第1章 第1話「その世界の歴史」
197X年――。
お尻に発生するガンが発見され、主に十代から二十代前半の若い娘ばかりに発症することが確認される。さらにお尻中心の皮膚病から、直腸に出来る病巣の影響で腹部内臓に悪影響を及ぼすことなど、あらゆる病例が報告された。
女性しかかからない皮膚病が発見され、その主な患部は尻や背中や内股といった部位だった。
若年性乳ガンが流行して、高校生であっても乳がんにかかった。
乳房付近にのみ発症する皮膚病も発見され、また脊柱側弯症の患者は十代女子が中心とされている。
その他の疾患も多数見つかり、それら全ては女の子にのみ影響を及ぼす。予防するには全裸を視診する以外に方法がない。
全裸検診の必要性を訴える声は、この頃から生まれ始めていた。
198X年――。
お尻のガンが直腸から内臓――やがて心臓などに転移して、十代から二十代までの女性が多数病死する事件が発生。
若年性乳がんの患者が急増。
全身皮膚病で全ての皮膚が荒れ果てる少女など――。
これらの事件はニュースとなり、世間を大いに騒がせた。
マスコミの煽りを受け、政治家は全裸検診に関する義務付けを提案。
これにより、徐々に全裸検診は常識だという声が広まり、それは当たり前のものとして浸透を始めていく。
その後の世代では、全裸検診は仕方がないものとして認識されるようになる。
199X年――。
羞恥心への訴えから、女性団代の活動により複数の学校で全裸検診が廃止されたが、廃止した学校の卒業生約三十名が病気となり、重病及び死亡となる。
この一連の流れはマスコミによって報道され、女性団体の独善的な活動こそが、未来ある女の子達を死に追いやったのだと批判。
この事例を受け、日本に存在する全ての女性団体は、検診自体を廃止させようとする動きを中止。
その後は闘病生活のドキュメンタリーや病気の怖さを知ってもらうための映像製作に取り掛かり、多くの学校生徒に見てもらうように働きかける。あくまで検診に過ぎないから、恥ずかしがる必要はないことを伝える活動へと方針を変更。
現在では羞恥心への配慮方法や医学の発展など、女性団体の矛先はそちらを向いている。
しかし、どんな配慮方法が生み出されても、検査方法については全裸以外の効率的手段が発見されない。
また、一部の学校では配慮が進む一方で、子供の裸に興味を持つ男性教職員らや教育委員会の面々が権力を持ち、特に必要がなくても担任が立ち会うといった実態も生まれている。それら配慮なき学校は、現在でも多数残ると言われている。
20XX年――。
全ての人間は、女に生まれた時点で恥ずかしい運命が決まっている。
大半の病例は十五歳以上が占めるため、自治体や各学校の判断によっては、小中学校には導入されていない場合もある。恥ずかしい体験は少ない方が良いのかもしれないが、それはそれで場数を踏むことなく、高校からいきなり全裸となるため、大人達でも意見が分かれている。
高校以降や会社などでは義務付けがあり、生きていれば必ず全裸検診を受けることになる。
女性達のあいだに疑問はある。
悲しさはある。
恥ずかしさはある。
しかし――。
過去の実例、医学的な必要性の証明などから、検査の存在自体に疑問を持つ女性は一人として存在しない。
脱がなくても検査が出来る方法が生まれればいいのに……。
女性って、一体なんなんだろう……。
そんな思いこそあっても、全裸検診自体を潰そうとする考えなど、もはや存在すらしていない。
この物語は、そんな日本を舞台にしたものである。
next