
「こら、大人の男に対して偉そうに!」
「きゃ~~~!☆★☆」

 ありさたちはアメリカンウォーターフロントで、ニューヨークとケープコッドを結ぶ『ビッグシティ・ヴィークル』というクラシックカーに乗りたかったのだが、あまりにも行列がすごかったため見送って、次のエリアへと進んだ。
 次のエリア・ポートディスカバリーに差し掛かった時、ありさがポツリとつぶやいた。

「あ、そうだ。ファストパスと言う手があったこと忘れてた!☆★☆」
「ファストパスって?」
「利用したいアトラクションの入り口付近にファストパス発券機があってね、パークチケットを差し込んで『ファストパス・チケット』を受け取るだけでいいの。チケットに指定時間が書いてあって、その時間までに戻ってくると、ふつうより少ない待ち時間でアトラクションを楽しめるの☆★☆」
「へえ、便利なシステムだね。行きたいアトラクションを決めてファストパスをもらいに行こうよ」

 ありさがぜひ行きたいところはロストリバーデルタであった。
 かの有名な『インディ・ジョーンズ・アドベンチャー クリスタルスカルの魔宮』のあるところだ。
 ありさたちは『クリスタルスカルの魔宮』のファストパスを手に入れた後、ほかに二種類のファストパスをゲットした。
 お茶をしたり写真撮影をしたりして時間を過ごしたあと、目的の『クリスタルスカルの魔宮』に向かう二人。
 ありさの足取りはとても軽いのだが、シャイの足取りはなぜだか重たい。
 シャイの変化に気づいたありさは気になって尋ねてみた。

「シャイさん、どうしたの?★☆★」


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