最終話 貧乳少女ですが愛してくれますか? (美紗ちゃんは、まだまだ未来のある女の子なんだぞ。それなのに俺は、そんな少女から唇とおっぱいを奪ってしまったんだ。これ以上は決して……) 理性がそうさせたのだろうか? 本能が行動を促したのだろうか? 美紗を連れ、電車に乗った後の太一は無言だった。 相変わらず座席は空いている。 にも関わらずに吊革にぶら下がったまま、険しい瞳を窓枠にぶつけていた。 「ねぇ、おじさん……もう一回、リモコンのスイッチを入れてよ。それで、美紗のおっぱいを気持ちよくして」 太一に倣って吊革を掴む美紗が、耳元でささやいてくる。 あどけない少女の顔はそのままに、目つきと声音だけを姉であろう明美に似せて、男を誘うオトナの女を真似て、必要以上に身体を密着させてもくる。 (俺は生まれてからずっと、不運と不幸を背負って生きてきたんだ。だったらそれで構わない。占い師に支払った消費税込5400円は、ちょっと勿体ない気もするけど、一生触れることがないと思っていた女子高生と、こんな愉しいことが出来たんだ。もうこれ以上のことを望めば罰が当たる。そうだ、きっとそうに決まっている!) たどたどしい手付きで、美紗の指が太一の股間に接触する。 電車が鉄橋を通過しガタガタと揺れて、これは不可抗力だとでもいうように、彼女のピンと伸ばした指が太一の半勃ちさせたままのペニスを撫でた。 しっとりと汗に濡れた指の肌を恐る恐る押しつけて、肉棒の輪郭をなぞった。 「まもなく、東今原ぁ~東今原ぁ~」 滑舌の悪さは、この私鉄会社の車掌共通のものらしい。 乗り降りの客には窓の外の景色で判断しろとでもいうように、電車は減速を開始する。 「なんでよ? どうしたの、おじさん?」 美紗が唇を尖らせた。 リンゴのように紅く染めたほっぺたを、ぷぅっと脹らませてもいる。 (ごめんね、美紗ちゃん) 可憐な女子高生が、恥じらいを脇に追いやってまで迫ってくれたのだ。 知り合ってから幾日も経っていないのに、その身体を差し出そうとしてくれているのだ。 「東今原ぁ~東今原ぁ~」 投げやりなアナウンスが車内に響いた。 金属を擦る甲高いブレーキ音と共に電車は停止し、両開きのドアが一斉に開かれた。 「あっ!」 美紗が寂しそうに喉を鳴らした。 太一は終始押し黙ったまま身体の向きを反転させる。 少女との肌の密着を振りほどき、尚も後を追う幼い指にもつれない態度で押し留めると、解放されたドアへと向かう。 「待ってよ。ねぇ、待っててば……」 太一の胸を焼き焦がす、そんな切ない少女の声が背中越しに聞こえた。 それでも足を止めない。 ホームに飛び出し、エスカレーターも使わずに階段を駆けるように降りて、いつもの寂れた感の漂う西出口改札口を潜った。 歯抜けのように白い空き看板が並ぶ通路を、両腕を振って歩いた。 背中を丸めて猫背の姿勢のまま、頭を突き出すようにして階段を下っていく。 ついこの前のことなのにモザイクの掛った画質で、明美との痴態を思い出していた。 直角に折れ曲った階段の踊り場で、彼女の豊満なバストを晒して愛撫した破廉恥な行為が、乱れたセピア色で再現される。 力ませて振り下ろしていた両足が、残る段差を前に急減速していた。 「痛ぇっ!」 その太一のツマ先に、ストレートな痛みが走った。 推定足サイズ24センチのジョギングシューズが、推定足サイズ27センチの革靴をグリグリと踏みつけていた。 白字にブルーの波ラインが貼り付くシューズが、くたびれた革靴を、これでもかと踏んで蹴って、また踏んだ。 「なに格好つけてるのよ。美紗の心は風船みたいだって教えてあげたのに。なんで、美紗をほったらかしにしていっちゃうのよ。『絶対に飛ばさせたりしない』って。『美紗ちゃんの心の風船は、俺が抱きかかえてやる』って。『割れないようにそっと……』って。あれって、なんだったの?」 涙を喉に絡ませた少女の訴え。 白い素足を覗かせながら。身体をよろめかせても太一の足を踏み続ける彼女の、ピュアな泣き顔。 「聞こえてんだ……?」 「グス、グスン……聞こえてた、美紗の耳にはちゃんと……」 太一の手首は掴まれていた。 儚げでか細い指に、ぽっきりと折れそうな力で、もう放さないという覚悟も意識させて。 「今から、俺のマンションへ……いいかな、美紗ちゃん?」 「ちゃんは、嫌」 「えっ? なんて?」 「だからぁ、美紗ちゃんは嫌なの。おじさ……ううん、たいち……さん……うふふ♪」 薄汚れたコンクリートの階段が、太一の目には眩しかった。 その先に拡がる土曜日の昼下がりの世界は、きっと昏倒しそうなほどの衝撃が待っているに違いない。 太一はそんな予感を胸に感じていた。 「あ、お姉ちゃんだ!」 その光輝く真四角な出口を、美紗がはしゃぐ声と共に指さしていた。 事前に目を細めていた太一が、まっすぐに伸ばされた人差し指を追いかけた。 まばたきをすれば終ってしまいそうな、ほんの一瞬。 アラビアンナイトのお姫様のような衣装が通過する。 紫色をした薄いベールで口元を覆った女性が、生まれたてのカップルに柔らかい眼差しを送り、すっと消えた。 「あ、あのさ。美紗ちゃ……じゃなかった。美紗のお姉さんって? さっきの?」 「うん、明美お姉ちゃんは占い師をしているの。駅前にあるでしょ、占いの館って」 「もしかしてだけど、お姉さんの占いって『乳揉み占い』……だったり、する?」 「うん、そうだよ。おっぱいを揉んで『おぉ、お主の手で妾を……あはぁ、妾のおっぱいを揉み……んん、昇らせるのじゃ』って」 美紗が聞き覚えのある声音をまねた。 眉毛をヒクヒクさせながら、悪戯っ子の目で太一を見上げた。 (そうだよな、姉妹だったら似てるかもね。大きさが違ったって、おっぱい……) 謎めいていたパズルの空白が、一気に埋まった。 『明美』と『アケミ』 最後のワンピースを摘まんで太一は、美紗を見下ろして、そして…… 初夏の匂いがする春風が吹き寄せてきた。 それと一緒になって、濃厚なメイクの香りと、熟成されたアルコールの匂いも纏わりついてきて、誰かが太一の背中に触れた 名残惜しそうに、指の先端でつぅーと軽く引っ掻いて、舞い踊る風の中へと消えた。 「今度は美紗のお姉さんに、俺の人生設計でも占ってもらおうかな? もちろん、家族割ってことで」 自称『不運な男』は、顔を上げて腹の底から声を出す。 踏み出す足に力を込めた。 赤らめた顔を俯かせて、本気の恥じらいをみせる少女の手を元気いっぱいに引きながら、白く輝く歩道を軽やかに進んだ。 完 前頁 |
作者とっきーさっきーさんのHP 羞恥.自己犠牲 美少女 みんな大好き♪♪ オリジナル小説 そして多彩な投稿小説 『羞恥の風』 |