前編(1) 四月。妖子は新しい学校にいた。小学六年生の姿のままだ。 本来ならば成長して中学校…といいたいところだが、妖子は実は人間ではない。悪魔なのだ。 少女の姿を保ち、次から次へ小学校を移っているのである。 時折中学校にも入ってみるのだがいかんせん面倒らしい。 …相変わらず彼女の理屈は、周囲にはわからないものがある。 流れる黒髪は目を隠し、相変わらず全身黒づくめのその少女は朝から感じるむず痒い感覚に閉口していた。 調子が悪い。悪いことか面倒事が起きる前兆だろうか? しかし自分はあまり勘がよい方ではない。 (取り越し苦労なら…いいんすけどねぇ…) 妖子は大きく溜息をついてSHが始まるのを待っていた。 生徒達が、転校生がくるとはしゃいでいる。時期としては少し遅いくらいかもしれないなと、外の陽気を眺めていた。その時だった。 ガラガラッと教室のドアが開いて、担任教師が入ってくる。 (…んー…?) 何か妙な空気が漂っているような…。 「ほら静かにしろ。転校生を紹介する」 男性教師の声と共に、その少女が教室に入って来た。 「転校生の、藤宮 美羽(ふじみや みわ)さんだ。みんな仲良くするように」 「…藤宮美羽といいます。よろしくお願いします」 紫に近い瞳。明るいハニーブラウンの長髪はツインテールになっていて、先の方にはウェーブがかかっている。 まるでフランス人形のようなその少女は、どこからどう見てもハーフの美少女で、妖子とは無関係にすら思えた。 だが妖子は呆然としていた。 覚えがある。顔立ちよりも声よりも、あの瞳に。 「席は窓際の隣の席だ。黒河、面倒見てやれ」 美羽がゆっくりこちらに歩いて来る。そしてニッコリと微笑んだ。 「…久しぶりね。妖子ちゃん。これからよろしくね」 担任教師やクラスメートが美羽の発言に首を傾げているのも、窓の外で烏が喚き散らしているのも、どうでもよかった。 妖子は、この笑顔を知っていた。人形のような美しく華やかな表情からは想像もつかないような、冷たくさめきったこの瞳を。 ………あぁ,これは悪い夢ではないだろうか? 紫檀色の瞳は、藤よりも菖蒲の花に近い濃さをしていた。 *--- 「…はぁ…」 溜息はそろそろ何度めかになる。 薔薇風呂に身を沈めたまま、脚を軽くあげる。王室の浴室といっても過言ではない広さと湯舟。銭湯の海外版といった感じだ。 「…溜息つくと幸せが逃げるぞ?」 「あたしの溜息重いから、その辺に転がってやすよ」 水面に浮いたまま鬼人の言葉に答える。 妖子の入浴なんて美味しい状態に、三匹のペット達が我慢できるわけがない。 妖子が一人で入りたいといわない限り、必ず誰かが付き添って身体を洗ったり奉仕している。 次頁 |
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