第1話

温かな食事、柔らかな寝床・・・
それは・・旅路、まして・・逃げ続ける者にはとうてい望めない物だ

だからこそ・・その幸運は、彼女には信じがたく

「ありがとうございます」

「いえいえ・・リーゼ様にはお世話になっておりますから」

顔のしわをさらに深くして、柔和に微笑む老婆は、シチューをかき混ぜながらそれを自分と、突然の客人2人に振る舞い

「コッダは本当に悪い奴じゃ、あんな税をかけて、わし等を飢え死にさせようとしとる」

目の前の2人・・蒼い髪の、疲労を隠しきれず与えられた平穏に喜ぶ少女と、茶みがかった髪、疲労しながらも慄然とした態度を崩さない女

そして・・少女、サーシャが喉を鳴らす前で老婆はシチューを一口くわえ

「どうされた?・・冷めてしまいますぞ?」

老婆は気にせず自分のシチューをゆっくり平らげていく

・・・逃亡者として追われる2人は、老婆を疑ってしまった自分を恥じ・・同じように口を付け、柔らかな寝床に誘われ

・・・倒れるように、眠りに就いていった・・・

それを・・老婆は食器を片づけながら眺め

「よう・・」

ふと、風体の悪い男が入ってくる、それは老婆が咎めるより早く鍵を見せ

「お客さんかえ、入り口はそこだよ・・それと、その子達を下に運んでくれるかい」

「あん?・・こいつは」

「コッダに高く売れるだろうね」

老婆・・

裏稼業で半生を過ごし、ギルドマスターの地位にまで上り詰めた彼女は

ギルドの鍵を手にやってきた男に、眠り薬で眠る2人を担がせると

「赤毛の子は用心して口を付けなかったようだけどね・・」

ふと眼を、シチュー鍋の横でぐつぐつと煮える白湯に向ける・・・それは当然、ただの水であるわけが無く、その湯気が・・訪問者を眠りに誘う

老婆自身は普段から吸っているため効かないが、今来た男も、数刻ここに止まれば眠りに落ちるだろう

「さて・・コッダに引き渡す前に、楽しませてもらうかね」

老婆は朗らかな笑みを浮かべながら、呼びつけた部下に店番を任せると白湯の火を消し・・階段を下っていく

・・・不幸な2人の犠牲者を連れて



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