第2章 第10話「捧げるショーツ」














第2章 第10話「捧げるショーツ」

 次に控える検査のため、会議室へと移動を行う千奈美のクラスは、これから行う内容により憂鬱な表情を浮べていた。
(はぁ…………)
 ほけんだよりに書かれていたことを思い出す。
 都合上分娩台の用意ができないため、自ら仰向けとなって脚をM字に開いてやり、性器を確かめやすい状態を作ってあげるように指示があった。自分を守る最後の下着は失われ、一番大切な部分が見ず知らずの他人に暴かれてしまうのだ。
(私達って、何なんだろう)
 こうして廊下を進むあいだは、保健調査票カードの庇護もあり、両腕を駆使して胸だけは完全にガードできる。
 しかし、ショーツ一枚の屈辱には変わりなく、ちょうど今の窓の外には校庭が広がっている。もしも望遠鏡で覗いている人がいれば、こうして歩いている千奈美達の姿は、全て丸見えになってしまうのだ――もちろん、本気で望遠鏡を恐れるほど考えすぎてはいないのだが、裸の状態で外の景色と接するのは、それだけ落ち着かないことだった。
 やがて、会議室に到着。
 衝立によって仕切られた空間が出来ており、どうやらショーツを脱ぐ時だけは、せめて周囲の視界を遮った中に入れるらしい。
(マシ、かな)
 もちろん、全裸自体を拒絶したいのが本心だ。
 いざ並んでみると、恐ろしいことに担任も仕切りの中に入っていき、敬介先生は生徒の丸裸を見ているはずだ。
(……最低)
 列が縮んでいくごとに、自分の全裸が迫ってくる。それは大切なものを剥奪される恥辱の刑までの順番と変わらない。
 お尻の診察、身体撮影――。
 この先で待つ内容を思えば思うほど、人権などないも同然の扱いが訪れようとしている現状が身に染みる。
 一人、また一人。
 体育座りの列が長さを縮める。
 衝立の出口から出てくる検査終了後のクラスメイトは、顔も耳も極限まで染め上げて、涙を溜め込むなり泣き出すなり、屈辱のあまりに恨みを込めた視線で後ろを振り向くなり、それぞれの反応を示している。
(も、もう……)
 順番で目の前に並ぶのは、たった一人。
 その一人が、立ち上がって入り口へ進んでいく。
(……次は私なんだ)
 俯きながら、その時を待つ。
 そして、千奈美は立ち上がった。
(……私の番だ)
 衝立の仕切りの中へと、千奈美は暗い面持ちで進んでいった。
 すぐに青ざめた。
 脱衣所となる空間で、担任の伊藤敬介先生が、堂々とした仁王立ちで千奈美のことを待ち構えていたのだ。自分がここにいるのは当然、何がおかしい、そう言わんばかりの尊大な態度で千奈美を上から見下ろしていた。
(も、もしかして……)
 最悪の予感が脳裏をよぎる。
「脱ぎなさい」
 決して、当たって欲しくない予感は的中していた。
「でもぉ……」
「早く! 君みたいにグズグズする子がいるから、こうして先生が見てやらなくちゃいけないんだ。全く、検査だというのに手間がかかる。こんなことで時間を潰している場合じゃないんだぞ? さあ、早く脱ぎなさい!」
 早口でまくしたてる教師を相手に、元より気の小さい千奈美は何も言えない。むしろ、先生が見ているせいで躊躇って、余計な時間を喰っているのに、仮に正論を唱えたところで、ますます怒られるのは生徒の方に違いない。
(健一……私…………)
 本当に悲しい気持ちで、千奈美はショーツのゴムに指先を引っ掛ける。
 ……脱ぎたくない。
 だけど、脱がなければ終わりは来ない。
(……私って、本当に何なんだろう)
 せめて、見ないで欲しい。どうせ全裸を見られるのだとしても、脱いでいるあいだだけでも後ろを向いていて欲しい。
 けれど、そんなことが言えるわけもなく、千奈美は泣く泣くショーツを下げ始めた。
「ほほう?」
 品定めでもするような視線の前で、だんだんしゃがみ込んでいきながら、体育座りで股を閉ざしてアソコが見えないようにしながら、ショーツを膝まで移動する。さらに足首へと下げていき、片足ずつ引き抜いて――。

 平沢千奈美は全裸になった。

「俺が畳んでおいてやる。寄越しなさい」
「…………」
「寄越しなさい」
 躊躇うことすら許すまいと、敬介先生が語気を強める。今にも叱りつけてきそうな鬼の指導者の表情で、無言の圧力を振りかけて、口答えすればいつでもまくし立てる用意がありそうだった。
「あの、自分で……」
「立って、寄越しなさい」
 口を開いただけで言葉を被せられ、発言すら許そうとしない勢いだ。
「…………はい」
 千奈美は立った。
 まず、両手と脱いだショーツとで、アソコのガードを固めながら、完全に俯ききった顔の角度で、決して敬介先生とは視線を合わせようとしていない。片方の手でぴったりと秘所を覆い隠したまま、千奈美は自分のショーツを差し出した。
(なんで……)
 これでは敗者と勝者だ。
 何の勝負をしたわけでもない。それでも、自分は惨めな負け犬に成り下がり、勝者である敬介先生に乙女のショーツを捧げなくてはならない。辛くて悲しい事実が千奈美の胸を締め付けて、息さえ苦しくしているのだった。
「ようし」
 敬介先生はショーツを受け取る。
「あっ……」
 大切なものが遠くへ離れてしまうような切なさで、敬介先生に渡ったショーツへと、千奈美は自然と手を伸ばしかけていた。
「これが平沢千奈美のパンツってわけか」
 敬介先生は勝ち誇った笑みを浮かべて、目の前でピンと真っ直ぐ広げてみせる。わざとらしく表裏を観察しながら、クロッチの裏側にあるおりものの跡まで確かめ、汚れのことまで声に出して指摘する。
「…………」
 黙っているしかない千奈美。
「はぁっ、全くな。こうやって時間をかける奴がいるから、先生だってセクハラだの人権がどうのと糾弾されるリスクを背負いながら、それでもこうした立ち合いを行っている」
(知らないよ……)
「いいか? お前達さえちゃんとしていれば、先生はここにはいないんだ。本当に余計な仕事を増やしてくれて……」
 辛いのは女子生徒の方なのに、何故だか敬介先生こそが疲れきったため息を吐いている。
(……私が悪いの? なんで?)
 ただただ、悲しむことしか出来なかった。
 服を着た男の目の前で、自分は一枚も着ていない。あまつさえ脱ぎたてのショーツさえ奪われて、それでなくとも生徒と教師の関係なのが、より完膚なきまでの上下関係を二人のあいだに生み出していた。
「お前のパンツは俺が預かる。しっかり検査を受けるんだぞ?」
「……はい」
「っと、その前にだ。その隠しているアソコを見せろ」
「えっ、ええ!? どうして……」
「おりものシートでもあったら、あとで注意されるのは先生だからな。生理中ならそのことも確認するから、とにかく両手をどけなさい」
「……はい」
「気をつけだ」
「…………はい」
 両手を横に真っ直ぐ下ろし、直立不動の姿勢を取った千奈美は、当然ながらアソコへと視姦を受けることになる。
「ほう? 生えてるな」
 敬介先生の視線は逆三角形の草原地帯を嘗め回し、薄っすらと整った生え具合を思う存分に確かめている。
 誰にも見せたことがない。
 健一にだって、まだ一度も見せていない。
 恥ずかしいけど甘い時間を過ごすため、乙女にとって一番大切なはずの場所が、単なる好奇心によって暴かれる。
「よし、行って来い」
 パンッ、とお尻を叩かれた。
 そんな風にセクハラまがいに送り出され、屈辱に濡れた心を胸に、千奈美は検査を受けに進んでいった。



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