第十四話「変態九左衛門」

 九左衛門はありさにランプを近づけ、自身は畳に這いつくばるようにして放尿の瞬間を待ちわびている。

「だんさん、そんなに覗かないでください……お願いですから向こうに行っててください……」
「あほ。しょん便するだけやったら便所でやったらええやないか。わしに見てもらうために、おまえはここで御虎子をまたいでるんを忘れたらあかんで」
「そんなぁ……」

 九左衛門の突き刺さるような視線を受けて、なかなか出せなくて放出までに少し時間を要したが、しばらくすると静寂を破る水音とともに股間から黄金色に輝く小水が流れ落ちた。
 放尿の間、ありさは尿道口をじっと見つめる九左衛門から視線を逸らし、身を震わせながら羞恥に耐えるのであった。
 まもなくありさの尿は途切れた。
 ありさはきょろきょろと周囲を見回している。いったい何を探しているのだろうか。
 
「あのぅ……ちり紙はありませんか……?」

 小便を済ました後、紙が欲しいのは至極当然のことである。
 ところが……

「ちり紙?そんなもん要らん」
「えっ?……後を……拭きたいんですけど……」
「拭かんでもええ」
「ええっ!?拭かないわけには……」
「わしが口で拭いたるさかいに心配すんな」
「嫌です!口で拭くなんて無茶なことは言わないでください!」
「どないしても嫌やっちゅうんか?」
「それだけは絶対に嫌です!」
「そうか、よっしゃ分かった……」
「分かってもらえましたか?」
「そんなに逆らうんやったら縛るしかあらへんな」

 昨日の土蔵での出来事が生々しく脳裏に明滅しありさは恐怖に慄いた。

「いや~~~っ!嫌です!縛るのはもう許してください!」
「じゃかあしい!ごちゃごちゃぬかすな!」

 九左衛門は荒縄を取り出し、ありさの背後に回り強引に両手を後ろにさせた。

「ひぃ!やめてください!」
「うるさい!静かにせんかい!」

 一喝するやいなや、ありさの手首に縄を巻きつけた。
 十字結びにすると、縄尻を右の二の腕から胸部の上を通してぐるっと左の二の腕に引き、手首から出ている縄に引っ掛けた。
 そして左から胸部の下を通して右へと引き、余った縄尻を左右対称になるように横縄にからめて硬く結んで、後手縛りの完成だ。
 九左衛門はさらに豆絞りの手拭いを持ち両端をピンと引っ張り伸ばした。

「口塞いだるから、開けてんか」
「いやっ!口を塞ぐのは許してください!」
「この後たぶん『ひぃひぃ』とよがり泣きするはずや。声聞いて誰か飛んできてもかなわんし、念のため猿轡しといたるわ。ちょっとの間だけ我慢しなはれ」
「いやぁ~~~」

 首を振って懸命に拒もうとしたが、後手に縛られた不自由な体勢ではどうにもならず、抵抗空しく手拭いを口に噛まされる結果となってしまった。

「んぐっ、んぐんぐっ……」
「なんぼ喚こうが騒ごうが、もう心配あらへんで。あ、しゃべんのん無理やったな~。すまんすまん」
「むぐぐ……うぐぐ……んぐんぐ」

 ありさの自由を束縛した九左衛門は、すでに敷いてある寝床にごろりと仰向けになった。
 疲れたので一息ついたのかと思いきや、突然ありさを呼びつけた。

「ありさ、こっちぃ来なはれ。こっちでわしの顔に跨りなはれ」

 驚くべきことに九左衛門はありさに、自身の顔に跨るよう指図をした。

「……!」

 九左衛門の言葉にありさは我が耳を疑った。
 たとえありさに対して変態染みた行動をとる旦那様であっても、さすがに顔を跨ぐと言う恥ずかしいことはできない。
 じっと動かないありさに九左衛門が催促した。

「もう一回だけ言うで。ここに来てわしの顔にまたがり。どないしても言うこと聞かんのやったら、ケツにあつ~い灸(やいと)をすえたるから覚悟しぃや~」

 病を患っているわけでもないのに灸などされたくはない。
 かなり熱いうえに尻に火傷の跡が残るかもしれない。
 ありさは泣く泣く九左衛門のそばに歩み寄った。

「よっしゃよっしゃ、素直が一番や」

 九左衛門の鬼瓦のように恐い顔が、一転して恵比須顔に変わった。

「膝立ちになってわしの顔の上にまたがるだけでええんや。簡単やろ?やってみぃ」

 ありさは緊縛と猿轡を施された不自由な状態のまま、九左衛門の顔の上にそろりとまたがった。
 九左衛門が着物の裾のたくし上げを直すと、ほっそりとした足首からすらりと伸びたきれいな足と白い腿が生々しく露出された。
 そしてちらりとのぞく下腹部には薄い陰毛が覗いていた。

「足をもっと広げ」
「んぐぐっ……」

 足を広げると必然的にありさの股間は下降し、九左衛門の口と急接近する。

「もうちょっと腰を下げてんか」

 排尿後少し時間が経過したこともありかなり乾いていたが、九左衛門が鼻を近づけるとかすかにアンモニア臭が漂った。

「う~ん、しょん便くさいなあ」

 九左衛門はありさに聞こえるよう、わざと聞こえよがしにつぶやく。
 恥ずかしさに思わずうつむくありさ。

「せやけど、きれいな桃色してるなあ」

 もしかしたら褒め言葉なのかも知れないが、ありさとして性器をじっと凝視されること自体がとても耐えきれるものではなかった。

「ほんなら、ぼちぼち味わうとしまひょか~」



前頁/次頁







image














表紙

自作小説トップ

トップページ


inserted by FC2 system