第1話

 友人の俊介から、「今夜、一杯どうだ?」と誘いがあった。という日常的な出来事から、この物語は始まる。
特に酒を飲む理由も無かったが、健志からの誘いに、「あぁ、いいよ」。
 健志は、2歳年下の妻と8歳の長女、5歳の長男がいる。
 結婚して10年、35歳になった。
 居酒屋で1時間ほど経った頃、俊介が、「可愛い子がいる店があるんだ。行ってみないか?」
「おまえも相変わらず好きだな~」
 俊介は、結婚に前向きになれない。
幼い頃に両親が離婚し家庭環境に恵まれず、結婚に対して積極的になれないらしい。
 健志には幸せな家庭があり、俊介は恋人もいない。
 健志は会社社長、俊介はサラリーマン。
 誰が見ても、健志の方が環境に恵まれている。
 しかし、環境に恵まれている筈の健志が、この夜出会った“小夜子”と恋に落ち、大切な親友の人生を奪ってしまう事になる。

 居酒屋を出て、小さなスナックに入った。
 看板には、“舞”と書いてある。
 店内は賑やかでボックスは空きが無く、カウンターに座った。
 「あの子だよ」
 俊介が指差した先を健志は見た。
 「ふぅ~ん」
 ボックスに座り、客の接待をしている女性がいた。
トレーナーにジーンズ。“働いている”というよりは、“お手伝い”という感じだ。
 「はじめまして、俊介の幼馴染みの健志です」
ママに挨拶をしてしばらく経った頃、例の「可愛い子」とママが入れ替えになった。
 「おぉ、小夜ちゃん、久しぶり!」
 俊介は上機嫌だ。
 年頃は25~30歳位に見えた。落ち着いている女性だ。
 健志は“可愛い子”と聞いていたので、もう少し若い子をイメージしていた。
 「どうだ?可愛い子だろう?」(俊介)
 「うん、可愛いね」(健志)
 「小夜ちゃん、こいつ健志っていうんだ。宜しくね!」(俊介)
 「小夜子です。宜しくお願いします」(小夜子)
 「宜しく」(健志)
 「俊介さんの、お友達ですか?」(小夜子)
 「うん、同級生で幼馴染み」(健志)
 今の健志にとって、可愛くても可愛くなくても、そんな事、どうでもよかった..

 健志は若い頃、父を病気で亡くし、父が経営していた小さな会社を引き継ぎ、真面目にコツコツ働き会社を成長させた。今は、新商品の開発で毎日徹夜で働いている。
 疲れもストレスもあった。
 正直言って、スナックで酒を飲んでも楽しいとは思わない。
 それより早く家に帰って、休みたかった。
 11時を過ぎた頃、店を出た。
 「健志さん、また来て下さい」(小夜子)
 「また来るね」(健志)

 新商品の開発も着々と進み、8月に展示会を開催し、ようやく一段落ついた。
 -後は、受注が来るのを待つだけだ-
 健志の会社は、融雪装置、ソーラーパネルなどの企画開発が主な業務だ。
 春から夏にかけて融雪装置の開発。秋から冬にかけてソーラーパネルの開発。
 各商品の設置業務は、専門業者に委託している。
 健志の父は、太陽光発電に力を入れ、会社を立ち上げた。
 しかし、大手の会社には太刀打ち出来ず、思う様に業績が伸びなかった。
 -冬が長いこの地方は、融雪装置の方が研究しやすい-
 父が他界した後、大学を卒業したばかりの健志はそう思った。
 健志は、この融雪装置で会社の業績を伸ばした。

 -たまに、社員を連れて飲みに行こうか-

 社員12名を連れて、近くの割烹料理店に行った。
 社員達は皆、健志を尊敬している。平均年齢は30歳前後。
 「皆さん毎日ご苦労様!今日は楽しく過ごして、明日からの活力にして下さい!」
 9時になると、若手社員から、「社長!カラオケでもどうですか?」
 「僕はいいから、みんなで行ってきたら?」
 健志は、会社の宴会での2次会は、行った事が無い。
 -社員だってストレスもあるし、愚痴も言いたい時もあるだろう-
 すると、事務社員が、「カラオケ代、経費で落としてもいいですか?」
 「君に任せる..」
 社員達は、盛り上がった。
 健志も、この日は気分が良かった。
 -会社の業績が良い時は、社員のお陰。悪い時は、社長の怠慢-
 健志はいつもそう思っていた。

 店を出て、社員達は全員カラオケに行ったらしい。
 時計を見ると9時過ぎ。
 明日は休みだし、帰宅するのにはまだ早い。
 -俊介は何をしてるだろう?-
 健志は、携帯を取り出したが、
 -たまには一人で飲むのも悪くないか-
 ふと、先日俊介と行った“舞”を思い出した。

 店のドアを押すと、例の小夜子という女性が振り向き、
 「あら!いらっしゃい!」
 店には誰もいなかった。
 どうやら、今まで客がいたらしく、テーブルの片付けをしていたらしい。
 「ママは?」(俊介)
 「今日はお休み。なんか風邪をひいたらしくて..」(小夜子)
 「あ、そう」(俊介)
 「健志さんは今日何かあったんですか?」(小夜子)
 「会社の宴会があって、社員達はカラオケに行ったけど、僕は暇だから」(健志)
 「もしかして、健志さんって会社オーナーなの?」(小夜子)
 「あぁ、」(健志)
 「へぇ~、社長さんなんだ!」(小夜子)
 「まぁ~、社長と言っても、零細企業だし、父の後を継いだだけ!」(健志)
 「何をお飲みになりますか?」(小夜子)
 「焼酎の水割り」(健志)

 不思議と時間が過ぎるのが早かった。
 「いつからこの店で働いているの?」(健志)
 「今年の春から」(小夜子)
 健志は、歳を知りたかった。
 健志は他人に気を遣う。いくら水商売の女性でも、常に真面目に接する。
 「小夜ちゃんって、生まれは何処なの?」(健志)
 「北海道」(小夜子)
 健志は、それ以上は聞かなかった。
 -どうして北海道から、秋田まで来たのだろう-
 「健志さんは?」(小夜子)
 「僕は、秋田生まれの秋田育ち」(健志)
 「でも、35歳には見えないわ。もっと若く見えますよ」(小夜子)
 「えっ! どうして僕の歳を知ってるの?」(健志)
 「あら、先日来た時に俊介さんの同級生って言ってたじゃないですか」(小夜子)
 「あ、そうだっけ?」(俊介)
 小夜子は爆笑した。
 「小夜ちゃんって独身?」(健志)
 「独身ですよ。もうお嫁に行けないかも..」(小夜子)
 「そんなことないよ」(健志)
 「だって、もう30近いし..恋人もいないし..」(小夜子)
 -20代後半か-
 「もう今年の12月で30歳になるのよ」(小夜子)
 「.....」

 -健志は、ふと妻の美佐江の顔が浮かんだ-
 健志は父を亡くした後、家庭の事は、妻の美佐江にすべて任せて来た。
 その為、美佐江は結婚してからずっと苦労が絶えなかった。
 自分の事は後回しにして、家庭を支えて来てくれた妻に、健志はいつも感謝していた。

 「あ、もう12時だ。そろそろタクシーを呼んでくれないか?」(健志)
 「よろしかったら、家の近くまで送りましょうか?」(小夜子)
 「.....」
 「ちょっと待ってて、今すぐ片付けますから..」(小夜子)

 小夜子の車に乗りこむと、香水のいい香りがした。
 夜景が綺麗だった。




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