第2話 “舞浜駅”

 そして当日、東京駅に降り立ったシャイはすぐに京葉線へと向かった。
 東京駅は広くて待ち合わせには不向きなので、ありさとはJR舞浜駅で待ち合わせした。
 久しぶりに歩く東京駅、以前東京で暮らしていたとは言っても東京駅構内は実に複雑だ。
 シャイは案内看板をたどりながら京葉線の乗り場へと進んでいく。
 京葉線の乗り場はかなり遠い。
 山手線であれば東京駅と有楽町駅の中間辺りだろうか。
 エスカレーターをいくつか下ったシャイは京葉線に乗車した。

 その頃、ありさは舞浜駅南口改札を出てすぐ左側にあるカフェでシャイを待っていた。
 ありさは南口の改札前で待ち合わせをしようと思ったが、シャイが混雑を見越してカフェで待ち合わせすることを提案した。
 確かに週末ともなれば、舞浜駅前はごった返すことが予想される。

 この日ありさは今日のために新しく購入したノースリーブのワンピースを着用していた。
 色はワインカラー。カジュアルなストラップサンダルを合わせてみた。
 初夏らしいコーディネートにありさ自身も満足している。
 ありさはスマホで時間を確認した。約束の十一時にはまだ二十分もある。
 でも好きな人を待つ二十分はすごく貴重だ。
 嬉しくて堪らない。

(会ったら何を話そう?あぁ、話すことがいっぱいあって困っちゃう)
(ディズニーシーのどこに案内しようか?)

 ありさは化粧室に入った。
 香りつきのリップグロスを塗る。
 鏡の中の高揚した自身の顔を見ながら、つややかな夜に想いを馳せた。
 想像しているうちに恥ずかしくなってきたありさは、

「やぁ~ん☆★☆すごいことを想像してしまったよ~☆★☆」

 その時、化粧室の扉が開く音がした。他の女性が入ってきたようだ。
 鏡を覗き込んでいたありさは慌てて表情をつくろった。
 それでもまだ頬が少し紅い。

(あと十五分……もうじきシャイさんと会える……☆★☆夢じゃないよね……☆★☆)

 会いたいけど会えなかった三か月。
 恋い焦がれた三か月。
 時が過ぎるのがすごく遅く感じた。
 でもやっと今日会える。

(エンレンってこういうものなのかな?☆★☆ドキドキ感が半端ないよ~☆★☆)

 化粧室から出て席に戻ろうとしたありさの足が急に止まった。
 何と待望の彼が入口から入った所で店内を見回しているではないか。
 綿の白シャツに裾をロールアップしたベージュのチノパンとこざっぱりとした装いだ。

「シャイさぁ~~~ん!☆★☆」

 嬉しさのあまり思わず大声を出してしまったありさに周囲から冷たい視線が注がれた。

「(うわっ!やばっ!)ごめんなさい……★☆★」

 周囲の客にペコペコと頭を下げて詫びるありさを見て、シャイがニヤニヤと笑いながら近づいてきた。
 相変わらず髪は涼しげベリーショートだ。

「もう…ひどい…シャイさんまで笑わなくても……☆★☆」
「ごめん、ごめん。でも可笑しかったんだもの」
「もう……★☆★」
「ありさちゃん、久しぶり!元気にしてた?」
「うん、元気元気!元気過ぎて困っちゃうぐらい~☆★☆」
「前に会った時より一段ときれいになったんじゃない?」
「ほんと?嬉しいなあ~♪☆★☆」
「ありさちゃん、ドリンク何を飲んでるの?」
「アイスカフェラテ☆★☆」
「僕も何か買ってくるよ」
「ありさが買って来てあげるよ~☆★☆」
「いいよいいよ、自分で買ってくるから」

 シャイはカウンターでコーヒーを注文して待つ間、窓の外を行き交う人々を眺めていた。
 さすがに週末ということでディズニーの混み様は半端なく、カップル、友人同志、親子連れ等多くの客でごった返していた。
 初夏の明るい日差しを受け道行く人は少し眩しそうだが、すべての人々の表情は一様に明るいように思えた。

「シャイさん、夏でもホットコーヒーなんだね?☆★☆」
「うん、年中ホットコーヒーだね」
「いくら暑くてもホットコーヒーを飲むんだね?なんで?☆★☆」
「なんで?と聞かれても、『好きだから』としか返事のしようがないんだけどなあ」
「そうなんだ。それってありさがシャイさんを好きなのとよく似ているね、あはは☆★☆」
「え……?」
「身体を冷やさないようにするために、夏でも温かい物を飲んでるのかなあ、って思ってた~☆★☆」
「いや、そんなことは考えたこと無いね。強いて理由を言うなら『香り』かな?」
「香り?」
「うん、アイスコーヒーとホットコーヒーの一番の違いは温度だけど、二番目は香りの有無だよね」
「ホットコーヒーっていい香りするものね。その点…☆★☆」

 ありさはアイスカフェラテに差し込んだストローを静かに吸った。

「香りなんだ~☆★☆そういえば以前シャイさんは自分のことを『香りフェチ』だって言ってたね☆★☆」
「うん、よく覚えているね。確かにそう言ったけどコーヒーはちょっと違うような気がするな」
「ふ~ん☆★☆じゃあ女の子の香りが好きなの?☆★☆」
「女の子と言っても好きな香りもあれば、好きじゃない香りもあるよ」
「じゃあありさの香りはどう?☆★☆」
「長い間、嗅いでいないから忘れたよ」
「ひどい!★☆★じゃあ、今夜ありさの香りをちょっぴり嗅がせてあげようかな?☆★☆」
「チェッ、ちょっぴりか」
「じゃあ、たっぷり!☆★☆」
「ぎょえ~~~~~!」

 久々の再会を喜び合い大いに盛り上がった二人はカフェを出てタクシー乗り場に向かった。 


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