第1話 これは大学1年生吉野美樹と同じ学科の水野肇が夏休みに体験した屈辱の物語である。 二人は大学で知り合い今は恋人の関係になっていた。 二人は夏休みを利用して東北の奥羽山系に登山に行き、道に迷い今まで人が足を踏み入れたこともないような秘境で野宿する羽目になった。 もうあたりは真っ暗闇になっていた。 二人は集めた枝木で焚き火をし肩を寄せ合って今後のことを話し合っていた。 「肇さん、狼など出ないかしら」 「大丈夫だよ、僕がついてるから」 「私達帰れるかしら…・・大丈夫よね」 と美樹はこみ上げてくる不安を押さえて肇に笑顔を見せるのだった。 二人は谷間の川原に寝袋を敷いて体を寄せ合って向う岸にうつろな視線を向け沈黙が続いていた。 その時、 「ねっ、あれ何!」 と美樹が向う岸の方を指差した。 向う岸の山の中腹に灯りが見えるのだ。 「誰かいるんだ、美樹、川を渡ろう、見失わないうちに行かなきゃ」 と肇は立ち上がり洋服を脱ぎ出した。 「美樹、お前も服を脱いで濡らさないように頭の上に乗せて渡るんだよ」 「えっ、裸になるの」 「僕しかいないじゃないか、まして真っ暗でなにも見えないよ」 「そうね、わかった」 と美樹もTシャツとジーパンを脱ぎ白い下着姿になった。 肇もブリーフ一枚になっている。 「よし、渡るよ、美樹、僕の手をしっかりと握っているんだ」 と肇は脱いだ服を頭に乗せ美樹の手を引いて川に足を踏み入れた。 夏とはいえ水は冷たかった。 やっとのおもいで二人は川を渡りきった。 「美樹、体を拭いてる暇などないよ、あそこまで行くうちに乾いちゃううよ、急ごう」 と二人は脱いだ洋服を小脇に抱え小走りに下着姿で山に入っていった。 鬱蒼と茂った密林のような中をかき分け二人は必死に進んだ。 二十分も走ったのであろうか、前方が明るくなった。 「美樹、この姿じゃ人に合えないよ、ここで洋服を着よう」 と肇は自分達が下着姿であることに気づき抱えていた洋服を急いで着はじめた。 美樹もあわてて洋服を着た。 「よし、行こう」 と肇は美樹の手をとり灯りに向かって進んだ。 「もうすぐだよ、美樹」 と肇は足を速めた。 突然、林がなくなり大きな広場のようなところに二人は出て唖然とした。 目の前に小さな部落があるのだ。 そればかりではない部落というより江戸時代を思わせる町並みなのだ。 なぜ、こんな山奥にこんな町があるのであろう。 二人は安心と不安が交差した状態に足が止まった。 「肇、なにこれ、こんなところに江戸村があるの」 「まさか、こんなところに、何か変だな」 と肇は恐る恐る美樹の手を引いて進んだ。 「誰もいないのかな……美樹、ここの建物昔の代官所みたいだね、ちょっと入ってみようか」 と肇は半開きになっている門の扉を押し開け中に入った。 中は庭になっていてその真中あたりに焚き火か見えた。 そしてそのまわりに数人の人影が見えたのだ。 「あっ、誰かいる」 と肇は美樹の手を引いて小走りに走った。 「すみません、私達山で迷子になったんです」 と肇は叫びながら人影に近づいて行った。 その時、美樹が突然肇の手を引いて止めた。 「肇、あれ見て」 と美樹が焚き火の前方を指差した。 肇は立ち止まり美樹の指差す方に目を向け唖然とした。 なんと焚き火の灯りにうっすらと照らされ白木の十字架が浮かびあがっているのだ。よく見るとその柱に全裸の若い女が両手を左右に広げられ磔にされているではないか。 肇は映画の撮影かなと思った。 しかし、こんな秘境で撮影なんておかしい、そんなことを考えているうちに焚き火のまわりに座っていた人影が近づいてくるのだ。 「肇、怖い、なにあの姿」 と美樹は肇の後ろに身を隠すようにしがみついた。 近づいてくる人影がはっきり見えるようになって二人は再び唖然として声も出なくなった。 近づいてくる男は五人いた。 その姿が江戸時代の役人のような姿なのだ。 「おい、君達、どうしてこんなところに来たのかね」 と一人の男が尋ねてきた。 「は、はい、道に迷ってしまい、灯りが見えたので」 と肇が震えた声で言った。 「そうか、ビックリしたかね、映画の撮影なんだよ」 と男がニッコリと笑った。 その顔に二人は緊張が解けた。 美樹は気になったのか磔にされている女に目を向けた。 その若い女は美樹の方に目を向け何かを話そうとしているように見えた。 しかし、口にはきつく猿轡が噛まされていて声にならないのだ。 美樹は視線を下方に移した。 女の股間に陰毛がないではないか。 ありありと縦筋の割れ目が見えている。 美樹はその不自然さにまわりを見まわした。 撮影といったがどこにもカメラなどないのだ。 その時、 「お嬢さんもこちらに来なさいよ」 と男の声がし美樹はハッとした。 「はっ、はい」 と男達の方に向き直ると肇が男達と焚き火のまわりに座り込んでいるのだ。 「とうぞ、どうぞ、お嬢さん、こちらに」 と一人の男が美樹を案内した。 「美樹、ここへ座れよ、一時はどうなるかと思いましたよ、ああ、よかった」 と肇は何も気にしないように男達と打ち解けているのだ。 「はい、お嬢さんもお茶でも飲みなさい」 と一人の男が美樹にお茶を差し出した。 「あっ、ありがとうございます」 と美樹は受け取った。 美樹はなにかこの不自然さが気になっていた。 カメラもないのにどうしてあの女の人が磔のままでいるのだろう。 撮影が終わった後だとしても、女優とはいえあのようにいつまでも性器を晒しているのもおかしい。 美樹はそんなことを考えながらお茶を口にした。 肇は男達と笑いながらなにか話をしている。 なにも気にならないのだろうか。 私の考えすぎなのであろうか。 美樹はまた磔にされている女の方に目を向けた。 どうして撮影が終わったのにあんな恥ずかしい姿のままにされているのであろうか、男達の前にありありと性器を晒している同性の姿を見ているうちに自分が見られているような気持ちになり急に恥ずかしさがこみ上げてくるのだった。 その時、疲労のせいか急に眠気が美樹を襲ってきた。 必死に堪えるのだが磔にされている女の姿がボヤッとしてくるのだ。 これからが私達二人の屈辱の体験になるなどとは夢にも思わなかった。 次頁 |