第7話

「香織、君は雑草なんかじゃない!」
「私を花に例えたら雑草なの!」
「……」
「もうこんなガラクタみたいな女、相手にしないで!」
「香織……、僕はありのままの君が好きだ! 結婚してくれ!」
「結婚? 何言ってるの? 私、あなたの他に好きな人がいるのよ!」
「えっ……?」
「私、スナックでバイトしてて、お店の常連さんと付き合ってるのよ!」 
「……」
「晃一とは、ただの遊びだったの! 気付かなかった?」
「嘘だ!僕は君の涙を信じる!」
「……」
「香織、君を守りたい!」
「……もう出て行って!」

 翌日から香織は外出をやめた。
 きっと晃一は、いつものベンチの前で待っている事だろう。
 しかし香織は、晃一との別れを決めていた。
 晃一は、医師を目指し将来が有望である。
 自分は家も貧しく、弟の面倒もみなくてはならない。
 自分だけ幸せになるわけにはいかなかった。
 仮に晃一と結婚の約束をしたとしても、向こうの両親や親戚に反対される事は目に見えている。
 どう考えても釣り合いがとれなかった。
 それに、自分と別れた方が晃一の幸せに繋がると思った。
 世の中にはまだまだ彼に相応しい女性がたくさんいる。
 亡き母も弟の雄太も、香織の幸せを望んでいる事はわかっている。
 しかし自分の幸せよりも、愛する晃一の将来を優先したかった。



 6月のある日、香織は大学病院に定期健診に訪れていた。
 退院後は、スナックのバイトを辞め日中の勤務だけにした。
 弟の雄太も、正社員として建設会社に就職が決まった。

「順調ですね。体重も45キロです。もう大丈夫でしょう~」
 大野医師は、にっこり微笑みながら言った。
 診察室を見渡したが、晃一の姿はなかった。

 香織は診察室を出て会計カウンターに向かう途中、中庭の前で止まった。
 あれ程綺麗に咲いていたタンポポの花はそこにはなかった。
 そしてふと足元を見ると、花びらが欠けた一輪のタンポポがあった。
 香織はそっと手に取り、暫く見つめていた。
(晃一、嘘ついてごめん……)
 晃一とは、あの日以来会っていない。
(晃一、幸せになってね。そして立派なお医者さんになって下さい)
 香織は瞼を閉じて晃一の幸せを祈った。
(自分の行動は間違っていない。これでよかったんだ……)

 香織は、自分に言い聞かせながら、その場で泣き崩れた。



-END-


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ネット小説界新進気鋭の麗人作家真理子さん。
愛溢れる官能小説からハードでちょっと危ない体験談まで。
サイト開設以降数多くの小説投稿は、管理人さんが持つ
『カリスマ性』『豊かな人間性』『人柄』が所以であろう。

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