第1話

こんこん、こんこん。
「こんにちはー、こんにちはー!」

こんこん、こんこん。
「こんにちはー、こんにちはー!」
「硝子電気商会ですがー」

こんこん、こんこん。
「エアコンの修理にお伺いしたんですけどー!!いらっしゃいますかー!!」

8月。
夏の盛り。
日本で最も電気屋が忙しい時期である。

PM2時。
自身の任務に真摯な電気屋は、もう一度時計を見た。
間違いない。
ここの旦那から、確かに本日PM2時アポイントでエアコンの修理を依頼された。
内容は、自動運転時に温度が上昇しても冷房が立ち上がらないこと。
こういうときは大抵、温度センサー感度が悪くなっているのだ。
センサーは部品の中でも当たり外れがある。
交換にはんだゴテが必要になるが、やり始めたら5分で終わる仕事ではある。
PM4時から別の修理が入っているから、出来ればここは余裕持って終わらせたい。

こんこん、こんこん。
しかし誰も出てくる気配がない。
「んだよー、ドタキャンかよー!!」
そう言いつつ、電気屋がドアノブに手をかける…と、すんなりドアが開いた。

何だこの家?
この物騒なご時世、出払う際に施錠もしないのか?

しかしほどなくして、電気屋はその憶測が間違いであったことを知ることとなった。
家の奥から、声が聞こえてきたからだ。
それも艶めかしい、女の声が。



電気屋がドアをガンガン叩いている頃、その家の若妻はシャワーの真っ最中だった。
浴室内でシャワーを使っていると、大抵の音は聞こえなくなるものだ。

「~♪」

シャワーを浴びながら、ボディソープで身体を洗う。
大きなおっぱいは特にたくさんソープを使って丁寧に洗う。
乳首は特に念入りに。
ついでにアソコも洗う。いや、弄り倒す。

「あァ~♪」

その家の若妻は、長いお風呂タイムの中で独り思う。

(結婚しても、これたけは止められない。
旦那とひとつ屋根の下となり1年ちょっとが過ぎた。
旦那とはセックスがないわけではない。
でも新鮮な感動を味わえたあの頃は、もう遥か遠くに行ってしまった。
いま、旦那と積極的にしたいかって言ったら、正直どうでもいい。
なので、旦那に求められない充足を、いまは独りお風呂場で満たす。
こんなことじゃ、いつまでも子宝は授からないんだけど)

「あン、いい、イイ」

軽く感じながらもボディソープを洗い流しきった後は、湯船に浸かる。
真夏なので、湯加減はぬるめ。
湯船の中で脚を伸ばしつつ、身体を入念にマッサージするのが日課。
特にアソコは、より入念に…入念に…。
指先で軽くクリを撫でてみる。
気持ちいい。
お風呂の中でするのは、また違う。

そのまま入り口付近を撫でてみる…と、水の中なのにヌルッとしてるのが分かる。
今日はいつもよりさらに湿っているみたい。
それが彼女のテンションのバロメーターだ。

さらに指を奥の方に伸ばしていく。
本来身体を清めるべきお風呂の中に、自身の愛液が混じっていく。
小さい頃、プールの中で誰とも知れずにオシッコしちゃったときの、あんな感じ。
この背徳感が、何とも堪らない。

「あぁぁーん♪」

そんな至福の昼下がり…は、不意に打ち破られた。

「!」
お風呂場と脱衣所を仕切る扉の向こうに、誰かが立っている。

旦那?
いや…体格が全然違う!
旦那はこう言っちゃなんだが、もっと痩せ型だ。
いま曇りガラスに映っているシルエットは、もっと筋肉のある大柄な男に見える。

さっきまでの幸福な時間が、一瞬にして戦慄に変わった。

(逃げなくては!…どこに?)

ここは浴室で、こちらは裸。
しかも湯船にどっぷりと深く腰掛けている状態。
逃げ場なんてどこにも無いのは、考えるべくもなかった。
それでも人間というのは、危機的状況において咄嗟にそのような冷静な判断が出来るものではないらしい。
若妻は慌ててそこから抜け出そうとして、却って足を滑らせ、さらに浴槽深く嵌まり込んだ。
(あ、あああああ。どうしよう、どうしよう…)

がちゃり。
浴室の扉が開いた。

そこに居たのは、やはり旦那ではない、見知らぬ大男。
何故か真っ裸で、しかもその形相は若干キレ気味に紅潮している。

「きゃああああ…うぐ」
叫び声をあげるも虚しく、私の口は侵入者の大きな手によって塞がれた。
そして身体はもう片方の腕でガッシリと抱えられる格好になった。

(なんなの。
 なんなのよこれ。
 旦那はどこ行ったのよ?
 そもそも家に鍵はかけてあるはずじゃないの?)

口を塞がれ身動きを封じられながらも、彼女はこの理不尽について思いを巡らせた。
そして、せめてもの抵抗とばかりに、口を抑えている手に噛みつく。
男はさすがに一瞬たじろき、口元の手を放す。
が、その分両腕でガッシリと私の身体を後ろから羽交い絞めにされてしまう。
こういうときの男は、獲物を狩る熊のように俊敏だ。

ともあれ喋れるようになった。
いきなり襲ってきた侵入者に、言いたいことは沢山ある。

「あんた誰よっ!!」
「私?あぁ、硝子電気商会のサービスマンです」
「??」

(硝子電気?電気屋がこんなところで何をしている?
 そう言えばリビングのエアコン故障していたが、もしかして旦那が呼んだのか?)



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作者渡硝子さんのHP

女性の性的な相談を受付。絶頂経験に乏しい女性に解説、ときにはエスコート。
相手に尽くすエッチがモットーと女性にとっては大変ありがたいお寺様(?)。












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投稿官能小説(3)

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