第5話

「ほ、本当に入れるのですか……?」
「もちろんだよ。こんな時に冗談を言うとでも思っているの?」
「分かりました……」

 ありさは一度深呼吸をすると、タンポンの中程を親指と中指で持って、先端を自分の方に向けた。
 もう片方の手で割れ目を開き、先端を膣口にあてがった。
 その様子を車野山が固唾を飲んで見守っている。

 タンポンの先端が少し埋没するとありさは手を止めてしまった。
 誰にも見られたくない秘密の場面を見知らぬ男に観察されながら実行していることに、思わず耐えられなくなったのだろう。
 ありさは涙ぐみながら哀願した。

「お願いです……もう許してください……」
「ダメだ。そもそもこんな取り調べの原因を作ったのは君じゃないか。盗んだ商品を使用目的に応じて使いながら心を込めて謝ってくれないと」
「……」
「さあ、続けてもらおうか」

 ありさはタンポンのアプリケーターを基準の位置まで押すと一旦指を止めた。
 さらに息を整えながらもう片方の手でゆっくりと押し込むと吸収体が膣内に収まった。
 タンポン挿入の証とも言える白い紐が膣口からちょっぴり顔を覗かせている光景は、男性の目線からはいささか奇異であり一風変わったエロティシズムを醸し出していた。

「ふふふ……とても良い眺めだ。シャンプーとリンスには後から謝ってもらうとして、君の持ち物に面白いものがあるな」
「もう中身まで調べたのですか」

 恐らく脱衣の合間に調べたのであろう。
 早々とバッグの中身を調べられたことにありさは不快感を禁じえなかった。
 それにしても『面白いもの』とはいったい何だろう。
 そんなものはバッグの中に入っていないはずなのに……とありさは思った。

「ふふふ、何だと思う?」

 車野山が化粧ポーチの中から取り出したのは、意外にも1本の紅筆であった。
 紅筆は女性が口紅をつける時に用いるものである。
 それを何に使おうと言うのか。

 次の瞬間ありさはハッと息を呑んだ。
 全裸になった自分に男が紅筆を使うとしたら……ありさは狼狽を顔に漂わせた。

「これって何に使うものなの?」

 車野山は紅筆を知らないらしい。いや、知っているくせに知らないふりをしているのかも知れない。

「口紅用です」

 ありさは手短に答えた。

「へえ……口紅用なんだ。でも、こんな使い方もあるんじゃないの?」

 次の瞬間、車野山は紅筆の先端をありさの秘豆に宛がった。

「キャ~~~~~~~~~!!」

 女の最も敏感な箇所を柔らかい筆先でくすぐられては堪ったものではない。
 脚をばたつかせ紅筆から逃れようともがくありさに車野山は威嚇する。

「逃げちゃダメ」
「そんなの無理です!」
「あんまり逆らうとどうなるか分かっているよな?さて警察と大学に電話をするか」
「ま、待ってください!ごめんなさい。絶対逆らいませんから電話しないで……」

 ありさは蚊の鳴くようなか細い声で哀願した。
 ありさにとって警察以上に辛いのは大学への通報だった。
 退学処分はまず免れないだろう。
 大学の名誉を著しく傷つけることになるのだから、大学側としては絶対に許さないだろう。
 理不尽とも思える車野山の追求であっても、今はじっと耐えるしか他に方法はなかった。
 そんなありさの弱点を知り尽くしたかのように、車野山は卑劣極まりない責めを続けた。

「ふふふ、下の唇を筆で撫でられる気分はどうだ?ふふふ、気持ちいいか?」
「いいことありません」
「ほんとかな?少しだけ毛先が濡れてきたような気がするんだけどなあ。じゃあ気持ちよくなるまで擦ってみるか。ほれほれ~」
「あぁ……もう許してください……」
「ほれほれほれ~」
「いやぁ……許してください……お願い…もうやめてぇ…そんなに擦らないでぇ……」

 感じてなるものかと必死に堪えてはみるが、そこは女の性の悲しさか、心ならずも肉体は反応を示し始めていた。

「はぁ~……そんなぁ……」

 拒絶の言葉を並べてはいるが、その音色はいつしか甘く切ないものへと変化していた。

「ありさちゃん、この部屋には梱包用のロープもあるのだが、なぜ君を縛らないか分かるかな?」
「そ、そんなこと知りません……はぁ~ん……」
「僕は女性を拘束するのが好きではないんだよ。縛って女性を思い通りにすることなど権力者側の人間なら誰だってできる。でもそれが僕の本意じゃないのさ。あくまで君の意志で脚を開かせ、僕を受け入れさせたいんだよ」
「そんなこと自分の彼女にすればいいじゃないですか!」
「僕は特定の彼女というものは持たない主義なんだ。持つと拘束される。いつも自由でいたいんだよ」
「そんなこと私の知ったことじゃないわ」
「まあ、そうつれないことを言うなよ」
「万引きをした女性の弱点を突いて、あなたは私にいやらしいことをしたかったのね?最低な人だわ!」
「言わせておけばいい気になって!うぜえんだよ!」

 車野山の平手打ちがありさの頬に炸裂した。

「痛い!乱暴はやめて!」


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野々宮ありさ







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