第2話   あなたの寝息を耳にしながら、綾音は感じているの


「むぐうっ……は、はあぁぁっっ……」

綾音は、差し込んだ右手を太股で挟み込んでいた。
吉貴の寝息を背中に受けながら、次第に昂ぶる快感を更に高めようと指を小刻みに前後させる。
指先をカギ状に曲げて、膣ヒダを引っ掻くように突き上げていく。

ミシ……ミシ……と、ダブルベッドか微かに軋んだ。
清めたはずの女の部分からは淫水のフェロモンが湧き立ち、恥肉を嬲る指先が淫らな水音を奏でている。

(綾音って、いやらしい女。昨日もこっそりオナニーして。その前の日も。そのもうひとつ前の日だって。でも、自分でアソコを慰めてあげないと眠れないの。割れ目の中がジンジンして、エッチな刺激を求めてくるの)

吉貴は綾音にとって勿体ないほどの良く出来た夫だった。
結婚して2年。一家の主としての真面目な仕事ぶりもさることながら、家庭生活においても、綾音に優しく接してくれている。
深夜に行われる夫婦の共同作業も、同じくである。
夫婦のスキンシップを高めようと、ほとんど毎日のように綾音の身体を愛してくれているのだ。
だが、その愛し方には少々問題があった。

毎夜、仰向けに寝転んだ綾音に覆い被さると、亀裂に添って2、3分、指をくちゅくちゅっとするだけでペニスを挿入させる。
そして、スタートからラストスパートのように腰を突き動かし、ものの3分で射精して終わり。
余韻を愉しむ間もなく、本人は眠りに付くのだ。
要するにセックスが淡白なのである。

綾音自身も、新婚の頃はそんな単調なセックスで満足していた。
女子高、女子大と、同性だけに囲まれて学生時代を送った彼女は、社会人になり職場で知り合った吉貴と結ばれるまで、男を知らなかったのだから。
けれども今年で26才になる成熟した肢体は、吉貴とのセックスを重ねるたびに不満を持ち始めていた。
知らず知らずに開発されていく綾音の肉体が、更に濃厚なセックスを求めるようになっていたのである。

(だから今夜だって、恥ずかしいのを我慢して話してあげたのに。その……オ、オチ○チンって。口にした時は、顔が火傷するくらい熱くなって、それで……綾音のアソコもキュンとなって……やだ、思い出しただけで、またお汁が……)

くちゅ、くちゅ、ぐちゅう、ぐちゅぅ……ずにゅゅぅぅ……

「んんっ……ふむうぅぅっっ、はん、はむぅっ!」

指のペニスが動きを速めていく。
中途半端だった官能の炎が、下腹部全体に燃え広がり、背筋を気持ちいい電流が駆け昇っていく。

綾音は口を覆っていた左手を枕に置き換えると、右手を追うように下ろしていた。
効き手の指を濡れそぼるヴァギナに沈めながら、左手指に亀裂の先端を弄らせたのだ。
感じるためだけの性器クリトリスを、揃えた指の腹でシュルシュルと擦り上げていく。

「あうぅぅぅっっ! ふくうっ、んくぅぅっっ!」

オナニー独特の快感を愉しむ余裕は、綾音にはなかった。
夫を起こさないように、声を殺しながら短時間に昇り詰めるのに一生懸命だった。

(膣が感じる! クリトリスも、感じちゃうぅっ! 指を押し付けると、お豆が気持ちいいのぉっ! ねぇ、吉貴は知ってた? アナタが割れ目をくちゅくちゅしてくれる時に、綾音が腰をモゾモゾさせてたのを。あれって、吉貴にお豆を弄って欲しかったからだよ。綾音はここを触られるだけでイッちゃえるから。ほらぁ、今だって)

くにゅ、くにゅ、くにゅ……ぐちゅう、ぐにゅぅぅぅっっ……

「ふっ……くうぅぅっっ! ふうぅぅっっ!」

枕から洩れる息遣いが、激しく短くなってきた。
ツマ先までピンと伸ばした脚の間で、10本の指がその速さを更に増した。
右手指のペニスが膣奥深くに挿入されたまま、絡みつく粘膜を引き伸ばしていく。
左手の人差し指がクリトリスの包皮を引き剥き、親指の腹でグリグリと押した。

頭の中が白く染まっている。
隣で聞こえていた吉貴のいびきも聞こえない。

両手の指に掻き回される恥肉が擦れる音と、シーツに沁みを残す勢いで溢れる愛液の水音。
それだけが、鼓膜を突き破って脳の中に響き渡っている。

(イッちゃう! 綾音、オナニーで絶頂しちゃうっ!)

「ふぁ……あうぅぅ……んん、ぅぅぅぅうーぅぅっ!」

急に身体が軽くなった。
頭のてっぺんを目掛けて、気持ちいい電流が突き上げていた。

膣壁がキュッと縮こまり、指のペニスを膣奥の扉へと引き込んでいく。
同時に、シュッと音を立てて淫水が湧き出し、花弁を覆う手のひらをしっとりと濡らしていた。

綾音は自分自身の指で絶頂に達した。
今夜も、昨日も、一昨日も……
淡白なセックスに耐え切れなくなった肉体を慰めるために、夫に隠れてオナニーをしたのだった。

「はあ、はぁ……んんっ……はあ……」

エクスタシーを感じた後も、綾音の身体を何度も襲う快感の小波。
女の快感は一瞬で終わる男のものと違い、ある程度持続する。

そんな虚しい快感の波が収まるのを、綾音は胸を上下させながら待ち続けていた。
横向きの身体を仰向けにして、ほの暗い天井をぼぉっと見続けている。

「綾音って、最低……」

ようやく整った呼吸を待って飛び出したのは、自分を傷つける言葉。
今夜も……昨夜も……その前の夜も……

同じ言葉を吐いて、同じ深い溜息を吐いて、そして、ティッシュを同じ枚数だけ引き抜いていた。
同じ動作で濡れた花弁を拭い、ぷんと女の匂いがする指を拭った。
10本の指すべてを……

「おやすみなさい……吉貴……」


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