第1話
「青山さん、入院が必要ですね」
覚悟はしていたが、医師から入院を勧められた時は香織の頭の中は真っ白になった。
ここは、北都大学付属病院の心療内科。
受付には、精神科の文字もあった。
香織が体調の変化に気付いたのは1年程前。
小さな町工場の勤務に加え、スナックで働き始めた頃から疲労とストレスが原因で精神的に不安定になり、気付いた時には食べ物を口にしなくなっていたのです。
小学校6年生の時に両親が離婚。母は香織と2つ年下の弟を養う為に、昼夜問わず働いていた。
その母も心労が祟り2年前に他界。現在22才の香織は生活費を捻出する為に、休日とは無縁の生活を強いられたのです。
香織の病名は摂食障害。
身長155センチ。体重35キロ。
主治医は精神科医、大野和夫。
香織は大野医師の話を聞きながら、医師の隣に座っている青年が気になっていた。
大学病院には、医師を目指している学生達の姿で賑わっている。
職員の駐車場に、派手な外車やスポーツカーが多いのもそのせいだろう。
大野医師の隣の丸椅子に座っている青年も、将来の医者の卵に違いない。
真面目そうな顔でとても凛々しく、白衣がやけに似合っていた。
胸に“江本晃一”と書いてある名札を付けている。
大野医師から入院の簡単な説明を受け立ち上がろうとした時、青年から声をかけられた。
「はじめまして。青山さんのケアを担当する江本といいます」
「あっ、はい…… よろしくお願いします」
(この人が私の担当?)
いくら入院患者といっても、自分と同じ年頃の男子学生にケアをされるのは、少々恥ずかしかった。
スナックで働いている時は、どんな男性を相手にしても緊張する事はなかったが、この日の香織は違っていた。
「困った事や不便な事がありましたら、何でも言って下さいね」
「あっ、は、はい……」
香織は紅潮している頬を隠す様に、うつむいたまま返事をした。
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