ジャック






最終章「余   韻」(1)

 藍が玄関を開けるとちょうど秋が立っていた。
 藍はなぜか気恥ずかしくなり、下を向いた。そして秋と言葉を交わさずに部屋へ戻ろうと急いだ。
 しかし、秋はそんな藍の心を見抜いていたかのように、すかさず声をかけた。

「おねーちゃん、最近学校の帰り、遅いね? なんかあったの? ほら、おねーちゃんドジだから居残りさせられてるとか・・・」
「もー、帰ってきてすぐにうるさいなぁ。ドジってことないでしょ?・・・なんでもないよ。」
「うそぉ! 今まで学校遅かったことなんかなかったじゃん。成績悪くて居残りなの?」
「違うって。疲れてるんだからあっち行っててよ!」

 藍はそう言うと、そのまま通り過ぎようとしたが、秋は続けて言った。

「あ、おねーちゃん、マネージャーさんからさっき電話あったよ。岸田さんって人。」

 藍は立ち止まり、秋に聞いた。

「えっ? 岸田さんから? なんだろ・・・なんて言ってたの?」
「用事は言ってなかったよ。でも、おねーちゃんの携帯、ちっとも出ないからって。帰ったら電話欲しいってさ。」
「そう・・じゃ電話しなきゃ・・」

 藍は電話のある方へ行こうとした。しかし、秋がすぐに藍に聞いた。

「ねぇ、おねーちゃん、手、どうしたの?」
「えっ? 手?」

 藍はすぐには何のことかわからなかった。そして手に目をやった。
 藍の手首には・・・縛ったような跡・・・手錠の跡がくっきりと残っていた。

(・・あっ・・どうしよう・・・なんて言ったら・・)

 藍は慌てた。動揺を見せないようにしようと思ったが、そう思うほどドキドキしてしまう。

「な・・なんでもないよ。」

 藍は声が裏返っていることに気付いたが、どうしようもなかった。

「なんでもないって・・・なんか赤くなってるよ。やっぱりなにかあったんでしょ?」
「な、なんにもないよっ・・・」
「ううん、ぜったいなんかあったんだ。おねーちゃん、ウソつくとすぐわかるもん。」
「う、ウソなんか言ってないよ・・・」

 藍は動揺しているのを悟られまいとしたが、妹の秋にわからないはずがなかった。

「いじめられてるの? 学校で・・・仕事してるからって・・・酷いね。」
「いじめられてなんかないよっ! 別に・・・」

「じゃあ、その手はどうしたの? 何もないのにそんなにならないでしょ? それにもう9時だよ? そんな遅くまで学校にいるなんて、おかしいよ・・」
「う・・うるさいなぁ。なんでもないったら! 電話するんだからあっち行っててよ。」

 藍は理不尽だと思ったが、そう言って秋を追い払うしかなかった。

 秋は膨れた様子で、
「もう! せっかく心配してあげてるのに! もう知らないから・・・」
 と言ってさっさと自分の部屋のある二階に上がっていってしまった。

 藍は電話をかけながら考えていた。

(・・・どうしよう、これ。明日までに消えるかな・・)

 そう思っているうちに電話がつながっていた。

「・・・だれ?」
「あ、あ、藍です。すいません。」
「なんだ、藍か。誰かと思ったぞ。」
「ごめんなさい。ちょっと考え事してて・・何か?」
「あ、そうだ。明日なんだけどな、俺、所長に呼ばれてておまえ迎えに行けなくなったんだ。で、・・」

 岸田は躊躇った様子で口篭もった。

「・・・で?」

 藍が聞き返すと、岸田が続けた。

「うん、スタイリストの七種、あした迎えに行くことになったんだよ。」
「真里さんが?」
「ああ。明日の予定はまず七種のところに行って衣装合わせだ。」



最終章「余   韻」(2)

「・・衣装合わせ、この前やったじゃないですか?」
「そうなんだけどな、まだなんだとさ。・・これも所長命令なんだよ。その後サイン会がある。けどな、俺は行けそうもないから七種が一日おまえについてるんだ。」
「・・・そうなんですか。」

 藍は複雑だった。真里・・この前のようなことが、また・・怖い気持ちと、嬉しいような気持ちが同居していた。

「心配だからこっちが片付いたらすぐ行くけどな、おまえ、気をつけろよ?!」
「気をつけろったって・・」
「・・・この前言ったろ? 見境ないからな、あいつ。所長まで使って俺引き離して・・・絶対なんか企んでるからな。」

 藍は高科との出来事、手首の跡、そして岸田の電話にもうわけがわからなくなっていた。

「だいじょぶですよ。あたし、子供じゃないんですから。」

 もう話を切り上げて電話を切りたかった。
 しかし岸田はまだ続けた。

「何言ってんだ! おれからすりゃ、おまえなんかまだ子供なんだよ。なんかあったら困るんだ。」
「だいじょぶですって。もう子供じゃありません! 今日だって・・・」

 藍は「もう経験した」と危うく口にしそうになったが、ハッとして口を噤んだ。

「今日だって?」
「な、なんでもないです。いつまでも子ども扱いしないでください!」
「・・・まぁ、なんでもいい。なんかあったらすぐにケータイに電話しろ! いいな?」
「はいはい。わかりました。」

 藍の気の抜けたような返事に、岸田はすぐに返した。

「おいおい、おまえなぁ、心配するほうの身にもなってくれよ。なんかあってもしらねーぞ、おい。」
「はい。だいじょぶですって。早く終わらせて迎えに来てくださいね。」
「わかったよ。まったくよぉ。じゃあ、な。」

 藍はクスクス笑いながら電話を切った。岸田がムキになって自分を心配しているのが嬉しかった。

(真里さん・・・かぁ・・)

 しかし藍は今日の出来事で頭がいっぱいだったので、あまり考えていなかった。

 部屋に戻り、藍は高科の事を考えていた。

(・・・先輩に、抱かれたんだ・・)

 藍は嬉しかった。高科に抱かれたことで全ての出来事が消し飛んでいた。いや、消えたわけじゃない。しかし少なくとも嫌な思いではなかった。
 藍はその夜、眠れそうになかった。考えれば考えるほど、目をつぶればつぶるほど高科の顔が、手が、体が鮮明に蘇って来る。
 ア○コが熱くなってくる。

(・・・もう、眠らなきゃ。明日早いし・・)

 しかし体の火照りがどうしても取れなかった。
 まだ、痛めつけられた乳首とク○○○スが疼いていた。その上ア○コには、高科に入れられた時の、何か挟まっているような違和感が残っていた。

 藍は、火照りを冷まそうとして、そっと熱くなっているア○コに指を伸ばした。
 指が触れた瞬間、ズキンと痛みが走った。

「ううっ・・・」

 藍の口から、小さな喘ぎが漏れた。その痛みの中で、一層鮮明に高科とのことが思い出された。藍の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

「せんぱい・・・ありがと・・・」

 しかし、藍の顔は穏やかだった。痛みの中で、高科と結ばれた時の、あの幸せだった気持ちを思い出していたのだった。
 当然の出来事として受け止めていたから・・自分の望んでいたことだと、心のどこかで理解していたからだった。

 藍は目をつぶってみた。瞼の裏に高科の顔が写っていた。そしてその情景の中に自分を重ねていた。

(せんぱい・・・また、抱きしめて・・・)

 やがて、藍は眠りに落ちた。藍の顔に安らぎが・・・微笑みが浮かんでいた。






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