第7話 バージンはアルトリコーダーに捧げて


わたしはまだ、本当のセックスを知らない。
だけどとってもスケベな女の子だから、予備知識だけなら豊富なつもり。

愛し合う時は生まれたままの姿で、お互いに。
ベッドの中で抱き合って、女の人の大切な処に硬くて大きくなった男の人のモノが挿入されて……

薄暗いを通り越して、ほの暗い空間で、わたしは忘れかけていたアルトリコーダーを思い返していた。
汗に濡れた左手の指にしっかりと掴ませていたのに、そんな想いに浸ってから、黒とクリーム色の楽器を改めて見つめた。

「よろしくね、リコーダー君」

カチカチの唇で微笑んでもみせる。
そして、コンドームの被さった先端部分を上向けたままゆっくりと下ろしていく。
同時進行でお股を肩幅に開いた。
背骨を湾曲させて上半身を前傾させる。

心臓が激しく鳴っている。
だけど聞こえない。
半開きになった唇が、過呼吸みたいに乱暴な空気の出し入れをしている。
でも、全然気にしない。

わたしの五感の神経のすべてが、太腿の付け根に集中している。
もっと正確に言ったら、女の子の割れ目、そうよ!
オマンコをビリビリするくらいに緊張させているの!

「は、入るよね……だ、大丈夫だよね……」

今頃になって口にしてはいけない言葉なのに、ピュアな女の子が怖気づいている。
アルトリコーダーではなくて、ソプラノリコーダーにして欲しかったな。なんて、甘ったれなわたしがみっともない願いを漏らしている。

「うぅ、うふふ♪ 全然、平気……だから」

けれども、そんなわたしに同情したって、何になるの?
10秒という遥か大昔に漏らした呟きを、即座に否定してみせる。

目の前の席に座って、覗き上げるように眺めてくれる、きっとその人のことを思えば、これはとっても嬉しいことなんだから。

くちゅ、ちゅく……

「はうっ……! か、硬いのね……リコーダー君って」

伸ばし切っていた両肘をほんの少し曲げた。
わたしの腕と変わらない長さをしたアルトリコーダーが、ズズッと持ち上がって、口先の部分が触れた。
その人の呼吸と、唇と、舌と、唾液がひっついている聖なる部分を、わたしは大切なのに汚らわしい女の子の割れ目に擦りつけていた。

そこは少し濡れていた。
指を這わせてもいないし、太腿だってモジモジしてないけど、処女な膣は何かに期待して疼いているの。
怖くて不安な気持ち80パーセント。
エッチに興奮しているわたしは20パーセント。
全身が震えて、全身の肌が鳥肌に覆われて、それでも身体の芯だけは、ジュクジュクしたスケベなわたしに占領されている。

「ハア、ハァ……ンンッ、クフゥッ……!」

腕をもっと曲げれば、わたしはリコーダーと結ばれる。
ついでに腰を落とせば、更に深くで愛を感じられる。
その人だって、人懐っこい瞳で見届けてくれるはず。
なのに、漏れ出した吐息はリコーダーに負けないくらいに硬くて痛々しい。

ほら、早く入れなさい! お股の真ん中を貫きなさい!

引っ張って、焦らせて、勿体ぶらせて、両目をキツネのように吊り上がらせたわたしが急かせてきた。
どんどん暗くなって黒絵の具だけの教室も、ヌメっとした空気を送り込んでは無言の圧力を加えてくる。

ズニュ、ズニュ……

「いぃ、痛ッ! ングゥッ、クゥッ!」

スキンに包まれたリコーダーのヘッドが、割れ目のお肉を拡げて潜り込んだ。

緊張しすぎているの?
超過敏になってるから?

膣の入り口がピンポン玉を押し込んだ程度の拡張で、ズキズキとした痛みの疼きを覚えた。
男の人のモノより推定ちょっぴり大きくて、ぶっ格好なリコーダー君との初体験に、後悔という単語が脳裡を掠める。

バージンを失くすのって、とっても辛いのかな?
女の子の大切な思い出を、自分の手で失うことってイケナイことなのかな?

わたしはアルトリコーダーの下部分を、逆手に握り締めて固まっていた。
一人ぼっちの教室で、全裸のまま、全身を嫌な汗でビッショリにさせて、両足をラジオ体操をするようにしっかりと拡げて踏ん張らせて。
むき出しの女の子の割れ目を中途半端に穢させたまま、彫像みたいに。
そして……

ガラ……ガラ……ガラ……

わたしの両腕は届かないのに、教室の扉が微かな音を立てて引かれた。

コツ……コツ……コツ……

わたしの両足は床板に貼りついたままなのに、柔らかな靴音が響いた。

スル、スル、スル……ファサッ……

わたしの身体は一糸纏わない素裸なのに、どうして?
優しげな衣擦れの音が背中の真後ろで聞こえて……

「バカよ、アナタは……」

有り得ない!
絶対に有ってはならない天使の歌声を、わたしの鼓膜が確かに拾った。

「だけどね……嬉しい……」

「あぁ……ああぁ……」

無人のはずの教室にその人を感じた。
ダイレクトなその人の想いに、声帯がただ揺らされていた。

「知ってたよ、アナタの気持は……いつも視線を送ってくれて……」

あったかい肌が、わたしの背中に触れた。

「だけど、チラッと見返したら目を逸らしてたでしょ。アナタと見つめ合いたかったのに」

思い浮かべていたのと一緒、密着するお肌は、スベスベしてモチモチしていた。

「陽だまりの席で、こっそりとオナニーなんかして……」

その人は裸だった。
ブラもショーツも身に着けていない、天使の身体でわたしを包み込んでくれている。

「朝、何時に起きてここへ来たの? わたしの机でも、アソコを擦りつけてオナニーして、うふふ、とってもエッチなんだから」

わたしの右肩に、その人のアゴが乗っかっている。
黒目がちな瞳を愛おしそうに細めて、伏せていた顔を覗かれて、拗ねたように笑った。


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