第2話  ときめく美少女は……縞パン?


やがて、更に半月が経過し……
週一だった歩道橋通いが、今では3日に一度。この1週間は2日に一度のペースになってきている。

「……ったく、あんな男に何が分かるっていうんだ。『このままでは君の座席はなくなるよ』だと……ふっ、面白い! やれるもんだったら、やってみろってんだ。はっ」

面白くない昨日の出来事に俺は毒づいた。
2時間くらいの遅刻がなんだというのだ。
入社以来、馬車馬のように働いてきた俺に対する報償だと思えば、これくらいの我儘はどうってことない。
なぁ、そうだろう?

橋の下の住人に変装した俺は、臆病風を吹き飛ばそうと自分に問い掛けてみる。
その横を俺の存在など無視するかのように、乾いた靴音が通過する。

「ちっ、1時間粘ってキャバ嬢もどきの朝帰りひとりじゃな」

液晶画面に映るけばけばしいヒョウ柄のTバックパンティー。
ルックスは結構イケてたと思ったんだが……これは俺好みじゃねえよな。

基本、俺は同じ女をターゲットにすることはない。
そのつまらんポリシーのためか、自然と目ぼしい女の数は減っていくことになる。

でも、あと1時間ほど粘ってみれば……
俺は腕時計に目をやった。
午前9時。今朝も遅刻が確定する。

「旦那、もういい加減にしたらどうかね。こう毎日の通い詰めじゃあ、お前さん。会社をクビにされちまうぜ。そりゃあ、わしは有り難くお金を頂戴しているから構わないがね。なにもその若さで、わしのような身分に転落することはなかろうによ」

「うるさいなぁ。重蔵さん、ほっといてくれよ」

重蔵さんはやれやれと首を横に振る。
とうとう、親身になってくれるこの人にまで毒づいてしまった。



そして、更に30分が経ち……
さすがに弱気になってきて、撤収を考えていたその時だった。

歩道橋に向かうひとりの女子学生が、俺の目にとまった。
違う、とまったというより釘付けにされていた。

可愛い! ちょっとやそっとではお目に掛れない天然物の美少女だ?!
それに……? それになんだ?!
いや、今はそれどころじゃない。

肩先に拡がる黒髪が、朝陽を浴びて反射する水面のように輝いている。
まるで日本人形のように整った目鼻立ち。
だが、冷たさは微塵も感じない。
そして、目立ち始めた胸のふくらみ。
その紺色の上着の胸ポケットには、有名私立校の校章。
今どきの女の子らしいミニスカートから伸びる、スラリとしたモデルのような素足。
それでいて、女の香りを漂わせる腰回り。

いいのか? こんな美少女がいて。
俺は向かってくる少女を目で追いながら、初恋の相手のように胸をときめかした。

絶対にミスれない! なにがなんでもこの美少女のスカートの中を見てやる!
この美少女のパンティーを覗いてやる!

耳を鉄の天井に当てるようにして、タイミングを計る。
やがて、階段を上る柔らかいクッションのような靴音が響いてきて、今までにない高鳴る鼓動を聞いた。

「1・2・3・4……」

指を震わせながらボタンを押した。
そのまま、靴音が何事もなく立ち去るのを祈るような気持で待ち続けた。

音が次第に遠のいていく。
俺は食い入るようにスマホを見つめた。
ギラついた中年の目で舐めまわしていた。

「と、撮れてる! それも……し、縞パン……?!」

ドーム状に拡がったスカートの裏地。
そこから、にょきっと伸びた健康的な太もも。
その付け根を覆うブルーとホワイトのストライプ柄の予想よりも幼げなパンティー。

おまけに恥ずかしい縦じわまで、こんなに鮮明に……
この下には、あの女の子の割れ目が、おま○こが……

思わず俺は立ち上がり、低い天井に頭をぶつけそうになった。
腹の底にあるモノをぶちまけてガッツポーズまでしようとした。
でも今はそれくらい興奮している。
誰にも教えたくない秘密の宝物を隠し持っている。そんな子供じみた不思議な感覚だった。

「旦那ぁ、傑作写真でも撮れやしたかい? そんなに嬉しそうな旦那の顔、初めて拝みましたぜ」

「あ、ああ……そうかい。はははっ、それじゃ、出社するよ」

「行ってらっしゃいましぃ……」

重蔵さんに見送られながら歩道橋を後にする。
この後待ち受ける、気に入らない上司の叱責も全然気にならない。
『基本、俺は同じ女をターゲットにすることはない』
そんなつまらないポリシーもクソクラエだ。
今はそういう気分だった。


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