第3話 “チェックイン”

 タクシー乗り場にはすでに数台のタクシーが待機していて直ぐにつかまえることができた。
 タクシーは今夜二人にとってひとときのオアシスとなるホテル・ミラホスタへと走り出した。

「どんなホテルかな?楽しみだなあ~」
「う~ん、他のホテルだと一度ホテルを出ないとディズニーシーへ入園できなんだけど、ミラホスタはねえ、シーとくっついているから、ホテル内の宿泊者専用のゲートから直接行き来することができるの~☆★☆」
「すごい!それは便利だね!」
「うん、荷物を全部ホテルに置いたままシーに行けるからすごく便利~☆★☆」
「手ぶらで行けるんだ」
「手ブラ?☆★☆」

 ありさは両手を交差させ胸元を覆う仕草をした。

「いや、そっちの『手ブラ』じゃなくて、手に何も持たない方の『手ぶら』だよ」
「え?そうなの?☆★☆」
「ありさちゃんはすぐに話をそっちの方に持って行くんだから~」
「あはは、でもシャイさんだってそっち系じゃない☆★☆」
「何てことを……。ほら、運転手さんが笑ってるじゃないか」

 ありさはぺろりと舌を出し悪戯っぽく微笑んだ。
 二人がたわいもない話をしていると、タクシーはゆるやかな坂を上り、古き良きイタリアを思わせるような白亜の建物が見えてきた。

「きゃっ☆★☆シャイさん、ミラホスタに着いたよ~☆★☆」
「ほほう、立派なホテルだね」

 タクシーがホテルの正面玄関に着くと、えんじ色の制服に身を包んだ若いドアマンが出迎えた。

「こんにちは。ホテルミラホスタへようこそ」
「こんにちは~☆★☆」
「よろしくね」
「ご宿泊でよろしいですか。お名前をいただけますか」

 さすがに五つ星ホテルのドアマンのきびきびとした身のこなしと心遣いは見ていて心地よいものがある。
 それに自然な笑顔が素敵だ。

「うわ~、感じいいな~☆★☆」
「惚れちゃった?」
「もう、シャイさんったら~。ありさ、そんなに惚れっぽくないよ~☆★☆」
「ははははは~」
 
 ドアマンに代わってベルガールが現れた。
 ベルガールはドアマンから引き継いだ荷物をフロントまで運び、フロントでチェックイン手続きを済ませた宿泊客を客室まで案内するのが主な仕事である。
 ありさが提げてきた旅行鞄キーポル・バンドリエールを重そうに持ち、さらにシャイの旅行鞄まで持とうとするベルガール。
 見るに忍びない気持ちになったシャイは丁重に断った。

「ありがとう。僕のはいいよ」
 
 様子を見ていたありさが空かさずシャイの耳元で囁く。

「シャイさん、女の子にはやさしいね★☆★」
「だってこれぐらい自分で持てるし」

 次の瞬間ありさはシャイの手の甲をつねった。

「あ、痛っ!」

 驚いて二人を見つめるベルガールに、ありさは何も無かったかのようににっこりと微笑む。
 シャイも同調して笑顔を浮かべているが、心なしか頬が引き攣っているように見える。
 
 ベルガールが先導して二人はロビーへと入っていく。
 ロビーに入った二人が驚いたのは五階の最上階まで吹き抜けになっている天井の高さであった。
 しかも天井には絵画が八枚貼られていて、ディズニーシーのテーマポートが描かれている。
 シャイがぼんやりと天井を見上げていると、ありさがポツリとつぶやいた。

「シャイさん、天井の絵のどこかにミッキーが隠れてるんだって☆★☆」
「えっ!ほんとに!?後から探してみるか」
「天井だけじゃなくて、ホテル内のあちこちにいっぱい隠れミッキーがいるんだって☆★☆」
「へ~、そうなんだ。いくつ見つかるかな?」

 シャイがチェックインに向かった。
 その間ありさはベルガールと雑談をしていた。

「どの部屋からでもディズニーシーが見えるんですか?☆★☆」
「全ての客室からディズニーシーがご覧いただけますが、部屋によって眺望が異なります。大きく分けると三種類ございます」
「へ~、で、私たちが泊まる部屋からはどこが見えるんですか?☆★☆」
「車井様、野々宮様のお部屋からは、ポルト・パラディーゾの街がご覧いただけます」
「ポルト・パラディーゾってダニエラ姫が海の彼方にあると言うパラダイスを求めて旅をするお話ですね?☆★☆」
「よくご存じですね。ダニエラ姫が『この国こそ探し求めていたパラダイスだったのだ』と気づいて、港をポルト・パラディーゾと名付けたと言う言い伝えがあるそうです」
「あぁん~、ロマンチックだにゃぁ~♪☆★☆」
「は、はい……ほんとロマンチックですね……」

 ありさから突然発せられた猫言葉に、ベルガールは戸惑いながらもただただ頷くしかなかった。
 
「待たせたね」

 まもなくチェックインの手続きを済ませたシャイがありさの元へ戻ってきた。

「ではお部屋へご案内いたします」

 ありさたちはベルガールに従い、エレベーターホールへと続く長い廊下を進んでいく。

「どんな部屋だろうね」
「何でも部屋からポルト・パラディーゾの街が見えるんだって☆★☆ワクワクしちゃうな~☆★☆」
「そうなんだ。楽しみだね~」

 ありさはベルガールを気遣った。

「バッグ重いでしょう?ごめんなさいね~☆★☆」
「いいえ、大丈夫ですよ」
「ありさちゃん、小旅行なのにバッグ重そうだね。何を持ってきたの?」
「三日間の服と、後はランジェリーだよ~☆★☆」 
「服とランジェリーでこんなに……?」


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