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第20話 現世への復帰~美桜の覚悟 美桜はベッドの中で目を覚ました。 程よく効いたクッションに、横たえた身体を預けたまま、耳を澄ませる。 開いたばかりの視線をクルクルと走らせる。 「よいしょっと」 掛け声を口にして、身体を起こした。 バスタオルを巻いただけの姿を改めて見直して、美桜は両足を床に下した。 「ようこそ、わたし達の世界へ。うふふっ」 ちょっぴり皮肉ったセリフで。 とってもウェルカムな本音で。 美桜は壁際のローボードを見つめた。 クリーム色をした固定電話を軽くスルーさせ、その隣にちょこんと腰かけたフランス人形に、親しみ感のある目を送る。 「翔くんはまだシャワー中みたいだから、ちょっと行ってくるわね。あなたはどうする? ここでお留守番とかしてくれると嬉しいんだけど」 「……」 そのフランス人形は青い目をしていた。 金色をした巻き毛の髪を肩にまで垂らしていた。 見つめたその人の心を優しく抱きとめてくれそうな、そんな柔らかい微笑みをたたえた美少女な顔をしていた。 「そう、お留守番してくれるんだ。サンキューね」 「……」 美桜は尚も、女の子の人形に語り掛けていた。 少し着乱れた漆黒のドレスを整えてあげると、急ぐように足を進めた。 歩きながら身体を覆うバスタオルを脱ぎ落し、上下お揃いのランジェリー姿のまま、浴室へとつながるドアノブに手を掛けた。 (大丈夫よ、美桜。サキコだって見守ってくれてるの。今度こそうまくいくから) 美桜は強く念じた。 胸の鼓動を鼓舞するように高鳴らせて、シャワーの音が響くドアを素早く開けた。 「どうした、美桜? なにか忘れ物か?」 濃密でじっとりと湿った空気が、美桜の身体を包んでいる。 その目と鼻の先では、シャワーを浴びたばかりの翔吾が、もちろん全裸のままでこちらを見つめていた。 「う、うん……そう、忘れ物」 美桜ははにかむようにしてうなずいた。 そして、素肌に残された二枚の下着を脱いだ。 「お、おい?!」 今夜、このホテルで、愛し合うことを決めている。 けれども翔吾は、素裸な身体を晒した美桜に驚きの声を響かせた。 じっくりと鑑賞し、ベッドに寝そべった美桜から、己の指で脱がせたかったブラジャーとパンティーを。 それが、濡れたタイルの上に落ちている様を、恨めしそうに眺めもしていた。 「わ、わたしね……翔吾にね、その……して欲しいの」 「な、なにをするのさ?」 美桜の足が一歩二歩と進んだ。 腕を伸ばせば翔吾と抱き合える、その距離まで詰めながら、曖昧な言葉を漏らしていた。 翔吾がどぎまぎしている。 喉を詰まらせながら声を返してくる。 「すぅーっ、はぁーっ」 深く息を吸い込んで、胸の震えを解き放つように息を大きく吐き出して。 美桜は翔吾の真ん前に立ち、深呼吸をしてみせる。 一回、二回、三回と。 「ここをね、翔吾に剃って欲しいの」 心を強制的に落ち着かせて、美桜はつぶやいていた。 消え入りそうなのに早口で、捲し立てるようにお願いすると、美桜は腰を曲げた。 湯船の縁にお尻を落として、翔吾の顔を上目遣いに覗いた。 「美桜の下の毛を、そのカミソリでジョリジョリって。ツルツルの生まれたままアソコに……ね、翔くん……お願い」 早口だったセリフは、息切れしたようにスローダウンしていた。 ラストに至っては、見下ろした翔吾の耳にもたぶん届いていない。 だからであろう。 美桜は利き腕を伸ばすと、浴槽の壁辺りを探った。 白いほうろう製の棚に、石鹸とかシャンプーとかが並び、それらの脇に隠すようにして置かれた安全剃刀を手にしていた。 「し、下の……毛……? ジョリジョリって……?」 「ダメ……かな?」 「いや、構わないけどさ」 行動でも示したのだ。 美桜の言葉は通じているはず。 それでも俄かに信じられない。翔吾はそんな顔つきで、たどたどしい仕草で声を吐いて、美桜が小首を傾げて哀しそうに訊くと、ブンブンと首だけは勢いよく振らせた。 「サンキュー、翔くん」 美桜は湯船に腰かけたまま足を開いた。 漂う湯気を纏わせながら、秘めた女の部分を主張させるように下半身を前へとずらせる。 股間の中心を彩る黒い陰りも、その下に潜む恥肉のスリットも、あられもなく晒した。 「はぁぁ、美桜……!」 切ない恋をして、胸をときめかしてきた少女の秘部を前に、翔吾は声を裏返している。 ホテルを選び、綿密にスケベな予定を立てた男心が、想定外すぎる成り行きに翻弄されている。 「はい、これ」 そんな彼氏の手へと、美桜はT字形のカミソリを手渡した。 連携するように働くもう一方の腕が、シェービングクリームも用意する。 「わたしね、前から気になっていたの。アソコの毛がちょっと毛深いかなぁって」 「そ、そうかな? 俺的には普通だと思うけど」 「でも男の人って、ツルツルのアソコに興味あるんでしょ?」 「ま、まぁ……無いと言ったら嘘になるかな」 「えっとね、わたしの友達なんだけど、アソコに全然毛の生えていない子がいるの」 「それって、パイパン?」 「そう、パイパン。初めて出会った時は、わたしその子が大嫌いで、でも……」 「今は、パイパンのその子と仲良しなんだろ?」 「うん、そんな感じ。それとね、翔くんには嘘をついちゃいけないと思ってるから、全部告白するね。実は美桜……」 密閉された空間に響き合う、密やかな会話。 恋人どうしだからこそ。 その恋人関係でも赤面しそうな言葉のやり取りを繰り返し、やがて暫くの間が開いた。 安全剃刀を右手に、シェービングクリームのボトルを左手に、翔吾の目は瞬きを消して見据える。 飛び出た男らしい喉仏をゴクリと鳴らした。 そして…… 前頁/次頁 |
作者とっきーさっきーさんのHP 羞恥.自己犠牲 美少女 みんな大好き♪♪ オリジナル小説 そして多彩な投稿小説 『羞恥の風』 |