後編(8)


もたれてくる体を自分のそれから抜き、天照はため息をついた。結局果てられていない。元に戻れないのだ。

「…さて、どうするか…」

そう言いながら、未だ脈打ち天を仰ぐ己のそれを見つめる。自慰をして戻るなんて、惨めすぎる。
そう思っていた時だった。天照がふと、ほくそ笑む。少し渇いた唇を舐め愛おしむように目を細めた。

「…珍しいな。くるなんて」

顔を上げ、そう呟いた天照の前に、いつのまにかそいつはいた。
腰ほどまである絹のようなプラチナブロンドを靡かせる『そいつ』は、側で倒れる絶世の美少女達よりも美しい。寧ろ神々しい。

いや、当然だろう。
『そいつ』は今、神なのだから。

まるで月光のように麗しい顔立ちが、似合わない冷笑を浮かべる。『そいつ』は膝をつき、そっと天照の…『俺』の頬を包む。
「言ったはずだ…お前の性は…」
その先は天照によって塞がれ、淫靡な、それ以上に妖艶な口づけに消えていく。

「…美しいな…お前は本当に。そんなに俺が好きか?」

頬を伝う銀糸は透明とすら言いたくなる『そいつ』の美しい肌を濡らす。わざわざ色を入れたのだろう。ほんのり紅い唇の紅が、滲んでいく。

「…貴様が好きなんじゃない…貴様の性が欲しいのさ」

言葉とは裏腹に、『そいつ』はうっとりと天照の胸に顔を埋める。




「…愛しい…俺の『月讀』…」




天照の声がぼやけていく。




その名は月讀。
天照の兄弟神。
太陽の女神が男神となったように、月の神は麗しい姫神となった。




色素等持ち合わせていないのだろう灰色の瞳は
本当に月のような色だった




月と太陽は、交わった。

*---

あの後、何とか果てたおかげで俺は元に戻り、女三人を起こして帰宅真っ最中。奴らは恥じらう事なく、まるであれがなかったかのように世間話をしている。
最近じゃ慣れたが、最初の頃はこの態度の差に頭を抱えていたものである。

「しっかし…光輝の軽はずみ行動で何とかなるなんてなぁ」
「何の武器も持たずに敵陣に乗り込んで襲われるなんて、マヌケ以外の何物でもないけれどね」
「そのおかげでシールドが解りやすくなったから、さっさと解決したわけだけどさ~」

口々に文句のようなのを言っているが、これは一応褒めている部類なのだろう。素直じゃないやつらだ。

「お前らなぁ…」
「あー腹減った」
「龍香、女の子が腹減ったなんて言ってはダメよ」
「けどたしかにペコペコだよぉっ」
「今日は嵐士さんが帰っていらっしゃるんじゃない?」
「よっしゃ! 晩飯作って貰おうぜ!」
「光輝~ご飯御馳走になるって連絡入れといて~☆」
「人の話聞けよ!」

相変わらず勝手な女共である。

とにもかくにも、これが俺の日常。
非日常というカテゴリーばっちりな内容だが、認めなくっちゃ生きていけない。

三人娘の後ろ姿を見ながら、俺は本日何度目になるかわからない盛大な溜息をつくのだった。






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