後編(4)

 楽になればいいと、誰かがいう。
 彼から開放されたい。これ以上至福を味わえず、生殺しにされるくらいなら。

 けどそれと同じくらい、快楽がほしくて堪らない。
 一度火が着いたそれは貪欲で納まらない。今すぐにでも男のもので貫かれたい。

 だから…

「…て…」
「え?」

 頭を抱えてしゃがみ込んでしまった百合子の言葉を、妖子は聞こうと身を乗り出す。
 顔を上げた百合子は、泣いていた。

「助けて…っ。あの子から開放して…!」

 正気じゃない。目の前の光景も、自分が受けてきた行為も。彼女も自分も。
 けれどもう、限界なのだ。楽になりたい。彼の為に振り回されるのはもう。

「止まらないの…頭では解っているのに…彼と二人きりになると途端に理性が消し飛んで…!
 焦らされるのはもう嫌! 何も与えてくれないならいっそ開放してっ!」

 百合子はただ叫んだ。彼女達に伝えたかったのではなく、吐き出せなかったそれまでの思いをただ叫んだ。
 涙は無意識に零れ、悔しさと切なさに胸が押し潰されそうだった。

 子供のように泣きじゃくる百合子を、妖子はただ見つめていた。
 震える肩を見つめながら、怪をなぶっている玩具のスイッチを切り、立ち上がる。
 それを合図にするように、怪の体が崩れ落ちた。

「ご依頼、引き受けやしたよ先生。その男から開放してさしあげやしょう」

 クローゼットの方に歩きながら、その漆黒の少女は答える。

「ただし…ここで起こったことは誰にも話さないこと…約束ですよ?」

 美しい彼女の体が、あらわになる。
 陶器のように白い肌が現れ、思わず百合子は目を奪われる。

「それじゃ先生…夢でお会いしましょ」

 振り向いた少女の笑みは、誰よりも妖艶だった。

*---

 放心状態の百合子が帰った後、妖子はぐったりとしたままの怪の側に戻る。

「…やっと見つけた…」
「妖子様…?」

 紅茶のカップを片付けながら、魔御が首を傾げる。

「怪、しゃんとなさい。お仕置きはこれで終いにしてあげますから」

 ボールギャグを外しながら告げると、怪は酸素を求めるように必死に口をパクパクとさせる。

「ぁや…こ…さま…」
「…いい子。いい子だから今夜はもうおやすみ…」

 そう言って怪の髪を撫でてやる。安堵したのか、怪はゆっくり目をつむった。

「魔御も休んでいいっすよ」
「え…けど今夜の仕事は…」

 百合子の仕事を請け負うなら、どちらか手伝いが必要なのではと問うように見つめる。
 だが妖子は口端に笑みを浮かべたまま柔らかい黒髪をかきあげる。

「…あの子の用意だけ、しといてください」

 見えた瞳とその笑みに、魔御は一瞬たじろいだ。
 熱を持たない、狂喜を孕んだ冷たい真紅の瞳。
 今宵の主は、少々不機嫌なようだった。

*---

 目をあけたら、そこは大きな部屋だった。パーティー会場のような広さ。

 百合子は、呆然とする。
 妖子のところから出たあと、気付けば家の前だった。
 いつもより少し早めの就寝をとったのは、冷静になろうとした故のことだった。

 なのに、今自分は、どこにいるのだろうか。

(…!? 腕がっ…)

 動かない。足もだ。
 両腕は頭上から吊され足は大きく開かれている。
 体がスースーするのに気付き、下を向けば全裸であった。

(何なの…!? こんな夢っ…)

 リアルすぎて、怖い。こんな夢、見たくなんかないのに。

「先生、お目覚めっすか?」
「っ…黒河…さんっ…」

 妖子に反応したことで、声がでているのに気付く。
 だが視線の先の妖子は、信じられない恰好をしていた。

 水着のような、だが胸の先端と股間だけが隠れるような、V字型の真っ黒な服。
 これでは裸のほうがましなのではと思うほど、淫らな姿だ。

「あ…あなた、そんな…。小学生がそんな恰好っ…」

 言いかけてふと、我に帰る。
 これは夢。自分の夢なのだ。

「…先生、ここはあなたの夢の世界。けどちょいとうちにきていただいてます。今から起こる遊びが済めばあなたはあいつから開放される」
「あいつ…?」

 楽しげに微笑む妖子の言葉に、百合子はあの依頼を思い出す。

 こんな夢を見るなんて。
 余程開放されたいのか。
 ギュッと目をつむり、自分の愚かさに嘆く。

「先生。ここは夢であって夢じゃあない。現実に繋がってやす。明日の朝には叶ってる…」

 妖子がゆっくりと側にやってくる。
 身動きの取れない状況で、しかも自分は裸なのだ。いくら夢でも緊張する。
 そういえば、どうして妖子は百合子の考えに答えるのだろう。やはり夢だからであろうか。

「快楽には…それ以上の快楽ってね…」

 妖子の指が百合子の胸に触れる。そして乳首をキュッと摘み上げる。

「はぅっ…」

 空いたほうも摘まれ、二つの乳首を弄ばれだす。

「あぁっ…アンッ!あ…あぁあっ!」

 味わったことのない快楽。逃れようにも逃れられず、百合子は必死に身もだえる。
 だが鬼人の比ではないその快感に、頭がボォッとなっていく。

「ダメっ…あんっ…だめぇっ…!」

 口を閉じることもできず、唾液が零れるのも気に出来ないくらいの快感。

 ふと、妖子の指が離れる。
 途端、百合子の体はそのまま力をなくしたようにぐったりしてしまう。

「次は…と」

 妖子の指が、百合子の股間に伸びる。
 それだけはというように、百合子は足を閉じようとするが、閉じられることはなく足をくねらせるだけで、かえって淫靡であった。

「ひゃぅう!?」

 百合子が甲高い悲鳴を上げる。
 妖子の指が、割れ目をゆっくりひとなでしただけだ。だがそれだけでイケそうな程の快感が背筋を走ったのだ。



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妖子



















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