官能小説『父親の面影を追い求め』

知佳 作



桂子(image)





22 武井家の家族を守るためやるしかなかった絶倫男の素行調査

 「なぜこんな人が・・・」 人妻がやらかす不貞についてもはや慣れっこになってるはずの久美の口から驚きの声が漏れた。

 あの日の深夜、武井家を密かに訪れたのは桂子の為ばかりではない。 久美が心底心配したのは武井家の内情だった。

 家の中の荒れようはもちろんだが真理と陽介の気の毒としか言いようのない生活環境変化、しかも悲惨としか言いようのないコトをしでかした当の本人は未だよそ様のご主人を誑かすのを諦めていないのか会社関係者の方からこれこれと苦情を頂いたのだ。

 その桂子だが見間違いかと思われるほど窶れ果て家事もせず憔悴しきってうつろな視線を窓辺に投げかけ床にへたり込んでいたのだ。

 久美がなんとしても様子を見てこなくちゃと、この日になって出向いたのは何度電話しようがメールしようが桂子からの応答が無い日が続き一抹の不安が胸を過ぎったからだった。

 久美の訪問を警戒した桂子は久美との連絡を一切絶ち久美の目が届かないところで好き放題やっていた。

 だが久美の娘 美里を通じ当時僅かに交流があった真理の生活状況をある程度知ることは出来ていた。 それによると真理は母 桂子から男遊びについて追及を受け自分こそ何様と反発し勝手に部屋を借り家を出たと聞かされていたからだ。

 ハウジングランドに短期間ではあるが準社員候補のアルバイト員として勤めていた真理。

 久美も時々買い物に出かけ声をかけたが勤務状態は凄くまじめで笑顔が絶えず自画自賛ではなく自分の下で働かせたいと思うほど好ましく思えた。

 僻地に進出しようと企てる企業などと言うものは如何にも下目線でモノを見 人を見下す。

 あんなに真面目で良い子だったのに見るからに立派な体格に目を付けられ外の業務に回され、つまりその店舗の日陰の身に追いやられそれが辛くて自己退職し今は部屋を借りるどころか無一文のフリーランスだったのだ。

 つまり自己資金が底をついているにもかかわらず美里に対抗心を燃やし (補導員に妾として囲われた その裕福さに対抗し) より贅沢な部屋を借り移り住んでしまっていたのだ。

 むろん家賃を払えるわけもなく高利貸しに手を出し滞るサラ金の返済で首が回らなくなっていた。

 彼女はこのことで祖母の佳乃を通じ共〇党の議員を介し自己破産を申請し精神疾患ゆえの生活保護を受けることになったのである。

 実際問題どうにもならないような病気でもないのに精神科に通わされ服薬 (抗精神病薬) を、しかも母親の桂子に強要されボロボロになっていったのだ。

 個人が自己破産に陥ると当時は準禁治産者とみられたのです。 決定権を持つことが許されぬ、人であって人ではないと見られるということ。

 ローンを組むことはもちろんのこと、貯蓄があるからとクレジットを申し込んでも当時は通りませんでした。

 弟の陽介はというと近くに開業した健康ランドの風呂清掃に深夜帯だけ雇ってもらい僅かな金銭を得て、そのお金で例のコンビニの期限切れ弁当を安価で分けてもらい食い繋いでいたのです。

 腰を痛め非正規雇用にまで転落した倫之にあっては桂子のことなどすっかり諦めその鬱積した気持ちを紛らすため酒浸りの日々を送っていたのです。

 暴力だけは益々ひどくなり桂子がいないものだから矛先が子供たちに向けられていたんです。

 桂子は武井家で唯一配送センターの正規雇用者です。

 主夫であり主婦ででもあるんです。

 宙ぶらりんの武井家ではあるんですが家計を支えているのは彼女なのです。

 にもかかわらず業務中、相も変わらず仕事を投げ出し男との逢瀬にうつつを抜かしていて、業務が引け家事を終えた深夜帯ともなると本腰を入れ脇で寝る旦那に見つからないよう家を抜け出し彼を求め彼の自宅近くに例の旧式クラウンを飛ばし出没し下手な理由を付けては戸外に呼び出し彼に自分を抱かそうとしていたのです。

 桂子は純情さの裏に悲しいことに母から教え込まれたある種の非情さを併せ持ち、この頃になるとそれが表面化し始めていたのです。

 例えばの話し猫を飼っていたとしましょう。

 いつの間にか家に居着いた牡猫です。

 その猫が家に帰ってこなくなり、しかもそれを知ってはいたが牡猫だから牝猫を探し求め遠出したんだろうと探しもせず放置しておいたといいます。

 玄関先にいつも猫のための餌や水が置いてあったのですが食べた様子が見受けられないため心配になった久美は桂子に猫を探してやってほしいと幾度も頼んでいました。

 数日後猫は床下で干からびて死んでいたというんです。

 喧嘩して負け大きな傷を負い家まで辿り着いたんでしょうが傷口から黴菌が入ったんでしょう苦しさに耐え床下に潜んで傷の回復を待っていたんでしょうが不幸にして力尽き死んだのです。 

 それを見つけた桂子は愛猫を汚いものとして団地の外れに捨ててきたと言ったのです。

 「可愛がって餌まで与えた猫が汚いなんて!」 久美は怒りましたが桂子は一顧だにしなかったと言います。

 誕生日になると久美は桂子の為に花束にケーキを添え持って行ってました。

 その花が枯れそうになると桂子は、ガラス製の大きな灰皿に水を張り残った花びらを浮かべ玄関の下駄箱の上に置く、そんな気遣いができる優しさを持ち合わせていました。

 反面死した愛猫を不要ゴミのような扱いをしてしまう、そんな非情な一面もあったのです。

 このままでは武井家はダメになる。

 久美はこの日改めて桂子に男とのやり取りした内容を開示させました。

 「えっ こんな人が桂子にアタックしてきたの?」 日頃モテ度を自慢する久美にして俄かには信じ難い内容だったのです。
 
 女性なら誰でも夢中になりそうな清楚な男の画像がたくさんガラケーに収められていたからです。

 しかもその通信内容は桂子を心底慕っているような内容で埋めつくされていたからです。

 桂子がメールを打つたび相手からすぐにでも逢いたいと返事が返って来ていたようで時間間隔からしてお互い生活を顧みないでメールを打ち続けたであろうとことはひと目でわかりました。

 「もう深い関係になってるんでしょ?」 コクリと頷いた桂子は送られてきたイケメン写真に書いた内容そのままにポツリポツリと泣きながら話してくれました。

 ここに載ってるのが彼なのと、大切に取っておいたであろう地方紙までをも渡してくれたんです。

 少し汚れているところから風で飛ばされていた地方紙を拾い抱きかかえるようにして大事に保管していたんでしょう。

 熱心さゆえのなせる業でした。

 なるほどそこには彼の名が記された記事が比較的大きく取り上げられ載っていたんです。

 聞く限りにおいて、また地方紙を見る限りにおいて桂子は純情さを悪用され性欲のはけ口として利用されていると思わざるを得ませんでした。

 多くの妻の不貞を見てきた久美は桂子に限ってはそう思えてならなかったのです。

 興奮する桂子を追及してみても手も始まらない。

 下手に追及したりすれば益々のぼせ上り、今度こそ本当に家族を仕事を捨て家出してしまう。 そう感じたそうです。

 その日は久美が代わって台所に立ち家族用の食事を作り玄関に花を飾って帰途に就いたのです。

武井家の家族を守るためやるしかなかった絶倫男の素行調査
 イケメンとしてもてはやされる男の本性は何なのか、その疑問を解くため桂子が教えてくれた情報をもとに彼の地に当時付き合ってた彼の車で出かけ素行調査を始めました。

 とはいえ片道2時間走ってやっと辿り着く地区の調査です。

 物珍しさで出かけるわけではなく観光地を走る訳でもなく地図を頼りに走る、しかも不慣れなため散々道に迷いました。

 これまでに分かったことと言えば本人が言うように、彼は自営で漁船を持って漁師をしていたこと。

 跡取りとして実家に残り、きれいな奥さんをもらって子供もいること。

 特に子供は成績が良く、倶楽部のキャプテンをしていること。

 そして更に桂子に隠していたことがふたつあった。

 ひとつは桂子が渡してくれた記事にあった議員を、しかも議長に一番近い座にあって若いのに古参であること。

 もうひとつは、過去に多くの女性問題を抱え今も彼女らは彼のことを諦めきれず追い回しにあっているということ。

 180cmを超える長身と甘いマスク、農業と兼業している漁師であるにもかかわらず連続当選の 地区で一二を争う議員であること。
 
 裕福な家柄、高名な議員で何事において周囲は彼に付き従ったが、唯一意のままにならなかったのがどうやら性欲処理だったのです。

 水商売にしろ、近所の素人さんにしろ聞く限りでは手を出しきっていて問題も山済みだったため、家柄を守りたい奥さんからの睨みが怖くて頻繁に連絡をくれる彼女らと出逢うことすら困難だった・・・終いにはこの地区 (選挙区以外の地区) にも足を運び女どもを漁っていた。

 久美が付き合いのある隣接地区の有力者に話しを聞くと彼らは異口同音に彼についてこう語るのです。

 桂子を選んでくれたのは、彼女が見た目にも奥さんが勘ぐらない嫉妬などしようもない容姿で、しかも彼女自身性欲を抑えきれなくなっていたからのようでした。

 過去に問題を起こした水商売なり人妻なりの女性たちは、奥さんが瞬時に気づき嫉妬するほどきれいどころ揃いだったようなのです。

 それらのほとんどの女性を、将来面倒を見ると桂子の場合と同じようなことを約束し、孕ませてしまっていたのです。

 桂子の告白を聴き、その性癖から恐らく彼は彼女らをも桂子と同じようなところ (葦の生い茂る湿地帯 或いは雑木林の中などなど) に連れ込み同じ方法を用い半ば強引に乱暴を働きつつ関係を結んだものとみられるのです。

 良家に嫁いでたものの理想と懸け離れた夫に嫌気がさしていた時期に偶然を装って近づいてくれた彼と同じような想いで出逢い魔が差したんでしょう。

 「旦那と別れて俺と」 所帯を持とうなどとイケメンに抱かれつつ耳元で囁かれ嫌な気にならない女性はほぼいないと思うんです。

 女性にだって男性と負けないぐらい性欲はあります。

 桂子の年代は丁度その時 (time is it!) だったのです。

 そんな桂子を信用させるため過去に付き合ったことのある女性の名前や住所を桂子が出逢い系で出逢った男たちの情報を開示する代わりに教えてくれていました。

 女を惹き寄せる為の彼独特の作戦だったんでしょうがこれは殊桂子に対しては役に立ちました。

 なにせ隣接地区で教えていただいた情報と行く先行く先聞く限りものの見事合致するんです。

 現地まで飛んで物陰から見張り彼女らが家を出てくるのを待ったりしました。

 道に迷った風を装いほぼ全員に声をかけてみたんでた。

 田舎番組によくあるやり方でです。

 なるほどと思えるような女性ばかりでした。

 桂子とは容姿もさることながら物言いひとつ取ってみても別格でそつが無いのです。

 田舎ゆえ誰でもいいから話しをしたかったんでしょう、世間話しにひとりだけ気軽に応じてくれた人がいてそれとなく議員の名前を出してみたんです。

 「誰にも言わないでね」 と念を押しつつ過去についてある程度語ってくれたんです。

 男好きな顔立ちの彼女が彼の手に堕ちるきっかけとなった出来事、彼の裏の顔をです。 

 だが意を決して告白してくれた、今でも彼を忘れられなくてと語る彼女まで当然約束は反故にされたのです。

 家族が、事に旦那が許してくれるまで石畳に座り続けるような生活を、まるで下女のような扱いを、堪え難きを堪え今に至ったと話してくれました。

 議員の奥さんも、彼の家に嫁ぐだけあって他の女性に負けないほど綺麗で頭が切れ、芸は身の肥やしを理解できるほどできた人だったのです。

 告ってくれた彼女の情報をもとに議員の家を訪問してみてまず驚いたのは彼の住まいが市内ではなかったことでした。

 田んぼの中にぽつんぽつんと家が建つような地区では直ぐに噂が立つので不貞など以ての外です。

 向こう三軒両隣どころか数キロ離れた先であっても家の間取りまで知ってます。

 ましてや閨の話しなどになるとすっかりお見通しのような地区なんです。

 とかく世間体を気にする地区で、しかも議員が頻繁に人様の妻を孕ませる・・・。

 そんな噂が立っただけで議員の席は危うくなります。

 不倫の果ての離婚などで経歴を汚したくない奥さんがその防波堤役をしてくれていたのです。
 
 このまま付き合えば、当然彼女も同じ運命になる。 桂子がコンタクトを避けたという人妻さんの話しを桂子に話して聞かせ窘めたんですが、佳子は聞く耳を持たなかったのです。

 出逢った最初の日、桂子にとって思いもかけず葦の原でこのイケメン男性と深い関係に持ち込めたことが桂子に自信を植え付けていたんでしょう。

 過去に出逢い同じように関係を持った女性のすべてと手を切りたいと言わしめるほど気持ちよくさせてあげることができ、「桂ちゃんが好きだ。 桂ちゃんと付き合いたい」 と告られたことで彼女をしてオンナとしての自信に繋がったのでしょう。

 ですがそれは、相手の男にとって好都合で絶対逃げない女という確証をも掴むことに繋がったのです。

 営業に出かけるたび、ひとつ、またひとつと確実に彼女は衣を彼の手によって剥ぎ取られていきました。

 もうその頃になると彼女は彼を信頼し切り、共に過ごしたいがため避妊を敢えて避け迎え入れていて、それが更なる恋慕に繋がり自分が与えたもうた愛に恋し暇さえあれば彼の実家の周囲に張り付くようになっていったのです。

 人生最初の、結婚と言う夢に破れた悲しい永遠の愛を夢見る女のサガでした。

 妻が四六時中見張ってるというのに彼が右に行けば右に、左に行けば左にと、時に営業車で、時に延々徒歩で後をつけ回したんです。

 自分が今どのような状態にあるかを自撮りし送り付けてです。

 想いが募り後に引けなくなると自宅近くに真昼間押しかけ奥さんとも何度か顔を合わせたりもしたといいます。

 「怪しまれないようにしないと、見つかったら大変よ」 久美が忠告すると、「大丈夫、あたしが相手だと思ってないみたいだから」

 「それって、傷つけたとしても保障の心配ないオンナと思って奥さんもナメてかかってるんじゃないの?」 だが桂子は、「彼が好きだと言ってくれてるんだからそれでいいじゃない! 第一、苦しそうな顔をしお願いしてきてるのに処理してあげないなんてかわいそうよ!」

 「ただ単に性欲処理の道具じゃない? 終わってすぐに理由付け離れ離れになったりしないの?」 「彼は地区にとって大切な躰なんよ! きっと忙しいんだよ」 などと、良い方に良い方に理解しようとするんです。

 過去の女たちがみながみな孕ませられたにもかかわらず、 「オンナが悪かった。 夫や子供までありながら・・・ 呆れた!」 こんな言われ方をし、彼の支持者によって強引に引き裂かれたと例の女性が語ってくれたことを話してみましたが、惚れた女の弱みか一向に頓着する風はなかったのです。

 
懲戒免職と引き換えの配置転換

 苦労して出かけ調べ上げたにもかかわらず無駄骨でした。

 そればかりかこの日を境に桂子はまたプッツリと連絡を絶ったのです。

 彼への思慕・逢瀬を誰にも邪魔されたくなかったからでした。

 トラックドライバーへの道の文中に市内のスーパー回りから山間部に担当区域を変更されたと書きましたが正しくはこの事件により会社はそれなりの被害をこうむり、海沿いに西へ向かい配っていたものを南の山間地に懲戒免職に付す代わりに替えられたが正しいです。

 それもこれも今回書いたような事件を起こした彼女を営業車に乗せ西部地区に回すことができなくなったからでした。

 幸運だったのは傷つき夢破れ捨てられて帰って来た桂子に対し今後一切付きまとうなと彼や彼の妻、そして後援会に釘を刺すことが。

 小さな命を奪うという重罪を犯したことに対し罪を償えと釘を刺すことが出来たところでしょうか。

 彼はこのあと議員の席をこの事件が元で追われることになるのです。



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<筆者知佳さんのブログ>

元ヤン介護士 知佳さん。 友人久美さんが語る実話「高原ホテル」や創作小説「入谷村の淫習」など

『【知佳の美貌録】高原ホテル別版 艶本「知佳」』



女衒の家系に生まれ、それは売られていった女たちの呪いなのか、輪廻の炎は運命の高原ホテルへ彼女をいざなう……

『Japanese-wifeblog』










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