第9話  雪音に流れる血



「律子さん、ちょっとご提案が……」

あたしは渋るお父さんを引き連れてテーブルに着くと、覚悟を決めて自分のプランを説明した。

「どうでしょう? これならあの子たちに勝てると思うのですが……」

あたしは、テーブルの上に並ぶ卑猥な女の子たちを指差した。
そして、たたみ掛けるように言った。

「ご安心ください。律子さんの撮影データは前回同様、全てあなた様にお渡し致します。撮影はもちろん、プロの中のプロカメラマンである、こちらピンクの傀儡子が。撮影アシスタントは、若くてピチピチそれなのに経験も豊富。北原雪音、あたし……じゃなかった私が行います。ということで、律子さん。今から勝負写真! の撮影といきませんか?♪」

あたしのハチャメチャな説得に律子さんが顔をあげた。
まぶたが決壊しそうなくらい涙を溜めたまま、コクリとうなづいてくれた。

「え、ええ……お嬢さんにお任せするわ。これで、あの子たちから主人を取り返せるなら、私はどんな恥ずかしいことだってするつもり。
だから雪音さん。ピンクの傀儡子様。私の方からお願いします。どうか律子の身体を全て撮ってください。性器もなにもかも、私のすべてを……」

「任せといてください! さぁお父さん、撮影の準備をして! 超特急でね♪」

あたしとお父さんは、大急ぎで撮影機材の準備を進めた。
いつもなら10分以上かかるところを、カップめんと一緒、たった3分で片付けた。
だって、せっかく決意を固めてくれた律子さんが心変わりしちゃったらどうしようもないもの。

最後に、お父さんの指示に従って照明を調節する。
前回のオレンジ色から、今度はう~んとエッチな雰囲気になるようにピンク色に切り替えた。

「律子さん、準備が整いましたぁ~。それではカメラの前に立ってください」

ピンク一色の可愛らしくてちょっといやらしい世界に浮き上がる、美しい女性の立ち姿。
その世界観に威圧されたのか? お父さんが、あたしの脇を突いた。

「雪音、どうしよう? やっぱり僕には無理だよ。ううぅっ、お腹が……?! ちょっとトイレに……」

「逃げちゃダメよっ、お父さん。ほら、被写体があんなに悲愴な決断をしてくれたんだから、下痢ドメでも飲んで我慢しなさい。なんなら、オムツでも穿かせてあげようか? 娘のあたしが……ふふふふっ」

お父さんが真顔でカメラを覗いた。
でも指示は出してくれない。
というより、おでこに脂汗を浮かべたままカチカチに固まっている。

仕方ないわね。だったらあたしが律子さんポーズをつけてあげる。

「では律子さん。恥ずかしいでしょうけど頑張りましょうね♪ それじゃあ、そのままでスカートを持ち上げてください。その……ショーツが覗けるくらいに……」

「は、はい……」

あたしの指示に従って、律子さんがスカートを捲りあげていく。
この前より丈がちょっと短くて、ひざ小僧が見えちゃってる水色のスカート。
それを指先で摘むようにして、ウエスト付近まで持ち上げた。

「律子さん、OKです。少しの間、そのままで……」

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

ピンクの照明に浮き上がる、豪華なレースがあしらわれた純白のショーツ。
もしかしたら律子さん。
ここへ来る前から、自分がこうなることを覚悟していたんじゃ……?

「次はブラウスを脱いで……そのぉ……ショーツも脱いじゃってください」

あたしが差し出した脱衣かごに、折りたたまれたブラウスが入れられた。
律子さんの豊かな胸を覆う上下お揃いの純白のブラジャーと周囲に漂う微かな香水の匂いに、あたしの勘は確信へと変わった。

これだったら、少々大胆に攻めても大丈夫かも?

「あの……下も……ですよね?」

律子さんの問い掛けに、あたしは大きくうなづいてみせた。
そして、真横から視線を逸らさずに彼女を見続けた。

スルスル……ススゥーッ……

同性の目に晒されながら、律子さんはスカートの中に指を入れると真っ白なショーツを下した。
下すと、この前と同じ動作でブラウスの下に隠した。

「では律子さん。そのままスカートを持ち上げてください。大切な処がよく見えるように……」

「……ぅぅっ……はい」

あたしは、当り前のように指示を出していた。
この前なんか、ボー然としてお人形みたいになっちゃってお父さんに笑われて……
それなのに、今は全然平気?
それどころか、胸が高鳴っちゃって普段の雪音じゃないみたい。

「……ああぁ、は、恥ずかしい」

律子さんが真っ赤な顔をカメラから背けた。
でも、あたしの言い付けどおりにスカートを限界まで持ち上げている。

身体の芯がグラグラ揺れて、裾をギュッと掴んだ指がブルブルしている。
ボリュームのある太ももが隙間のないくらい閉じ合わされて、それから取り残されたように黒々とした陰毛が大きな逆三角形を描いている。

「お父さん! 早く撮ってっ!」

「ああ、はい」

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

「次は律子さん、レンズに向かって笑顔でお願いしま~す♪」

乾いた、それでいてハイな声がコンクリートの空間に吸い込まれていく。
あたしは自分自身に話しかけていた。

雪音の中に流れる血って……なに?!
ううん、雪音って……なんなの?!


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