第4話   女はどんな時だって下着で勝負なの!


予想もしなかった会話のすれ違いから、美和の直感が鋭く反応した。

(もうだめ。先輩のあの目を見てたら、隠し事なんて絶対に無理だよね)

彼女とは女子大に入学して以来の付き合いである。
3年間も同じ部屋で暮らし、先輩後輩の垣根を越えて本音で語り合ってきた無二の親友なのである。
心の中のわだかまりを突かれて隠し通せる図太さなど、綾音は持ち合わせていない。

「実は……先輩、わたし……」

「何? ちゃんと聞いてあげるから、綾音」

「わたし、先輩に相談したいことがあるんです。吉貴……ううん、その夜の営みのことで……」

綾音は、声を上ずらせながらも美和にすべてを打ち明けていた。
顔が火照り、額に汗の粒を浮かせたまま、夫との性行為の詳細を。
毎晩抱いてくれる吉貴の優しさに触れながらも、淡白なセックスのせいで、疼く身体を毎夜ひとりで慰めていることも。
寝息を掻く夫に背中を向けてオナニーする罪悪感を。

時々口ごもりながも話し続ける綾音の告白を、美和は口を挟まずに耳を傾けていた。
羞恥に顔を染めながら相談する後輩を相手に、完全な聞き役に徹している。
そして話し終えて俯いてしまった綾音の肩に、美和は自分の手を乗せた。
顔を持ち上げようとする綾音に柔らかい眼差しで頷くと、しっとりした大人の女の声で話しかけていた。

「綾音、よく話してくれたわね。辛かったでしょう」

「……はい。でも先輩に話したら、すっきりしました。こんなこと誰にも打ち明けられなくて……わたし、わたしっ……うぅっ、ぐすっ、ぐすん」

「ほら、泣かないの。綾音の泣き虫は相変わらずなんだから。でも良かった。私を信じてくれたんだね」

指の背中で目を擦る綾音の姿は、26才の家庭を預かる若妻から、あどけなさを残す女子大生の頃にタイムスリップしていた。
美和はそんな彼女の胸前に両腕を回すと、頬を寄せながら思いっきり抱き締める。

自分には欠片も残されていない初々しい女性らしさ。
それを全身から溢れさせている綾音に、ちょっぴり羨ましさを滲ませて。
反面、その初心な心に弄ばれ悩み続けていた後輩を、自分の手で何とかしてあげたくて。

「綾音、大丈夫だから。私がなんとかしてあげる」

美和は、ポンと自分の胸を叩いて見せた。



「綾音、そこに立ってくれるかしら?」

美和はリビングの奥まった所に綾音を立たせると、自分は数歩離れた先からアゴの下を手の甲で支えて、考えるポーズを作った。
そしてツマ先から頭のてっぺんまで、綾音の全身に向けて目線を往復させる。

「先輩……なにを?」

その舐めるような視線に不安なものを覚え、綾音は声を掛けた。
服を身に着ているのに、美和の妖しい瞳が彼女の身体を透視しているように感じたのだ。

「うーん、そうねぇ……」

けれども美和は答えてくれない。
悩ましい女の溜息を混じらせながら数分に亘って綾音を観察し、やがて解決策を見出したのか、今度はアゴの下にあった手で彼女を手招きする。

引き寄せられるように美和の真ん前に移動する綾音。
両手はもちろん、吐息まで届きそうな距離で二人の女性は見つめ合っていた。
だが、その出会いは数秒も持たなかった。
綾音に向かってニッと笑い掛けた美和が、突然腰を屈めたのだ。

膝と腰を曲げて中腰の姿勢を取ると、両腕を綾音に向かって突き出していく。
ダークグレイという落ち着いた色合いのスカート生地を、美和は指の腹で撫でながら下降させ、膝小僧が見え隠れしている処で止めた。

「せ、先輩……?!」

不安げな綾音の呼び掛けに恐怖が混じり始めている。
その声を背中で受け止めながら、美和の両指がスカートの裾に絡み付くように曲げられる。

「綾音、じっとしてるのよ」

主婦らしいひざ丈のスカートの前で、両腕を捧げてひれ伏す美和。
その折り曲げられた腰が、後輩への一言と共に真っ直ぐに引き伸ばされていく。
両手の指にしっかりとスカート生地を掴まれたまま。

「キャッ! イヤッ!」

綾音が少女の声で悲鳴を上げる。
一瞬のことで立ち竦んだまま、美和によって腰の上までスカートを捲られたのだ。

「先輩……どうして? 恥ずかしい、見ないで……」

20代半ば過ぎのムッチリとした太股が、余すことなく曝け出されていた。
その股の付け根を覆う逆三角形の布切れさえも、外気に晒され美和の両目に晒されている。

「やっぱりね。私の思った通りだわ」

「え? 何、なんのこと? 先輩……」

美和の意味深な答えに、下りかけた綾音の両腕が止まった。
パンティーが貼り付いた下腹部から視線を外そうとしない美和に、綾音は羞恥を堪えて聞いた。

「綾音。いくら主婦しているからって何よ、このショーツ。全然色気がないじゃない。どうせアナタのことだから、スーパーのワゴンセールとかで漁ったんでしょ?」

「そんな……色気って言われたって、やっぱり節約しないと……」

美和の答えは図星だった。
綾音は消え入りそうな声で反論すると、内股どうしをこれ以上ないほど密着させて捩り合わせていた。

「だめよ、綾音。その年でベージュ色したオバサンパンツを穿いてたら、心まであっという間にオバサン色に染まっちゃうわよ。節約もいいけど、女はランジェリーにだけは拘らないとね」

「は、はい……先輩……」

同棲していた頃は下着姿でも気にならなかった美和の視線が、今の綾音にはどうしようもないほど恥ずかしいのだ。
この2年間、夫にしか見せてこなかった下半身を突然覗かれたショックに、綾音は擦れた声で返事をするので精一杯である。

「ごめんね、綾音。ちょっと恥ずかしい思いをさせちゃったわね。でも私の言ってる意味、アナタにも分かるでしょ? せめて夜の営みの時くらい、エッチなランジェリーを身に着けて吉貴さんをその気にさせないと」

美和の両手がスカートから離れて、ベージュ色をしたパンティーが姿を消した。
膝小僧を覆うふわりとしたスカート生地の感触を意識しながら、綾音はコクンと頷いていた。


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