第2章「写 真」(1) 次の朝、藍の学校へ向かう足取りは軽かった。いままでこんな気分で学校へ向かったことがなかったので、ことさら嬉しかった。既に放課後のことで頭が一杯だった。 「よっ、おはよう!」 藍の後ろから声が響いた。吉田だ。 「あっ吉田君、おはよう!」 藍は元気に答えた。 「昨日、休みだったね。本が大体出来たんで家に届けといたけど、読んでくれた?」 吉田は少年らしい無邪気そうな声で藍に尋ねた。 「うん、まだ全部読んでないけど、結構おもしろいね!」 藍も楽しそうな声で答えた。 「じゃ放課後に、部室に来てね!」 「うん。じゃあ、またね。」 「あっ、今日は練習もするから・・・体操服に着替えて来てくれる?」 「うん、わかった。」 藍は嬉しかった。そして、待ち遠しかった放課後はすぐにやってきた。 *--- 放課後、藍は吉田に言われた通り体操服に着替え、部室へ向かった。暑かったので上は白の半そでのTシャツ、下はエンジのジャージ姿だ。 「こんにちは。」 藍は部室に入った。 「よう!」吉田が返した。 部室には吉田を含め男子が三人いた。高科はいない。 「あれ、部長は?」 藍がたずねると吉田が「高科先輩、今日は都合が悪いんだって。さちとゆうこは、本の手直しがあるんで家に帰ってやってる。」と説明した。 「ふーん。じゃあ今日はこれで全員かぁ。」 「そうだね。」 人数が少なかったので藍は拍子抜けだったが、「こんな日もあるよ。」と吉田が間髪いれず答えたので、すぐに納得した。 「さぁ、はじめますか」ともう一人の部員、伊藤が切り出すと吉田と柴田も腰をあげた。 「うん、どうするの?」藍が質問すると吉田が答えた。 「今日はまず設定の確認をしよう。今の本に合わせて動きとか、表情の確認をね。じゃあ藍ちゃん、あそこに立ってくれるかな?」 吉田が指を指した方向に、机とライトがあった。 「この辺?」 藍は指示された位置に行った。伊藤が藍の真正面にビデオカメラを設置しはじめた。 「え、もう撮り始めるの?」 藍は驚き尋ねた。 「あぁ、機材のテストもするからさ。テープ入れてないから気にしなくていいよ。」 吉田がそういって藍の方へ近づいてきた。 「伊藤、位置はどうだ?」 吉田が藍の隣に立ち、藍の目線と同じぐらいにかがんでカメラを覗く伊藤に尋ねた。 「OK、OK。ばっちりですよ。」 伊藤が答えた。 吉田の隣にいた藍には見えなかったが、吉田はなにやら伊藤に合図を送ったようだ。 柴田は何気なくドアを閉め、遮光カーテンを閉じた。そして撮影用のライトをつけた。 部室は重苦しい光に覆われ、「取調室」のようになった。 藍は少し不安になってきた。 暗い部屋、三人の男、ビデオカメラ。少女を不安にさせるには十分な設定だ。
第2章「写 真」(2) 「どぉ、藍ちゃん。結構雰囲気出るでしょ?」 吉田はいままでより少し低めの声で藍に言った。 「う、うん。そうだね・・」 藍も不安そうな声で答えた。 藍にライトが向けられた。すると陰影が藍の体のラインをはっきりと映し出し、妙に色っぽく映った。 「どうすれはいいかなぁ。」 藍はこの場の雰囲気を少し明るくしたかったので、わざと子供っぽく尋ねてみた。 「まずねぇ・・・」 吉田が藍が不安になっているのを弄ぶかのように、ねちっこい声で切り出した。 「ブラジャー取って、ノーブラの上に、じかにシャツ着てくれるかなぁ・・・」 (えっ、なんていったの) 藍はしっかりと聞こえていたが「えっ?」と聞き返した。 「あとさぁ、下もジャージ脱いで、ブルマーになってよ。」 吉田はお構いなしに続けた。 藍は驚いたがすぐに正気に返り、「なによぉ、ふざけないでよ。」と冗談ぽく返した。 「ふざけてなんかないよ。早くしようよ。ねっ、藍ちゃん。」 吉田は少し怖い顔で藍を見ていた。 「で、できるわけ、ないじゃないっ!」 藍は強く言い、吉田を睨んだ。 「ほんとにできないの?」 吉田は再度言ったが藍は「できないよっ! 帰るっ!」と吉田達の間を割ってドアへ向かおうとした。 「ふーん、こんな写真はお金もらわないと撮らせないのか・・」 吉田は帰ろうとする藍の前に立ちはだかると、ポケットから取り出した写真を、手にぶらぶらさせながらそう言った。 「えっ!?」 藍はその写真を吉田から奪うように取った。そしてすぐに蒼ざめた。 それは・・・昨日の仕事で撮られ、そして破棄されたはずの写真だった。しかも、藍もまだ目にしていなかった写真。 そこにはTシャツから乳首が、パンツには陰毛が透けた、想像以上にセクシーな藍が写っていた。 「ど、どうして、あなたがこれを・・」 藍は吉田を睨み、尋ねた。しかし、声が震えてくるのが止められなかった。語尾がかすれていた。 「うちのオヤジさぁ、プロのカメラマンなんだよね。で、昨日藍ちゃん写したって言うから、見せてもらったんだぁ。それがこれって訳さ。・・・仕事では藍ちゃん、こんなにエッチなの撮ってるんだ。」 吉田は薄ら笑いを浮かべ、まるでなぶるように答えた。 (すぐに捨てるっていってたのに・・・・) 藍はすぐにその写真を破り捨て、言った。 「そ、そんな訳ないでしょ! そんなの撮ってない! 撮ってないよっ!」 「でも、現に写ってるじゃん。俺たちにもエッチな格好、見せてくれるよね?」 吉田は他の数枚の写真も机の上に放り出した。 そこには、様々な薄い水着から乳首を立てた藍の姿があった。 藍は顔を真っ赤にして「ふざけないでよ! できるわけないでしょ?!」と気丈に言い返した。
第2章「写 真」(3) 藍は写真を取りあげると、すべて破り捨ててドアに向かって歩き出した。 「ふーん、帰っちゃっていいんだ? 写真なんて破いたって無駄なのにね。ネガは俺が持ってるから、こんなの何枚でも作れるんだよ。みんなほしがるだろうな、藍ちゃんの透け透け写真。」 吉田の言葉に藍は立ち止まり、震えだした。 「ネガ、返してよ・・」 藍は泣きそうな声で言った。 「返してって? はははは・・・。これは俺のだってば。まぁ言うこと聞いてくれたら、返してあげてもいいけどねぇ。」 吉田たちは顔を見合わせ、にやりとしながらそう言った。 「ど、どうすれば・・いいの・・・」 藍はすこし下を向き震えていた。 「だっからさぁ、さっき言ったじゃん。まずブラ取ってよ。」 吉田は笑いながら言った。 「ジャージも脱いでね。」 すかさず伊藤が続けた。 「・・・わ、わかった・・・」 藍は躊躇いながら、Tシャツの中に手を潜り込ませ、するするとブラジャーを外した。 「さすが女優さん! 着替えは早いねー。さぁ、お次は下ね。」 吉田たちは囃しながら、着替えている藍を見守った。 藍はジャージに手をかけたが、そのままジッとしてしまった。手がかすかに震えている・・・。 「早くしろよぉ。」 柴田がせかしたが、すぐに吉田が立てた人差し指を口に持ってゆき「しー」というポーズを取った。 「こういうのはさぁ、あっさり脱がれちゃおもしろくねーんだよ。わかってねーなぁ」と柴田をあしらった。 「そっか、そうっすね。さすが、吉田先輩!」 柴田も納得し、静かに藍を見つめた。 藍は今にも泣き出しそうな顔で、「・・いや。できない・・」と懇願した。 「でもさぁ、ブルマーになるだけじゃん。いいっしょ、別に。いつも体育の時なってるんだしさ。」 吉田は追い討ちをかけるように言った。 「脱がなきゃ写真をさぁ・・・」 安っぽい脅し文句を伊藤が言った。 体育の時と同じ・・・確かにそうなのだが、三人のサカリのついた男に見られながらジャージを下ろすということは、まるで裸になるのと同じ感覚だった。 このままグズグズしていても・・・藍は覚悟を決めると、一気にジャージを引き下ろした。その拍子に勢い余って、下に穿いていたブルマーもずり落ちていた。 藍はすぐには気づかなかった。 「おぉぉぉぉ!」 吉田たちは、お決まりの感嘆の声をあげた。 「藍ちゃん!」 吉田が藍に呼びかけると藍は「今度はなにっ?!」と強がった返事をした。 吉田は続けた。 「怖いなぁ、せっかくブルマーずれてるの、教えてあげようとしてるのにさぁ。はははは。」 藍は驚いて下を向くと、かなりずれているブルマーに初めて気が付いた。 「えっ? あっ、きゃあ!」 藍は慌ててブルマーを引っ張りあげた。
第2章「写 真」(4) 藍は慌ててブルマーを引っ張りあげた。 すると今度は引っ張りすぎて、ブルマーの下に穿いている白いパンティーが、足の付け根から出てしまった。 その上ブルマーは股間に激しく食い込み、藍の股間の形をはっきりと映し出した。 「ははは、藍ちゃん、引っ張り過ぎだって。それじゃ、あそこの形も丸見えだ」 吉田は嬉しそうに笑った。 伊藤と柴田は黙って見入っている。この光景を彼らは一生忘れないだろう。 藍は少し足を開くと、股の付け根の部分から指を入れパンティをブルマーの中にしまいこんだ。この姿も、妙になまめかしかった。 やっと直し終わると、藍は胸を手で隠すようにして立っていた。 吉田が言った。 「藍ちゃん、手をどかしてよ。せっかくのビーチクが見えないじゃん。あ、そういえばオヤジにも、そう怒られたんだってね?!」 藍は顔をますます赤らめて下を向いた。 (一体、どんな親子なのよ!) そう思ったが、ためらいながらゆっくりと手を下ろした。 「そうそう、いいよ、藍ちゃん。男心をわかってるねー。」 柴田が喜んでそう言った。 「どうだ、ちゃんと撮れてるか?」 吉田が伊藤に、ビデオをチェックしろと合図した。 伊藤はビデオのファインダーを覗き込むと、「OK、ばっちりです!」と返事した。 (えっ? 撮ってるの?) 藍はビデオが回っていたなんて思ってもいなかったので「や、やめて! 撮らないで!」と吉田の腕を掴んだ。 「だめだってば。ちゃんと撮れるか、チェックしなきゃ。」 吉田は笑いながら藍の手を振り払った。 「さぁて、次はどうしてもらおうかな?」 吉田が他の二人を見て言うと、「水、かけませんか?」と伊藤が提案した。 「や、いやよぉ。・・・そんなの、いやぁっ」 藍は泣きそうな声で言った。 ますます吉田が面白がって「おっ、いいね、それ! 柴田、バケツに水汲んで来い! いっぱいな!」と柴田に言う。 「わっかりましたぁ!」とバケツを持って、柴田が走り出て行った。 藍は震えながらうずくまっていた。両手でしっかりと胸を覆っている。 「藍ちゃんさぁ、どうしたんだよ! 座ってちゃだめじゃん。」 吉田はやさしげだが、棘のある声で藍に言った。 藍はゆっくりと立ち上がると、無理を承知で懇願した。 「お願い! なんでもするから、やめて、ね、やめてよ。」 吉田は笑いながら「何でもするんでしょ? だからやめないよ~。」とからかった。 柴田がバケツを重そうに持って帰ってきた。 「おせえよ! 早くこっちもってこい!」 吉田が怒った口調で柴田に言ったが、「へいへーい。」とおどけた調子で答えて、笑いながらバケツを吉田の前に置いた。 「藍ちゃん、また手を下ろしてくれないかなぁ。でないと・・・」 さっきより陰険味を増した口調で、吉田が藍の耳元で囁く。
第2章「写 真」(5) 藍がおずおずと手を下ろすと「では、伊藤君。提案者の君が、藍チャンをずぶ濡れにしてください!」と吉田が伊藤にバケツを手渡した。 「ありがたきしあわせです!」と軍隊口調で言うとバケツを受け取り、一気に藍に水をかけた。 「きゃあぁぁぁっっ!」 ざばっという鈍い音とともに水がかけられ、藍はずぶ濡れになった。 藍の白い薄いTシャツは水を得て肌の色と同化し、胸は裸以上になまめかしかった。 赤いブルマーもパンティはおろか、陰毛までくっきりと浮かび上がらせていた。 「あぁぁぁ! み、見ないで・・・」 藍は耐えきれず、すぐにうずくまってしまった。 吉田が藍に言った。 「あらあら、またしゃがんだぞ! 立てよ、立つんだよ! 約束だろっ!」 そこで振り返ると「おいっ、二人とも、藍ちゃんを立たせろ!」 「Ok!」 伊藤と柴田が藍の両腕を持ち上げると、背の低い藍の足は宙に浮かんでしまった。 「やめて! やめてぇぇぇ! おろしてよぉ!」 藍は足をばたばたさせて抵抗したが、男二人の力にはどうすることも出来なかった。 「さぁて、濡れた体操服は冷たいね。脱がしてあげよう。」と吉田が抱えられ宙に浮いている藍のブルマーに手をかけ、ゆっくりと下ろし始めた。 「やだ! やだ! やめて! 脱がさないでぇぇぇ!」 藍は泣きながら足をばたつかせたが、無駄だった。 吉田の手が藍のブルマーを膝ぐらいまでおろし、パンティがあらわになったその時、ドアがドンドンと音をたてた。 「おい、なにしてるんだ!?」 「やべっ、先輩だ!」 吉田たちは慌てたが、すぐにドアは開けられ、高科が現れた。 藍は二人の手から逃れ、ずぶ濡れでブルマーを下ろされた状態のまま高科に抱きついた。 「ぶ、部長!」 「吉田、なにしてるんだ!」 高科は強い口調で吉田を問いただした。 「いや、そのぉ、カメラチェックを・・・」 「よしだぁぁぁっっ!」 高科は吉田を張り倒した。吉田たちはふてくされ、そのまま部屋から出て行った。 高科は自分のシャツをすぐに脱いで藍に着せ、抱き寄せた。 「だいじょうぶ? ひどいことしやがって・・」 高科は藍にやさしく声をかけた。 「・・・は・・い・・」 藍は震えていたが、高科の声で少し落ち着いた。 「でも、あいつら、本当は悪いやつらじゃないんだけど・・藍ちゃんがあんまりかわいかったから、からかいたかったんだよ。許してやってよ。」 「・・」 「もう二度とこんなことさせないから! 約束するから、部を辞めるなんて言わないでくれ! 藍ちゃんは俺がなんとしても守るから!」 藍は高科の言葉に少し安心した。 そしてこの人を信じてみようと思った。 でないと藍のいる場所はどこにもなくなってしまう。ここが私の場所なんだ、そう思った。 それは藍の初恋だったのかもしれない。 しかし藍の初恋は、ほんの一瞬の幻のような恋だった。
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