前編(3)

「あら。黒河さんがトイレ好きみたいだから、みんなで掃除場所残しておいてあげたのよ」

 薫子が楽しそうに笑う。
 妖子を泣かせたくて堪らないのだ。

「はぁ…どこをやるんすか? どうせ終わるまで、帰して貰えそうにないし…掃除は好きだから構いませんが」
「…そこよ」

 薫子が指差したのは、一番奥の個室だった。
 女子トイレらしく、髪の毛や埃で汚れた便器。

「そこの床に座って、便器舐めて綺麗にしなさいよ」

 ミチルも、早く薫子の機嫌を直すため、それを急かした。

「ん~…なんか病気になりそうですねぇ…ブラシとかは使うなとか、言うんでしょうねぇ…参ったなぁ」

 ちっとも参っていないように言う妖子に、薫子が眉をひそめる。

「早くしなさいよ!」
「いやぁ…そういわれても準備しないと…」

「準備なんかしなくていいから、さっさとやりなさいよ!」

 ごうを煮やした薫子が、ついに妖子の腕を掴む。

「あの…痛いんで引っ張らないでもらえます?」

 余程きつく掴まれている筈なのに、妖子はやはり冷静だった。
 その様子に、薫子はさらに怒りを募らせる。

「このっ…! あんた達! こいつの服脱がせなさい!」
「あ…うん」

 ミチル達は、薫子の怒りに呆然としながらも、言われた通りに妖子の側にくる。
 そして…妖子の服が、脱がされだした。

「別に見たって、いいことありませんょ?」

 呆気なく服を脱がせる妖子に、多少不気味なものは感じたが、薫子の怒りを買うよりはマシと、靴下と内ばき以外全てを脱がせる。

 真っ黒な服を全て脱がせた下には、陶器のように白い肌と、六年生にしては少し小振りな形の良い胸があった。
 胸の先端には、薄いピンク色の乳首が、つんと上を向いている。

 腰は細く、まさにスレンダーと言っていい体つきだ。
 尻の形もよく、思わず触りたくなる肌をしている。
 体毛は薄い方らしく、恥丘にはうっすらとしか生えていない。

 今までも、たまに何人かを裸にしてきたが、こんなに綺麗な体は見たことがなかった。
 正直、色っぽい。
 胸が大きい訳でもないのに、すごくいやらしいのだ。

 見ているだけで、やけに興奮してしまうのだ。
 それはミチルだけではなかったらしい。
 他のみんなも、薫子さえも、呆然と見つめていたのである。
 妖子の美しい体を。

「あの…寒いんすけど」

 妖子の言葉に、やっとみんなが我にかえる。

「…生意気なのよ…そんな…あんたみたいな女が…」

 妖子の体に、明らかに薫子は嫉妬している。
 子役モデルとしても人気の高い薫子ですら、見惚れるほどの美しさだったのだろう。
 冷静さに欠けだした薫子が、いきなり妖子の髪を掴む。

「あんたみたいなのは、便器でも舐めてるのが似合いなのよ! さっさと舐めなさいよ!」
「ちょっ…痛い…髪はダメなんだけどなぁっ…」

 痛みのせいか、多少妖子の声が荒げられる。

「あんた達も、早く手伝いなさいよ!」
「ぇ…けど…」
「私に逆らう気!?」

 その言葉に、誰も逆らえる訳がなかった。
 明日からの学校生活がどうなるか。
 それにかかっているのだから。

 最初に動いたのは、ミチルだった。
 妖子の後ろに回り、体を押さえる。

「っ…痛いんだけどなぁ…髪の毛触らないなら暴れませんて」
「煩いわね…誰かハサミ貸して!…そんなに大事な髪の毛なら、切ってあげる。明日から外を歩けないような頭にしてやるから!」



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