※※ 女子大生・伊東莉奈 (9) ※※

「ひ…宏明…さん、き…て………」

 莉奈の部屋のドアが、静かに開いた。
 入ってきたのは──当然──夏樹だった。
 先ほどの──夢の中のように──ジーパンとTシャツ姿の夏樹。

 莉奈に近づくと、両手を莉奈の背中に回し、しっかりと抱きしめる。
 莉奈は僅かに抗いをみせたが、すぐに身体の力を抜いた。

「何も心配しなくていいんだよ。みんな僕に任せて・・・」

 夏樹が優しく声をかける。

「そう・・・そのまま・・・目を瞑って・・・」

 抱きしめる両手に力が籠る。莉奈が顔を上向ける。
 それに夏樹が覆いかぶさるようにして、唇を合わせた。

 ……これは…ゆめ…よね?
 ……だから……何も心配…ないよね?

 莉奈は震えだしそうになる身体を、懸命に堪えていた。

「そう、力を抜いて・・・僕に任せるんだ・・・」

 夏樹の声が聞こえる。耳に、ではなく、心に直接、囁きかけている。
 莉奈の唇が開くと、夏樹の舌が莉奈の舌を捉えた。
 甘い・・・初めてのキス。

 そして・・・

 いつしか全裸になった夏樹に、莉奈はベッドの上で抱かれていた。
 耳から項、そして乳房の膨らみへと、夏樹の唇が這い回る。

 夏樹の唇が、新たな部分に移動するたびに、莉奈の体が跳ね上がり、そして硬直する。
 夏樹の背に爪をたてるように、しがみつく。
 だが、それでも夏樹を拒もうとはしなかった。

「大丈夫・・・大丈夫だよ・・・力をぬいて・・・僕に任せて・・・」

 夏樹が声をかけると、莉奈はやっと力を抜き、熱い吐息を漏らすのだった。
 やがて、高まる感情の浪に押し流されるように、莉奈が体を開いた。

「莉奈・・・僕の莉奈・・・いいね、いくよ・・・」

 夏樹の声が、耳を擽る。

「宏明さん……き…て……お願い…」


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 …えっ……い、今のも…夢?

 再び立ち上がる莉奈。既に衣服を付けている。
 莉奈の寝室は消え、陰陽師の祠が目の前に立っている。
 しかし陰陽師の姿はなく、ただその声だけが聞こえていた。

「さようじゃ、これがそちの希望(のぞみ)なのじゃよ。そちの恐怖を越えたところにある、本当の希望なのじゃ・・・」

「これで、そちが辿ろうとする道の行く先が、分かったであろうの。もはや、それは未知なることではない。じゃによって、そちの心のまま、その男子を迎えるのか、決めればよいのじゃ」

「分かったかの・・・分かったならば去(い)ね」
「はい、分かりました…本当にありがとうございました」

 明るい顔で、鎮守の森を立ち去る莉奈。
 その足取りは軽く、そして希望に満ちていた。

「・・・やれやれ、余としたことが、縁結びの手助けとはのぉ・・・」

 そんな陰陽師の繰り言(ボヤキ)が、莉奈の耳に達することはなかった。

「なかなかに旨そうな未通娘(おぼこ)ではあったに・・・とうとう悪戯(いじる)ことができなんだとはのぉ・・・焼きがまわったかの」
 繰り言つづける陰陽師・・・


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 今日も陰陽師を訪ねる、心に病を持った新たな患者がいるのだろう。

 それはあなたかもしれないが・・・しかし、莉奈の件のその後、陰陽師は再び姿を顕すことはなかったという・・・。

- 了 -



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