第22話
「えっ!?」
「あ、別に変な意味じゃないですよ」
「あ、はい、はいりましたよ」
「ふ~ん。もしかしたら、寝室……ってことはないですよね」
「はは、それはないと思んだけどなぁ……」
寝室という二文字に動揺しながら、とぼけた素振りを見せた時、LDKのドアが開き髪の毛を後ろで束ね紺のワンピースにピンクの花柄のエプロンを身につけた久美がはいってきた。
「どぉ~、見つかりましたぁ~」
久美が俺に向かって第一声をあげた。
「はい、ありましたぁ~」
俺が応える前に、みどりが喋った。しかも、不可解なことを言っている。
「よかったですねぇ~、吉川さん」
満面な笑顔を俺に向ける久美に曖昧な返事で応えて、みどりへ視線を移す。
言葉を出さずに、どうして? と目で訴えたが、みどりは俺の訴えに応じることなく、久美に向って、口を開いた。
「ねぇ~、久美さぁ~ん。もぉ、十二時過ぎちゃいましたよぉ~。吉川さんも、お腹ペコペコで、倒れちゃいそうだっていってますよぉ~」
「あ、そう、そうねぇ。直に作りますねぇ。けど、吉川さんそれでいいんですか?」
久美は鍵が見つかったのに家に戻って着替えてこなくていいのか、と訊いている。もちろん、鍵があれば直ぐにでもそうしたいのだが、鍵を持っていない俺は家に戻れない。
「え、えぇ……」
「そ、そうですか……わかりました。じゃぁ、早速、作りますから、吉川さんはくつろいでいてくださいね。あ、よかったらテレビで見ていてください。それと、みぃちゃんは私の助手をしてちょうだいね」
「はぁぁぁぃ」
みどりは明るく返事をしてソファから立ち上がると、俺に意味深な笑みを向け久美の待つキッチンへ向かった。
俺は思考が混乱する中、テレビのリモコンを手にし、テレビの電源をいれていつもこの時間に見ている公共放送のお昼のニュースにチャンネルをあわせた。
液晶画面にはまた閣僚が失言をしたと放送されている。
いつも、またか、と思いつつ、失言を繰り返しては謝罪する彼らに腹立たしさを覚えるのだが、今はそれどころではない。なぜ、みどりがキーケースが見つかったと言ったのか? そのことで頭がいっぱいだ。
たぶん、キーケースはみどりがどこかで見つけ、持っている。
そうでなければ、キーケースが見つかったなんて言うはずがない。なにしろ、鍵がなければ俺が家にはいれないことは承知しているはずだ。
俺がここから出るまでに鍵を渡してくれなければ、さっきの発言が嘘だということになる。
もし嘘ならば、なぜ、嘘をつく必要がある?
その嘘を、俺はともかく、久美にどう説明する?
嘘をつく理由が見つからない。
たぶんではない、間違いなくみどりはキーケースを手にしている。
しかし、なぜ、鍵を持っているのに、俺に渡してくれなかったのだろう?
俺が困っているのはわかっていると思うのだが……不可解な行動だ。
それに、いったいどこで、キーケースを見つけたんだ。
この部屋LDKにあったのだろうか? いや、たぶん違うだろう。ソファに座ったくらいでこのポケットからキーケースが零れ落ちることはないと思う。
だとしたら、どこ?
俺が最初から思っているように、やはり、スウェットパンツを二度脱いだ寝室しか考えられない。
みどりは寝室に入ったか? と俺に訊いてきた。
別に寝室でなくても、子供部屋や和室に入ったか、と訊いてきてもいいはずだ。
寝室で俺が探し求めているものを見つけたからこそ、寝室と訊いてきたのではなかろうか?
しかし、いつ寝室にはいったのだろうか?
作者しょうたさんのHP『官能文書わーるど』 自作小説・投稿小説・コラボ小説・投稿体験談が掲載。 作品数は小説だけでも700作品を超え、まさに官能の巨城。 質・量・見易さ、三拍子揃ったすばらしいサイトです。 |