序 話:初めての体罰 scene 1
・・・もう、どのくらい経ったのかしら?
キョウコは俯いて、じっと考え込んでいた。
狭い個室の中・・・いや、個室というより牢獄そのものだった。
3方は冷たい鉄板の壁、窓一つ無い。床と天井も、剥き出しの鉄板。
残る1方が鉄格子の扉だった。
床には粗末なベット、その奥に木の蓋で覆っただけの便器。それだけで床の大部分を占めている。
天井には監視カメラが一つ、瞬きもせずジッとキョウコを見つめていた・・・。
あの日、キョウコは事務所の命令で、ある豪華客船で行われる政財界のパーティに、コンパニオンとして参加した。
・・・そう嫌がるなよ。コンパニオンと言っても、別に酌をするワケじゃない、会場の花と言ったところさ。まぁ司会者に求められたら、一曲くらいは歌うんだな・・・
マネージャの話では、そんな仕事だった。そんな仕事のはずだった。
実際、パーティが終わるまではその通りだった。
パーティが終わり、客も引き上げてしまうと船のスタッフが寄ってきて、出口まで案内してくれた。
その途中、スタッフに「あっ、ちょっと・・」と言葉をかけられ、「えっ、なに?」と振り返った瞬間、鳩尾に拳骨が叩き込まれ・・・気が付いた時にはこの部屋にいた。
最初は大声で叫んだ。激しい、抗議の言葉を連ねてみた・・が、なんの反応もなかった。
一人だけ、ただ一人だけにされていた。
鉄格子の外も廊下の壁だった。やがて、黙ってしまった。
暫くすると、不安に襲われた。自分がどうされるのか、どんな目に遭わされるのかよりも、このまま誰もいないところで放っておかれる方が、余計に心配になった。
その不安が膨らんで、耐えきれそうになかった。発狂しそうだった。
そしてついに、大声を上げようとしたその時・・・
廊下の向こうで、ガチャリ・・・と鉄の扉が開く音がした。
カツカツカツ・・・規則正しい足音が近づいてくる。
そして鉄格子の前に姿を現したのは、まるでレスラーのような体格の女だった。
どこから見ても「看守」のような制服を着ていた。
「ギャーギャーと騒ぐんじゃないよ、うるさいねっ!! もうお前は奴隷なんだから。ド・レ・イ、わかるネ。2度と、元の世界に戻ることはない。諦めな、諦めた方が楽だから・・・。いいね?」
それだけ言い残して、その女は姿を消した。
キョウコには、最初はまるで意味が飲み込めなかった。
言葉はハッキリと聞こえていたが、その内容は全然理解できなかった。
再び一人にされて、1時間・・いや数時間も経ったろうか、朧気に事態が判ってきた。
・・・誘拐、されたの?
毎日、朝昼晩に・・とキョウコは思っていた。
時計のないこの部屋で、一日中つけっぱなしの照明では、時間の経過を知るのが不可能だった・・規則正しく食事が運ばれてきた。
食事の内容は悪くはなかった。最初は食べたくなかった。
食器を掴むと、運んできた看守に投げつけたりもした。
が、ついに空腹に負け、素直に食事を摂るようになっていた。
毎日、夜になると例の女の看守が現れ、シャワーに連れて行かれた。
シャワー室の前で、命じられるままに服を脱ぎ、狭いコンクリートの箱のようなシャワー室に入ると、外からシャワーを出され、それで身体を洗うのだった。
終わると、必ず新しい下着と服が用意されている。
それに着替えて、牢に戻るのだった。
これも最初は隙を見て、逃げだそうとした。まったく無駄だった。
また命令を無視し、服を脱ぐのを拒否したこともあった。
服を着たまま、頭からシャワーを浴びせられ、ずぶ濡れになっただけだった。
そして何日かした時、鉄格子の前にTVがおかれ、ある番組を見せられた。
キョウコがレギュラーで出演している、バライティショーだった。
その番組は録画でなく、生放送がウリだった。
食い入るように見ているディスプレィに、キョウコ自身が映っていた。
「わかったかい!? お前が帰らなくていいワケが。チャンとお前の替え玉が、あちらで頑張ってるのサ。クローンって知ってるかい? それさ・・・」
キョウコは絶望した。そしてそれからは逆らわなくなった。その気力を失った。
・・・もう、どのくらい経ったのかしら?
もう一度、キョウコがため息をついた。
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