1.
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」 女子更衣室に忍び込んだ俺は坂井美月と書かれたネームシールが貼ってあるロッカーの前にたった。禁断の扉の前にたっただけなのに手足がプルプルと震えている。 大きく呼吸をし、グレーのロッカーの扉を開くと、見慣れたブルーの制服が目に飛び込んだ。 ゴクリと唾を飲み込み、吊るされている制服をハンガーごと手に取った。 (ああっ、美月) 手にした制服に顔を埋め、くんくんと匂いを吸い込んだ。仄かに残る美月がつけている香水の甘い香りが、社屋にはいった時から勃起している肉棒を更に膨らます。 俺は逸る心を抑え、上着の内側に隠されているスカートを慎重に抜き取った。 そして、上着を元の場所に戻し、手にしたスカートを裏返し光沢のある裏地に鼻を寄せ、甘い香りの中に隠された生臭い女の体臭を探った。 スラックスの内側にある肉竿がピクッと震える。 (ああっ、美月……美月のお尻がここに触れているんだ……) きゅっ、きゅっと小さなお尻を揺らしながらオフィスを歩く美月を脳裏に浮かばせながら、濃紺の生地に舌を這わす。陰唇を舐めているときのように、ピチャ、ピチャと卑猥な音を立てながらポリエステルを唾液で濡らしていく。 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……くそぉ、美月とやりてぇ」 俺の肉竿はスラックスを突き破らんばかりにパンパンに膨張している。 俺は堪らずスラックスとボクサーブリーフを一気に脱いだ。外気に晒された肉竿の先端は透明な汁で光っている。早く刺激を与えてくれと言わんばかりにピクッピクッと揺れている。 肉竿にスカートの裏地を被せ、扱き出した。 熱くなったものにポリエステルの冷たい感触が気持ちいい。ツルツルの裏地をしわくちゃにさせながら、前後に力強くスライドさせる。 「あぁ、いい、気持ちいいっ……みつ……美月ぃ」 美月のロッカーにある小さな鏡の中の自分と目があった。蕩けそうな目をし、だらしなく唇を開いている変態がそこにいた。 こんな姿を誰かに見られたら身の破滅だ。 しかし、今日は日曜日で会社は休みだ。貴重な休みにわざわざ出勤するやつなどいないだろう。今日は俺だけの空間。誰も邪魔はできない。俺が全てを支配している。思う存分いやらしいことができる。 瞳を閉じて、この美月のスカートを腰までまくって、尻を突き出している美月を激しく突いているところを想像し手の動きを早めると忽ち射精感が込みあがる。 「くっ、くぅっ、だっ、出すよっ! 美月ぃ、美月のお○んこに中に俺のザーメンをぶちまけるぞぉっ! おっ、うっ、ううっっっ!」 普段、心の中で吐く言葉を叫んだ。と、同時に肉竿が力強く脈打ち、ドバッと熱い液が冷たい生地に広がった。 「ハァ、ハァ……」 全ての欲望の液を吐き出し、そっとスカートをまくると、粘り気のある濃い精子が広がった。普段より量も多い。 直に拭き取らなければ染みになるだろう。テッシュで拭き取るだけではダメだ。水分を含んだ布で丁寧に拭きとらなければならない。 スカートを自分のスラックスの上に丁寧におき、スラックスのポケットからハンカチをとった。 「ふっ」 スカートの裏地を精子で汚したのに、床の汚れでスカートを汚さないようしている自分がおかしくて鼻で笑った。 それにしても見事に出たものだと精子を見て思った。これだけのもの、このまま拭き取るのが惜しいとさえ思えてくる。 明日、このスカートを美月が穿く。精液で汚されたと知らずに、一日を過ごす。そんなことを想像すると、再び股間が疼いてくる。 オメガの腕時計を見た。午後二時まで後数分だ。美月が出社するのは約十八時間後。それだけの時が過ぎれば、精子も乾くかもしれない。ガビガビの状態で。 いや、これだけドロッとしたものだから、湿ったままかもしれない。であれば、気づかれるかもしれない。なぜ、濡れているのか? 湿っているのか? と疑問を抱きながら、スカートの中を確かめるかもしれない。 そして、美月の細い指にとろりとしたものが――。 少女ではない、今年、三十路を迎える人妻美月。それが男の欲情のあかしであると直わかるだろう。 誰がこんなことを! と怒りに震えるかもしれない。 それとも、自分が雄のいやらしい欲望の対象とされていることに興奮を覚えるか。 後者が理想ではあるが、現実はそうもいかないだろう。もし、美月がこのことを他の女子社員に話し、噂になったら大変だ。 それに、普段、ここ倉庫兼事務所に男は俺と経理の山崎、商品管理の斉藤しかいない。後は営業事務の美月を含め女三人だ。他の従業員は郊外の大型ショッピングセンター其々の店舗にいる。
三人の男、そのうち誰が? と考えると、お店の女の子と社内恋愛中である斉藤のことは皆知っているから彼は最初に消去されるだろう。 また、俺はいつも紳士的に振舞っているから大丈夫だろう。 もっとも怪しく思われるのは、山崎かな? 彼は俺と同じ三十八歳だが、独り身だ。また、彼女もいない。それも、そのはず、この歳でスマートフォンの待ち受け画面をアニメのキャラにしていたりとかなりのオタクがはいっている。 仕事以外の会話といえば、大半がアニメの話し。 それに加え、普段身体を動かさないせいか、肥満体系だ。また、女のように肌が白い。たまに見せる女のような仕草にはぞっとする。 まぁ、経理マンとして優秀だから、趣味に関してはどうでもよいのだが。 何にしろ、彼が最も疑われるだろう。 美月の反応に興味があるが、業務上支障があるとまずい。それに、先のことを考えると美月に構えられると上手くない。 やはり、痕跡は消そう。 俺はハンカチを握り、給湯室に向かった。
こんな変態的なことをした俺は何を隠そうこの会社、女性向けのインテリア雑貨店を三店舗持つ経営者である。 もちろん、妻も子供もいるし暮らし向きもそれなりによい。 そんな恵まれた生活をしている俺がなぜ部下の制服で自慰をする必要があるのか? その訳はいろいろとある。 一つは、妻とは所謂セックスレス夫婦であることだ。最後にセックスしたのはいつだっただろう。出産後、何度か重ねた義務的な妻のセックス。そこには愛し合う男女の激しさはない。射精したら、はい、おしまい、そんな冷めたもの。 昔、淫乱だった妻はどこかへ消えてしまった。むろん、過去に戻そうと努力はしたのだが。 そして、俺は諦めた。 が、人一倍性欲が旺盛な俺はその情欲のはけ口に困った。遊ぶ金はあるので、性風俗を利用すればいいと思うかもしれない。しかし、この県では最大の都市とはいえ、都会ほど人口もいない。また、地元の出版誌に写真いりで何度か記事にされたこともある。地元ではちょっとした有名人だ。女性向けの商品を扱うお店のオーナー、きっと、風俗嬢も知っているだろう。 地元では無理だ。風俗嬢と遊んでいることが、噂になったら企業イメージを損ないかねない。 そんな訳で、月に一度の都会への出張のときにだけ、ネットで調べたデリヘル嬢をホテルに呼んで数時間の官能のひと時を楽しむ以外はネット上のエロサイトをおかずに右手で慰めるという日々がつづいている。 それにしても、独身時代、女に不自由していなかったので、まさか、自分がこんな乏しい性生活を送るとは思ってもいなかった。 このまま歳を重ねやがて人生の幕を閉じる。性に満たされることなく。なんて虚しい人生なのだろう。 風俗嬢もそろそろ飽きてきた。やはり、いつでも抱ける女が欲しい。床上手で従順な女。もちろん、フェイスもいいにこしたことがない。 そして、家庭にまで踏み込んでこない女。そう考えるとやはり人妻か。できれば、子供がいる方がよい。大概の母親は子供を悲しませるようなことはしたくないから、離婚には慎重である。もちろん、俺もそうだから。 しかし、そんな理想的な女、易々と見つけられものではないだろう。 どうすればよい? と頭の中が混乱していたときに美月と出会った。 あれは、去年の十月だった。 勤めていた営業事務の女の子が寿退社することになり、その欠員補充として従業員募集をかけた時、面接にきたのが彼女だった。 美月を見た瞬間、心の中がざわついた。いい女だと。また、履歴書を見るまでもなく左手の薬指にはめられた指輪で彼女が人妻であることはわかった。 人妻であると知りながらも、ひょっとして、彼女との出会いは運命の巡り会わせかも? と久しく忘れていた異性へのときめきを感じながら面接を終えた。
言葉では一週間後に採用の成否を連絡するとは言ったが、心の内側では即決、つまり雇うと決めていた。 そして、その晩、初めて美月との肉欲の世界を妄想しながら精を放った。
それからというもの、きまって美月は自慰のオカズになった。 妄想の世界の美月はとても淫乱な女だ。事務所に倉庫、会社のトイレとどこでも俺を求めてきた。 もちろん、俺が全てを支配する中での美月だから、当然ではある。しかし、コレが現実になったらどんな充実した日々をすごせることだろう。 美月の薄いピンクのルージュで彩られた唇で俺の肉竿を挟み込まれたい。ぷっくらと膨らんだ二つの乳房は実際どんな感触がするのだろう。あの形のよい小振りなお尻を乱暴に揉んでみたい。細い腰をがっしりと掴み、背後から力強く貫きたい。 妄想を現実へ、美月を抱きたいとの思いは日増しに膨らんできた。 いや、それだけではない。美月を思うと胸が苦しくなる。そんな感情も走るようになっていた。 恋……そう、いつの間にか俺は美月に恋していた。 美月のことをもっと知りたい――。
しかし、その為には行動が必要だ。 どうやって誘うか? 自然な方法は? そうだ! 二月十四日に貰った義理チョコへのお返しで食事に誘うのはどうだろう。これならスマートに言えそうだ。 そして、三月十二日金曜日の午後、美月と事務所で二人きりになった時、食事に誘った。 美月は嬉しそうな顔をしたので、これはイケルと思ったが、彼女から出た言葉は期待を裏切るものだった。 夜は無理だが、昼間ならばご馳走になると言う。こっちは夕食を共にしたかったのだ。ホテルのレストランを予約して、アルコールを飲みながら口説き落とし、そのままベッドインするつもりだった。 お昼ではどう考えても無理だ。なにしろ、他の従業員の目があるので誘うだけでも難しい。 つまり、遠まわしに断られたのだ。 それでも、粘った。 『うーん、お昼かぁ。ちょっと時間がたりないなぁ。プラザホテルのフランス料理のフルコースと思っていたからね。なんとか、夕方に都合がとれないかなぁ』 『え、そんな、プラザホテルですか……あそこのフランス料理といえば、あのお店ですよね?』 『うん、あのお店だよ』 『食べてみたいなぁ……。けど、食べてみたいけど、やっぱり主人と子供の夕食を作らなければならないから、無理です。すみません』 『……仕方がない。じゃあ、別の形でお礼させてもらうよ』 『……いえ、そんな気をつかわれなくてもいいです。本当、お気持ちだけで嬉しいですから』 『そっか……残念だけど、仕方がないね』 『すみません。でも本当に嬉しかったです』 申し訳なさそうに言う美月に俺は冷静さを演出していたが、腸は煮えくり返っていた。俺は顔は引き攣らせながらデスクに戻った。 (くそぉっ、あの女。せっかく誘ってやったのに! 俺の気持ちを踏みにじりやがって!) とても仕事をする気分ではないし、美月と同じ空間にいることに絶えられず、このまま店を回って今日は直帰するといい会社をでた。 美月にとっては全く持って理不尽なことだろうが、俺の美月に対する気持ちは恋愛という感情から憎しみへ変わった。 美月を犯し辱め、支配するというものへ。
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