前編(3)

昼休み。
どうも給食室でトラブルがあったらしく、修復に一週間はかかることになった。
そのため、今日から暫く弁当となった訳だ。

「なっち、こっちきなよ!」
「姫、どうする?」

魚月は、いつも陽菜に聞いている。勝手に決めると、陽菜の居場所がなくなるというか、少々気にしすぎなのかもしれない。
けれど、陽菜にはそうさせてしまう雰囲気があるのだ。

「私は…遠慮する」
「そ? じゃあ…ごめん、いいや」

誘ってくれた友達に断りをいれ、陽菜の机に自分の机をくっつける。

「…いいのに、気にしなくても」
「いつも一緒に食べてるんだから気にしないよ。ほら、姫がいないときとか、あっちで食べてるからさ」

そう言いながら、海斗が作ってくれた弁当の蓋をあける。

「相変わらず、海斗さんお料理上手ね」
「でしょ? 姫のは…自分で?」
「まさか」

陽菜は苦笑しながら弁当箱の蓋をあける。女の子らしいかわいらしい弁当だ。

「姉さんが作ってくれたの」
「瑠璃さんか~瑠璃さんのご飯美味しかったもんねぇ…」

瑠璃とは、陽菜の六つ上の姉であり女子大生だ。
実家から通っていて、陽菜に負けず劣らずの美女である。
何度か陽菜の家に泊まりに行った時にご馳走になったが、あまりに美味しくてお代わりしてしまった魚月だった。

「また食べに来て? 姉さんきっと喜ぶわ」
「ホント? じゃあまた泊まりにいっちゃお~」

弁当を食べだし、魚月と陽菜の会話は朝と同様途切れることはない。
よく聞いていると、ほとんど魚月が話していることに、陽菜が相槌を打っているだけなのだが、双方これがいつもなのだ。
食事を終え、ふと珍しく陽菜の方から話を切り出す。

「そういえば、昨日パンケーキを焼いたの。ナツに味をみてほしいんだけど…」
「姫が焼いたの?」
「えぇ」
「勿論食べるッ。姫の作るお菓子、美味しいしね」

取り出した一人分の大きさのパンケーキを、陽菜は魚月の方に渡す。
美味しそうな外見に、かわいらしいラッピング。流石陽菜だと、魚月は関心しながら合掌した。そして口に含む。

「美味し~ッ! 今回も最高っ!」
「ホント? よかった…ナツにそういってもらえると嬉しい」

パンケーキをほうばる魚月の笑顔に、陽菜も笑顔を返す。

「ありがとう、ナツ」
「こちらこそご馳走様」

あっという間に魚月に平らげられたパンケーキの入っていた袋をしまいながら、陽菜が薄く微笑む。
甘いパンケーキの残り香まで味わいながら、魚月は陽菜の笑顔を、純粋に綺麗だと思った。



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